八十二話「現れしモノ」
船の巨大霊体の内部は想像以上に脆く、鳥の骨や布、紙等で構成されており。
それらを霊糸で縫い止めた船体は、元々あった古い木で出来た竜骨のプランキングを覆う様に作られている。
全長約二十メートル以上のロングボートは、歪な外枠により本来の姿とはかけ離れた呪物の集合体にも見えた。
それでも小さなボディの憑依プレイヤーや亡霊達には、戦艦クラスの巨大な艦船である。
内部に侵入した菊名は、真っ先に自身のフィギュアボディの状態を確認する。
「大丈夫......ダメージは少ない」
突き刺さった沼島ナックルの圧縮空気もまだ余裕があるのを確認。
愛華の居るサーバーの位置を感じとると、菊名は内部を突き進む為に沼島ナックルを振りかざす。
「今行くわ! 愛華、待ってなさい! 」
フィギュアのボディの少女の強襲が始まる。
「行けえええ! 」
真っ先に翼のようなパーツにマウントされたミサイルパーツが射出され。
激しく爆発したのちに、燃えやすい木材や布地で構成された船体に引火。
とても小さな火災であれど侮りがたし、沼島ナックルの圧縮空気を吹き付けて引火を増長。
船内火災を起こし混乱を誘い、敵が対応に追われる中でサーバーを探す作戦である。
「まさかこけおどし程度の花火のミサイルを、こんな形で使うなんて考えても見なかったわ」
火災の規模が安定したのを確認した菊名は、船内を捜索し始める。
「まるで鳥の巣ね、乾いた藁の様な軽いモノばかりで船内が出来上がってる」
ここで急遽鳴り響く鳥の声!
クエエエ! クエエエ! と、けたたましく鳴り響く。
「 ! 」
菊名の突入に対して船内に警報が走ったのだ!
周囲に散乱していた鳥の骨がカタカタと音を立てて組み上がり、骨の兵士になって菊名を探し始める。
「こんな雑兵に付き合ってられないわ、愛華を見つけなきゃ! 」
沼島ナックルの圧縮空気を噴射し、菊名は船の内部へと突き進んでいった。
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「続いて行くぞ! 今ので結界が綻んでいる! 」
ザジが復帰してきたのか、吹き飛ばされたビルから全力移動で駆け付けた。
「ワシに任せい! ゴキ・スピードスターの陰陽ビット展開じゃ! 」
頭目のヴァリアント・ドーマンが霊力スキルを解放する、プレート状のビットが行く手を阻む結界の綻びに突き刺さる様に入り込むと。
「開けえええ! 」
霊糸で輪を形成しながら結界を抉じ開けて、入り口を作り上げる。
「今じゃ! 船に取り付け! 」
頭目が抉じ開けた綻びにプレイヤー達が入り込もうとすると、再び船の巨大霊体が火の魂を吐き出してきた。
「さっきから何なんじゃ! この爆発する火魂は! 亡霊なのか! 」
慌てて避ける頭目のヴァリアント・ドーマン、ザジはその火魂を見て悔しそうな顔を見せて言う。
「その火魂は、この船に食われた"亡霊"の成れの果てだ! 」
「ボディも与えられずに霊体のまま捨てられて、残った霊力を燃やし尽くして消える......」
「その最後の灯火を、機雷みたいにばら蒔いてるんだ! 」
同様に憤慨するねぱたが言う。
「酷いやっちゃなー! 巨大霊体はどいつもこいつも亡霊を食い尽くす奴ばっかりや! 」
火魂が行く手を阻む、陰陽ビットで抉じ開けた結界の穴は健在で、遠隔操作する頭目に火魂がゆっくり近寄って来る。
「伏兵隊! ヴァリアント・ドーマンを守れ! 」
「了解! 皆さんお先に! 」
激しく爆発する火魂、それと当時に頭目を庇ったプレイヤーのプラモデルのボディが砕け散る。
AWAJISIMAから展開していた伏兵隊の憑依プレイヤーが、次々に火魂に攻撃し、爆発に晒されてダメージを受けた。
「小僧! 早く広げた結界の綻びを潜るんじゃ、ビットが持たん! 」
「わかった! 」
ザジもねぱたも行く手を火魂に遮られて、戸惑う。
"いつか自分もこうなってしまうかもしれない"
巨大霊体を前にして、その亡霊の成れの果てを見据えながら、剣を構えるザジ。
「だが助けなきゃいけない人達が居るんだ、だから君達を振り払わせて貰うよ......」
一太刀、又一太刀と火魂を切り伏せて、続く爆発を防御していくザジ。
ねぱたもまた、ザジ同様に火魂を攻撃し、振り払って行く。
「すまんな、せめてその未練、アイツにぶつけるさかい。」
ザジとねぱたが結界の綻びに到達するが、目の前に見慣れぬ存在が現れた。
「 ! 」
そこに居たのは赤いプラモデルのボディの亡霊。
歪な電子機器をボディに張り付けた前衛芸術の様な姿のロボットのプラモデルは。
船の巨大霊体の結界の上に立ち、綻びを潜ろうとするザジとねぱたを待ち受けていた。
「させません! 貴方達が乗り込む事は断じて許しません......」
謎の亡霊に邂逅するザジとねぱた、赤いプラモデルから取り憑いた女性の亡霊の霊体が見えてくる。
「何やコイツ、亡霊やのにウチらの敵何か!? 」
ねぱたは唐突に現れた敵対する亡霊に戸惑っている。
だがザジはその存在に面識があった。
「秋山青々花......! 」




