七十六話「憑依玩具戦線(ポゼッション・トイズ・バトル・フロントライン)」
******
ゆらりと運営ビルの周囲を泳ぐ様に回っている船の巨大霊体。
だがここで急に動きを止める。
「動きを止めた? 」
ここで姿を現したのはザジ達、非常階段から様子を伺っていたらしくひょっこりとプラモデルやフィギアやヌイグルミの姿を見せる。
「うわわ! 」
ユナのヌイグルミのボディが強風に煽られてしゃがみこむ、菊名のフィギアのボディも強風に耐える姿勢で床に張り付いた。
「バトルって屋内がメインだったから、こんな風の強い所で戦う事なんて無かったわよ」
ザジが先頭に立って薄いバリアの様なモノを張ると風を受け流した。
「バリアを弱く張って風避けを作ると飛ばされないけど、霊力消費があるから多用は禁物だ......それより」
「てっきりアイツは俺達の霊力に反応して動きを止めたと思ってたけど違うみたいだな」
ザジ達四人は隙を見て乗り込む準備をしていたが、乗り込む先の船の巨大霊体の様子が変わった事で、警戒を強めていた。
「以前俺達が出会った巨大霊体はかなり攻撃的で......体内で高い熱を取り込んで増幅し、撃たれた弾丸を溶かして液状にして噴射してきたり、焼けた砂利を散弾にして飛ばしてきたりしてきたけど。」
「こいつはどう出てくるのかわからないな」
ザジが船の巨大霊体の様子を見ながら説明すると、ダニエルが会話に食いついてくる。
「同種の霊体を相手をした経験者だったのか君は!? それは非常に興味深いよザジ君、で......実際勝ち目は有るのか? 」
ダニエルの問いにザジが答える。
「正面から飛び込むのはきっと無理じゃないかな」
「アプリの憑依ボディなんて、すぐにアイツの物理的で強力な霊力スキルで凪ぎ払われてバラバラにされるだけだ。」
ザジは両腕を広げたジェスチャーをする。
「うむ、感じ取れる霊力だけでも雲泥の差だからな、解っては居たけれど悔しいモノだ」
その返答に以下にも「知ってた」と言うダニエルが苦笑いが聞こえる。
「バリアが切れて防げなかったらただの玩具なんだから、そこは俺達亡霊も同じだよ」
ザジは謙遜な言葉の後、相手の様子を見て語る。
「俺達を一発で薙ぎ払われる様な過大な熱を使った霊力スキルを行う事はないと思うんだ、仮にもサーバー的なモノが内部に有るならだけどね」
熱を使った霊力スキルが電子機器には良くないという、憶測が飛び交う、同様に放電する霊力スキルも電磁波影響があると見て良い。
「出方を伺って隙を見せた所で飛び込むつもりだけど、急に動きを止めたのは......何かに気付いたのか? 」
ザジの憶測を並べて見たが、どうやら船の巨大霊体がザジ達の霊力に気付いた訳ではなく、ただ「何かを待っている」様にも取れる。
待機しているザジに、ユナが亡霊達が使う小さい端末機を持ってやって来た。
「パルドさんに緊急出動を要請しました、二依子さんの家では停電が起こってるらしく心配してるって......」
ユナの言葉にザジも真剣な面持ちで考える。
「悠長に待ってられないな、今でこそ動きを止めてるけど、もしかしたら飛び立つかもしれない」
「飛び立つ? 何処に行くのかね? 」
ザジの答えにダニエルが問う。
「以前の巨大霊体が言ってたんだ、自分達は霊体を集めて"天に上がる"って」
「天に? 上空に上がるというのか? 何故だ? 」
ザジの答えに疑問を持つダニエル、巨大霊体の行動に興味がある様子。
「それが謎なんだ、どうして飛びたがるのか......しかも浮いている巨大霊体だ、今すぐに飛ぶ可能性もあり得る」
ザジは以前の巨大霊体とは全く根本的違う相手にやや困惑している。
「動きを止めた理由が解ったかもしれないよ、さっきスキル解放を宣言した時に行動可能なプレイヤーから反応があったんだ。」
ここでダニエルはそう言うと、腕時計型端末機の端末部分をアーミートイの腕に付けて盾の様に持って見せる。
端末のモニターには、運営権限のアカウント監視モードが起動しており、三十名程のプレイヤーが今だに活動している事が解る。
「彼らも憑依ボディに入っているのなら、あの船にみんなの霊体が取り込まれたのが感知して解るはずだ、きっと取り戻しにかかるはず......」
そのダニエルの見解にザジ達が驚く。
「停止したのは、誰かが先行して攻撃してるって事じゃないか! とにかく急ごう! 」
非常階段をかけ上がるザジ達、屋上かそれに近い場所なら様子を伺えてフライトしながら乗り込めるかもしれない。
そうして屋上にまで上がったザジ達だが、そこには意外な一団が構えていた。
屋上は施錠されていたのだが霊力スキルで抉じ開けたらしく開けっ放しの状態である。
「着いたよ屋上! もうここまでの移動だけでも一苦労だよ」
ユナと菊名はクタクタになりながらも、ザジ達の後ろに追従していたが、先行していたザジとダニエルが屋上で固まっている。
そこにはとある一団が待ち構えていた。
「やっと来たな運営! あの船の説明をしてもらおうか......」
そこに居たいくつかの影、憑依ボディで屋上に、プレイヤーが二十数人程が集合していたのである。
それぞれが錯乱しながらダニエルに問いかける。
「俺達オープニングバトルで準備していたんだ、運営からのメールでランキングバトルの初戦が早めに行われるって聞いて集まったのに......」
「おい運営なんだろ! あの船なんだよ! ウチのマネージャーが吸い込まれていったぞ! なんなんだよ! 」
「観客に来てた仲間が急に倒れたぞ! みんなアレに吸い込まれたって本当なの! 」
集まった男女共々のプレイヤー達は、周囲の状況に困惑していた様で、何も知らずに骨の雑兵に追い立てられ上まで来ていたのである。
「話を聞いて欲しい! 君達! ......ちょちょっと! 」
ダニエルは説明を求められ、取り囲まれる!暴徒に囲まれる様な状況でダニエルに責任を求める声が高まってる。
「下はどうなってるんだ? 」
囲まれるダニエルを尻目にザジは船の方を確認、どうやら船が反応したのは別のプレイヤーが攻撃した様で、隣接しているそう遠くない隣のビルから憑依ボディのプレイヤーが長距離攻撃をしているようだ。
「ちょっと聞きたいんだけど......下のプレイヤーが船の霊体に攻撃しているようだけど、誰か知らないか? 」
ザジはその場にいた他のプレイヤーに問いかける。
(首を振るジェスチャー)
そのプレイヤーは同じプラモデルのボディを使うプレイヤーで狙撃銃が目につくスナイプカスタムボディである。
「......ああ君はあのバトルの準決勝で運営とやってた亡霊のプレイヤーか、試合見てたよ凄いねー、カッコ良かったよ」
暴徒化したプレイヤーと違って冷静な言葉をかけてくるスナイパープレイヤー。
ザジも"この人は話せる"と察知したのか、状況を説明することにした。
(こう言う時は後ろに居る人が一番察しが良かったりする、カンチョウの入り知恵だけど)
「あの船の正体について知ってることを説明するよ......」
その場に居た冷静に聞いて貰えるプレイヤーを集めて、ザジは事の重大さを説明する事にした。
「あの船の霊体は所謂災害みたいなモノなんだ、人の魂を回収して回る死神みたいに見えるけど、実はれっきとした亡霊の個体なんだよ」
「つまり餌を求めてやって来た害獣と変わらないんだ、仲間の魂を奪われた事で運営に責任を問いただすより、先にアイツから取り返さないと何も取り返せない」
ザジの説明は荒ぶっていたプレイヤーにも聞こえ、次第に耳を傾けてくれるようになっていた。
ザジは更に言葉を重ねる。
「もしアレが"魂で遊んでいる俺達にバチを当てに来た神様"みたいに思ってる人が居るなら聞いて欲しい......」
「アレはそんな"高尚な存在"じゃない、人の世の魂の循環の間に巣くう"寄生虫"なんだ! 」
「だから......」
「好き放題殴りかかって問題ない! 」
ザジの声は演説じみた形になってしまったが、十分に伝わったのか回りにいたプレイヤーも落ち着き始めていた。
「本当にアイツから取り戻せるんだよな......」
やはり中には疑心暗鬼になっているプレイヤーも居るようだ、今すぐに逃げたい、そう言う気分で仕方ないのだろう。
「ここで逃げても誰も責めないよ、なんとか俺達で頑張ってみるから......」
ザジの返答に逃げ腰のプレイヤーが戸惑う。
やはり恐怖が有るのだろう。
だがここで真打ちの登場がやって来たのである。
「よう言うた! 小僧!演説聞いとったぞい! 」
声の主は、屋上に駆けつけた大型憑依ボディ戦艦AWAJISIMAの上で。
腕組みをしてポーズを決めたヴァリアント・ドーマン事、そのプラモデルに憑依した陰陽師チームの頭目その人である!
「ワシが来たからにはもう安心じゃ、行くぞ小僧! あの船を沈めてやるんじゃ! 」
ここでの頭目は輝いていた!
怖じけ付いたプレイヤーに戦う意思を目覚めさせ!
ザジ達にも活を与えた。
とても先程まで、別の階で二度目の姉からの呪いの矢文が飛んできて、「船を何とかしないと市中引き回しの刑よ」とか言われてビビっていた姿とは大違いである。




