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SS 「お待ちなさいお嬢さん」裏話

もうすぐ1000ポイントなので記念に書いたSS……のつもりが、結構な分量になったので「第七部分前半」のみづき視点としてアップさせていただきます。

なお、こちら本編とは関係のない、みづきが実は脳内ではこんな感じにデレデレなんですよ、というだけのエピソードです。ツンデレのデレ部分というわけです。ご査収下さい


※ちなみにこちら、小説家になろうでの記念SSなのでカクヨムさんには投稿しておりません。ご了承願います

※カクヨムさんではまた別途、評価次第では別の記念SSを書くこともあるかと思います。そちらも見て下されば幸いです

「おはよ。おっさん」


 辰虎に頬を張られた次の日の朝。みづきは、朝のコンビニで自分からそんな挨拶の言葉をかけていた。


「……お、おう。おはよう」


 みづきの方から声をかけられたのに驚いたのか、辰虎はびっくりしたような顔でそう返してくる。


 その様子がなんだかうろたえているようで、みづきは思わず辰虎にまじまじと視線を送ってしまっていた。


(そんなに、驚かなくていいじゃん)


 などと思ってしまう。


(そりゃ、あたし、さんざんおじさんに悪いことしたかもしんないけど……でも、今は別に、おじさんのこと嫌ってるわけじゃないし、むしろ――)


「……な、何か用か?」


 心の中でぶつぶつ呟いていると、辰虎が問いかけてくる。


 思考を打ち切り、みづきは「ん……」と短く言葉を返した。


「見てるだけだけど」


「そうか」


 それきり辰虎は黙り込んだ。


(は――――――――――!?)


 そしてみづきは心の中で叫んでいた。


(そうか、ってそれだけ!? もっとなんか話すこととかあるんじゃないの!? なんか今日、すごい反応が冷たくない!?)


 むくむくと不満が膨れ上がってくるものの、それに気づかず辰虎はそそくさとコンビニの中へと入っていってしまう。


 自分を避けてるようなその態度に、みづきは思わず「むぅ」と心の中で唸る。どうにかして気を引けないもんかと、そんなことを考えてしまう。


 とりあえずとてとてと、辰虎のすぐあとに続いてコンビニの中に入ることにした。


 すると辰虎が、こちらを振り返りつつ訝しげな声で訊ねてくる。


「……なぁ」


「なに?」


「…………」


 普通に返したら辰虎がポカーンと口を開いて絶句した。


(えっ、なんでそういう反応になるの!?)


 みづきは焦る。


(あたしはただ普通に話したいだけなのに……あ、でもそうか、昨日までずっとあんな態度だったもんなあ、普通に返すだけでも、この人は意外に感じちゃうのか)


 思い返してみれば、昨日までの自分はなかなかに酷かった。


 こういう時も、例えば一昨日ぐらいのみづきならば「ウザい」とか「死ねば?」とか「息臭いんだけど」と返していたに違いないのだから。


(うぅ~、昨日までのあたし、なにやってんのよばかぁ~っ)


 思い出すだけで怒りと後悔がむくむくとわきあがってくる。今からでも、辰虎との出会いからしてやり直したいみづきなのであった。


 しかしながら、辰虎が黙っていたら会話も先には進まないわけで。


「……黙り込んでどうしたの? 話しかけてきたの、そっちからなんですけどー」


 仕方なく、みづきはそう言って促すことにする。


「あ、ああ……いや。お前さ」


 軽い咳払いを交えて辰虎がそう言ってくる。


 だけど、なんだか気に入らない。特に「お前」という呼び方が気に食わない。


 別段、自分の名前を好きだと思ったことはみづきにはなかった。だけど今、猛烈に名前を呼んでほしい自分がいる。唐突に浮かんだその気持ちは、なんだか抗いがたい魅力を備えているように思えてしまって、


「みづき」


 気づいたら、そんな風に名乗っていた。


「は?」


 当然、辰虎はきょとんとした顔つきになるが、もはやそれには構うまい。呼んでほしいもの、自分の本名。


 これがいわゆる乙女心というものか、などと妙に納得しながらみづきは言葉を続ける。


「水嶋みづき。あ、みづきは満月って書いて満月(みづき)ね。あたしの名前」


「ああ……それがどうしたんだ?」


「だから、みづきだってば。ほら、リピートアフターミー、みづき」


 呼んで呼んで呼んで呼んで――というアピールを必死で瞳に込め、みづきは一心に辰虎に視線を注ぐ。


 すると、辰虎はややたじろいだような口調で、


「……みづき?」


 と、みづきの名を呼んだ。


 その瞬間、みづきの頭の中で「パンパカパーン!」とファンファーレが鳴り響く。同時に胸の内に甘い気持ちが広がっていく。


 他の誰に「みづき」と呼ばれても、決してこんな気持ちになったりはしない。


 だけど辰虎から呼ばれると、どこまでも嬉しくなってしまう。なんだかとてもいい気分になる。まるで胸がいっぱいになるまで甘いものを食べたときのような、全身に広がっていく甘さがある。


(みづき……みづきだって。へへ。わー、みづきだって! みづきだって、みづきだって、みづきだって!)


 大興奮で、頭の中ではそんな言葉を連呼していた。


(うーっ、うーっ。もっと……もっと呼んでくれないかな? あまりたくさん、名前を呼んでって要求するのはやっぱり迷惑だよね? ウザいかな? ウザいよね? あーでもすごいなんか呼ばれたいよぅ! どうしたらもっと呼んでくれるのかな? ……うぇへへへへ)


 思考はとろけまくっていて。


 なんだか、世界までが甘やかに、華やかに、色づいたかのような心持ちで。


 みづきは満足げに口元を緩めながら、なぜだか、


「よし」


 と、気づけば口を開いているのだった。


 ……なお、この時の辰虎は完全にみづきの態度に困惑していたのだが、それはまた別のお話。

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