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この世とあの世の生活

この世とあの世の生活〜第8話〜

作者: 福紙

空が焼かれているように赤黒い地獄。炎渦巻く燃え上がる山や剣山のように刃物だらけの森林、川はどす黒い色や真っ赤で熱い色をしている。その上空を黒く巨大な龍が泳ぐように体をくねらせて飛んでいた。


その龍が向かった先は地獄の総本山・閻魔庁。黒い龍はその付近を旋回するように降り立ち、地面に着く頃には上半身は黒い着物で、下半身は黒い龍の名残を残す半人半龍の女になった。獄卒の杏慈(あんじ)である。上体を起こして下半身を蛇のようにくねらせて進む。閻魔庁の獄卒用玄関前の獄卒の鬼に尋ねる。


「今日は閻魔大王様はいらっしゃるか?」


「はっ。今はお裁き中でございます」


「そうか。ならば、裏で待たせてもらう」


と杏慈は中へ入った。閻魔庁内を進んでいると、白い着物に刀を腰に差した白刃(しらは)がいた。


「白刃ァァァーーー!!!」


「ふぉっ?!杏…」


と杏慈は獲物を見つけた蛇のように下半身をくねらせて猛然と白刃に向かい、彼の周りをグルリと回って締め上げた。


「ぐあぁああ!!!」


「お前!ちっとも顔見せないじゃないか!」


「ちが、違う!!閻魔様…っ!苦しい…!!鱗が痛い…!!」


「で、現世の生活は?」


「その前に…解放…し…てくれ…!!」


「このまま事務所に行くですよ〜」


「や、やめろ…!!杏慈…!!話…なら…ここで…」


「今日は閻魔様にお話があって来たのー。事務所事務所」


と杏慈はズルズルと白刃を引きずりながら事務所へ向かった。


「くくく…情けぬな…白刃よ」


「…何とでも言ってください…!」


「私の鱗、抜けて刺さるから」


裁きが終わった閻魔大王は自分の机に戻り、前に立つ、黒い鱗があちこちに刺さっている白刃を笑った。杏慈はケラケラと笑う。


「そして杏慈よ。何故ここへ来たのだ?」


「おっと忘れるところだった。各地獄の管理獄卒から聞き取りしたんですが、最近に始まった事ではないんですが、亡者の運搬について見直したいとの事で」


「亡者の運搬について?」


「はい。ここでお裁きを受けた亡者は死装束の背に“大焦熱(だいしょうねつ)”や“叫喚(きょうかん)”と書かれて、各地獄の荷車に乗せられて行く仕組みですが…道中、荷車から落ちる亡者が多発しており、違う地獄に堕ちると言う事案が多発していて、二度手間になると…。それが最下層に向かう程、多いそうで」


「ふむ…荷車での移動は大焦熱地獄までだったな?阿鼻(あび)地獄は専用の穴に突き落とすが…」


「それでちょっと運搬方法の見直したいとの事です。それに現世に行っている閻魔様なら何かいい方法があるのではと!」


杏慈からの報告に閻魔大王はうーんと唸った。


「荷車はどのようなものだったかな?」


閻魔大王は白刃、杏慈、こん助を連れて裁きを終えた亡者たちが集まる場所へ向かう。各地獄の鬼が叫ぶ。


衆合(しゅうごう)地獄の亡者はこっちだ!!」


「ぐずぐずするな!!」


と鬼たちの恐ろしい声が響く。


「大焦熱地獄の荷車はこれか?」


「はっ!閻魔大王様?!何故こちらに?!」


大焦熱地獄に向かう荷車の獄卒の鬼はかしこまる。


「荷車を見せてもらおうか」


と閻魔大王たちは荷車を見た。大きな火を鼻から吹く馬が2頭、そこに手綱を持つ獄卒の鬼、その後ろには連結した屋根のない燃える車輪の荷車がついていた。


『『『あっ、これは落ちる』』』


現世で生活をし始めた閻魔大王、こん助、白刃は思った。“バス”や“電車”と言う乗り物を見ているからである。閻魔大王は咳払いをし、


「ふむ…ならば私が乗ってみよう」


と言った。


「え、閻魔大王様が?!閻魔大王様には専用の…」


「いや、乗り心地を確かめる。こん助、白刃、杏慈は後からついて来い」


と閻魔大王は荷車に亡者と一緒に乗った。こん助と白刃は、


『『嫌な予感しかしない』』


と思った。大焦熱地獄行きの荷車は亡者と閻魔大王を乗せて出発する。火を噴く馬が走り出すと、馬と荷車が浮き、赤黒い空に向かって走る。その後ろには黒い龍になった杏慈にそれに乗るこん助と白刃がついて行く。荷車は思った以上に揺れる。そしてかなりのスピードである。荷車のど真ん中であぐらをかく閻魔大王はまだ余裕である。強面の亡者がいたが、皆恐怖に顔を引きつらせている。


「貴様らはこれから大焦熱地獄に行くのだ!最下層ではないが、それ相当の罰が待っている!覚悟しておけ!!ふはははは!」


と閻魔大王は笑う。と、ガコンッと荷車が大きく揺れた。


「あっ」


その大きな揺れで亡者が2人荷車から落ちた。


《ここまだ黒縄(こくじょう)地獄の上…》


「あとで大焦熱地獄行き亡者2名落下って報告しておきます…」


「獄卒の鬼どもは気づいてないのか?!」


と杏慈とこん助と白刃は記録をするが、嫌な予感が的中する。ポロポロと振動などで亡者が落ちて行く。さすがに閻魔大王は手綱を持つ獄卒に言う。


「貴様!亡者たちが落ちてるぞ!もう数名しか残っておらぬではないか!!」


「いやぁ、今日は空もいいしまだマシな方ですぁ!たまに着いたらいないって日もありますぁ!」


「馬鹿者!きちんと送らぬか!!」


「あとで陸路で回収しやす!」


「そう言う問題ではなかろう!!!」


「あ、閻魔大王様!しっかりとお掴まりになっ…」


ガタン!!


荷車が上下に激しく揺れた。数名の亡者が吹っ飛ばされたが、その中に、赤い着物に冠を被った高貴な姿の人物が混ざっていた。


「貴様ぁあああああああああーーーーーーーー…」


「「《閻魔様ぁああああああーーーー!!!》」」


閻魔大王は衆合地獄上空で振り落とされた。


これを機会に運搬する荷車の大改造が行われた。動力は火を噴く馬と変わりはないが、荷車に屋根と転落防止の扉…バスをモデルに作られた。


「さ、さすが閻魔様です!あんなところから落ちても…かすり傷で済むとは…」


「…鉢頭摩処(はちずましょ)の瓶の中に落ちて助かったわ…危なく一緒に杵でつかれるところだったがな…」


「大丈夫じゃないじゃないですか…」


「でも、これで亡者が間違って落ちないので、速やかに刑が執行できますー。現世の知恵ですねー!でわ、私はこれで」


と杏慈はぺこりと閻魔大王にお辞儀をした。そして白刃に、


「白刃、またねー」


と手を振ると、「あぁ」と小さく白刃は言った。


「白刃よ」


すかさず閻魔大王はニヤリとして言う。


「次は手土産を持って行くがいい…そうだな…かんざし?(くし)か?」


「いえいえ、閻魔様。現世ではシュシュですよ!」


「しゅしゅ?何だそれは?」


「閻魔様、現世に行くお時間ですよ…!」


と白刃は頰を赤くし、事務所の奥へ行った。閻魔大王とこん助はクスクス笑った。


『現世の髪飾りか…悪くはない…』


と密かに思った白刃であった。

空路と陸路があるそうです。

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