九十二話「抹消と未練」
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教団亡霊のプラモデルは二依子の作ったプラモデルです。
それぞれ似たり寄ったりで、ザジがやられるまで使っていたボディも色違いで似たような見た目をしています。
ロボットアニメ的に言えば、主人公の機体のプロトタイプが一杯あって、それぞれが手に渡った所で魔改造されてました的なモノ。
思い出される記憶。
教団亡霊の日下部喜一は自身の入滅の日、山奥の廃車の前に来ていた。
廃車の中には、先に入滅したメンバーの遺体が転がっている。
入滅は日程をずらして一人ずつ行われた、喜一は最後から二番目の入滅者である。
......
「怖くなったんだ......廃車の中で先に入滅したメンバーが......」
「酷く腐敗して匂って......つい俺はその遺体の顔を見てしまったんだ......その時に急に目が覚めて。」
喜一の言葉に愛華と菊名は不思議な顔をしている。
そして愛華が喜一に問う。
「目が覚めた? ってどういう? 」
「俺は......俺達は"洗脳"されてたかもしれない、その時まで死ぬのは全く怖くなかったのに、急に恐ろしくなって......」
「その時に居た彼女と一緒に、二人で逃げ出そうって! こんなのおかしいって! みんな変だ! って彼女に問いかけて......それから......」
喜一の顔は、目を見開いて何か憑き物が落ちた様な、騙されていた事に気が付いたような表情をしていた。
「彼女も気が付いたみたいで、目を覚ましてくれたんだ! そして二人で山から降りようって駆け出して......」
喜一は以前の情緒不安定から、錯乱に変わった様に見えたが......
決してその話は嘘ではない、体験談として語ってると気が付いて、愛華と菊名は悟る。
「途中で船の霊体とアイツが目の前に現れて......」
「船の霊体の変な声を聞いたら、急に意識が無くなって......気が付いたら、もうこの体だった......」
「......! 」
喜一の回答に驚きを隠せない愛華と菊名。
そして改めて問いかけた。
「貴方達を洗脳したのは誰?」
喜一は上を指して言う。
「アドミニストレータ、今はそう呼ばれている、でも......」
「アイツの本当の名前は、久遠坂 芝欄......アイツは憑依アプリの......」
アドミニストレータの名前を語る喜一、ここで彼の声が急に途絶える!
「 ! 」
「喜一さん!? 」
ピタリと止まった喜一、彼のプラモデルのボディは急に煙を吹き始めたのだ!
「ああ......あ......」
喜一の霊体がヌルリとプラモデルのボディから抜けていき、やがて虚空に消えた。
そして崩れるようにプラモデルのボディが倒れる!
ボディの背中には黒く焼け焦げた何かが見えた。
愛華はその背中部分を凝視する。
「......これはデータ通信カード?」
焼けていたのは携帯電話に使われるSIMカードのような通信部品。
喜一の霊核データが入った電子部品が、同様に備え付けられたコンデンサーからの発火によって、彼の教団亡霊としての存在は......
「抹消」するかのように焼き尽くされたのである。
「なんて事を......」
項垂れる愛華と菊名。
二人は彼が元の体に戻った事を、静かに祈るしかなかった。
「嘆いてても仕方ないわ......サーバーを破壊するわよ愛華」
「うん......こんなのもう終わらせよう......」
悔しい気持ちを噛みしめ、愛華と菊名の憑依したフィギュアは、サーバーの電源装置に向かって行く......
「久遠坂 芝欄......覚えてなさい」
最期に菊名は、黒幕の名前を心に刻みこんだ。
******
上空を飛ぶ飛行船ドローン、その内部では、レストルームで状況を心配そうに待つザジ達の亡霊仲間......
フォッカーと飛行船ドローンから身を乗り出して、ユナの状況を監視する仲間のパルドの姿があった。
「ザジの回復はどうなってる? 」
パルドがフォッカーに問う、フォッカーはもどかしい表情を見せた。
「そ、そんなのわかんねえよ......ザジがオリジナルボディに戻る事なんて、俺が出会って初めてじゃないかな......」
二人はレストルームのコアになっている、ザジのオリジナルボディの安置された棺のような箱の前で。
やって来るであろうザジの帰還を待っていた。
(......)
事は約一時間程前になる。
「レストルームコア! オープン! 」
ザジが自らのオリジナルボディに戻る為に、レストルームの奥に沈む様に眠った。
彼が死後すぐに憑依したというオリジナルボディ、THE・GREAT・KNIGHTのプラモデルの中に戻ったのである。
(俺の本当のボディ......)
この藍色のプラモデルは、二依子による強化改修が行われており、動きやすく扱いやすくなっている。
(二依子に感謝しなきゃな......)
だがすぐに動ける訳ではない。
(霊体のダメージが大きい......)
ザジの霊体は損傷が激しく、補修の為にオリジナルボディに戻る必要がある。
伝承の吸血鬼や怨霊が、自らを葬られた棺や墓を大事にするように......
亡霊のザジにとっては最初に入ったボディこそが、墓であり棺であるのだ。
(早く治さなきゃ......)
そして戻ると言うことが再び「過去や未練に出会う」という意味であり、場合によっては思い出したくもない過去との対峙と言う意味でもある。
(俺の......未練?)
ザジが自身の棺にも等しいオリジナルボディに入る事で、思い出される未練......。
だがしかし。
彼にはそれは無かった。
空虚と言えばそう......
彼にとっての人生は、当に忘れたモノで特に思い入れがない。
イマイチパッとしない人生と、「仕方ない」終わり方で......
思い出の片隅にひっそり燻っているに過ぎない。
地方の中学生で都会に憧れ、お小遣いを貯めて好きなプラモデルを買いに、何分もかかる距離を自転車で遠出する。
事前にネットで吟味して気に入ったモノには一直線な「直情ボーイ」。
遠出の帰りに車から放り出された子供を庇って、大型車両に衝突し即死という......
実に呆気ない、かつ子供を庇うという彼らしい最期だ。
「この時に放り出された子供は、ちゃんと歩道に放り投げてるから大丈夫だし......無事だろう」
オリジナルボディの中で霊体の修繕を行いながら、彼は「自身の未練」を探る。
「なんだろう? 俺の本当の未練って......」




