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004 後悔すら無意味

 自分の人生を振り返ってみれば、どこで道を間違えたのかと思うことがある。

 おそらくそれは生まれた時には既に間違っていたのだろうとは思うのだけれども、適正な時期に修正なり矯正をしていれば、今よりはマシな人生であったのではないかと考えたりする。

 正直言うのであれば、そんなちょっとやそこら修正したところで何かが変わったとは思えないのだけれども、可能性という奴にかけてみればそう思わずにはいられない。

 そんな事を仕事をしながら田所さんに言うと、田所さんはパソコンのモニターに向かったままで僕の方を見ることもなく、鼻で少し笑って言ったのだった。


 「後悔ですら無意味ですよ、杉岡さん」


 M属性である僕は、そんな何気ない言葉に酷く傷つきながらも、少し濡れていたのである。

 目尻が。


 「容赦ないなぁ、田所さんは。おじさん、心臓が止まるかと思ったよ」


 「まるで生き物みたいですよね。見た目はただの肉塊なのに。まさか思考があるなんて‼」


 「この半年の間、何度もお話ししたよね?」


 「私は仕事をしていましたので何のことかわかりません。肉塊の面倒を見てたのも私です」


 「確かにその通りだね。田所さんにはアナルを向けて寝れないよ。だけどさ、誰にだって人生をやり直したいと思うときはあるでしょう?」


 僕は愛想を振りまきながら、ちょっと可愛らしい声で言った。


 「まだ二十歳なので、しかもこれまでの人生は順風満帆だったので、そんなことを思ったことはないですよ?」


 田所さんはモニターから目を離し、僕の方を見ながら正にリア充と言うドヤ顔で笑って言ったのだった。


 「世界は不平等だ!!格差の是正を要求する!!」


 「杉岡さんがそんな事を声高々に叫んだところで、世の中は変わりませんよ。まだTwitterの方がマシって言う奴です。自分にそんな影響力があると思っているのですか?」


 「当然だ!!」


 私は胸を張ってそう言った。


 「どんだけ自分と言うものを解っていないのですか?まだミジンコの方が自分の事を理解しているくらいですよ?原子レベルからの再構成を要求したいくらいです。ミジンコにはミジンコの、杉岡さんには杉岡さんに相応しい文化レベルというものがあるのです」


  そう言われると身も蓋もなくて、M属性の私としては嬉しくなって、涙を浮かべ、思わず腰が浮いてしまった程だった。

 少し漏れたかも知れない。

 田所さんはまだ二十歳で、実際のところはまだ専門学校に通っている学生さんだったが、四ヶ月前に就職活動で私の勤め先に何を血迷ったのか面接に来て、翌日から働き始めていた。

 高卒で現場上がりの私とは全く別の生き物であると言って良く、パソコンを使った作業ではさすがに専門学校を出ているだけあって、ぜひ、土下座したいレベルである。

 既に試用期間も終わり、専門学校卒業と共に正社員としての採用が決まっている。

 元々、女性社員がほぼいない職場であったので、職場に一輪の華が咲いたと言って良い。

 まさに鬼百合のような人であったと言っておこう。


 「僕はミジンコより下なの!?」


 「まさか!?ミジンコは例えで出しただけであって、そんな高等レベルなわけないじゃないですか。せいぜいゾウリムシってとこですよ?」


 「僕は単細胞生物か!!僕は細胞分裂で増殖するの?」


 「それはそれで社会の迷惑ですよね。指定外来種みたいな」


 「……普通に答えられるのもショックだな。自分で想像してもキモイけど」


 「変態が増殖してお巡りさんも大忙しになっちゃいますね。世の中の性犯罪のほとんどを杉岡さんが引き起こす計算になっちゃいます。まさにバイオハザードっていう奴です」


 「僕は綺麗な変態だ!!犯罪なんかは起こさないよ!!」


 「いや、変態に綺麗も汚いもありませんから。普通にみんな同じです。絶対に私の弟の近くに近寄らせませんからね!!」


 田所さんは警戒心を最大マックスにしてそう言った。


 「そこまでレベルはまだ高くないよ!! そんなことより、田所さんって弟がいるんだ」


 「まだ中学生なんですけどね。かわいい顔をしているから学校の女子に人気があるみたいです。私が近寄らせませんけど。悪い虫は近寄らせねぇって言う奴です」


 「いやいやいや……弟くんも中学生なわけだし、お姉ちゃんに口出しされるのを嫌がるだろう?」


 「そんなことはないですよ。弟と私は仲良しですから。弟は私の言うことを聞いてくれます。近寄ってくるメスは、ママと私でシャットアウトです」


 弟萌えと言う田所さんの新たな一面を発見した僕だった。


 「携帯も誰から着信とかメールが来ているかチェックしますよ。メスだったら速攻で削除です」


 笑顔で怖い事を言う田所さんだった。


 「僕の親なんて、もう諦めているのか何も言わないけどな」


 「細胞分裂した後なんかには、興味がないんでしょうね」


 「……早く人間として扱って欲しい」


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