七十四話「ダニえもん」
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ビルの側面を泳ぐように旋回する船の巨大霊体、ザジ達はその姿に驚愕しながらも様子をうかがっていた。
「間違いない......あの霊体の船から沢山の生き霊の気配を感じる」
ザジが真剣な顔で窓から船の巨大霊体(以下巨船霊体)を観察していた、今すぐにでも乗り込みにかかりたい気持ちを押さえて居るようだ。
「あの霊体に取り込まれる事ってあり得るの? アプリの憑依って物体以外だとすぐに戻されるはずじゃない? 」
菊名がフィギアのボディでジェスチャーしながらザジに問う。
「あり得るとすれば、中に憑依させる媒体があって、ここからじゃ見えないと考えるべきだと思うんだ」
ザジの返答にダニエルが間を繋ぐ。
「そうかわかったぞ!! 内部にある程度の容量のあるサーバーか、その変わりになるモノがあるならあり得る! 」
ここでユナが二依子の様子を見ながら首を傾げて問いかけた。
「中に回線の繋がった端末があるってこと? 」
ここでダニエルは語る。
「受けるだけならスマホ一つでサーバーの代用は大体可能だろう、重量的にあのような浮いた霊体にはPCなど重すぎだと思うね」
すると菊名が武器を持ち出して準備を開始した。
「つまり入り込んで中の憑依スマホをぶっ壊せば良いのよね! よし! スキルの準備は良い? って......」
ここで菊名は愛華も倒れている事を思い出した。
「あああああ! 何てことなの! スキル使えないじゃない! これじゃどうにもならないわ! 」
その通りである、スキルを使うにはサポーターの愛華がスマホ画面をタップしないと使えない!
「流石にスマホを持って戦うのは部が悪い、ちょっと待ちたまえ......」
ここでダニエルは器用にアーミートイのまま自分の鞄を開けると、中にあったノートPCを立ち上げ器用に操作し、本社のサーバーにアクセス。
誰も見たことのない重要権限の使用画面に長いコードを打ち始めた。
「今からスキルプロテクトを解いて強制解放を命令する! 」
「憑依全プレイヤーはアプリの使用時間制限と、一時的にスキルの単独使用を解禁! 連続で使いすぎなければ霊体への害は無い、だが過信は禁物だぞ! 」
ザジがそのダニエルの言葉に反応する。
「それなら大丈夫だと思うんだ、以前に二依子がスキル使いすぎで憑依できなくなったけど、かなり長時間での探索スキルが原因だったから、戦闘スキルだとそんなに影響はないよ」
それを聞いて安心したのか菊名が胸を撫で下ろした。
「なんだ、それならいくらでも使えるわね! ......って待って」
ここで菊名が重要な事に気が付く。
「二依子先輩って今憑依したら駄目じゃないの! 」
ザジがここではっと気が付いた、一気に険しい顔になる。
「不味い! 早く二依子の魂を取り返さないと、肉体に魂が定着しなくなる! 」
事の状況がここで悪い状況に変わって行く、二依子の魂を取り返さないといけなくなったのである。
「取り返しても定着するの?! 今先輩の体は寝てるだけだけど、もし定着しなかったら......」
菊名が慌てて二依子の様子を見ながら言う、アプリのバイタルチェックは正常であるが、危険な状態に変わり無い。
「魂と肉体の軛が外れかかってたのは二年前だ、最近はだいぶ回復してたからすぐには軛が無くなる事は無いけど......」
ダニエルがここ割りに入ってで語り始めた。
「魂=(イコール)プレイヤー、霊体=アカウント、キャラクター=人間か憑依体であると成すならば、魂が人間を見失う状態が現在の状態だ」
「どのみち二依子さん以外の霊体も早く取り戻して置かないと同じ状態になりかねない緊急事態!」
ダニエルは何かを思い出す様に鞄を探る。
「 ? 」
ザジと菊名はダニエルの行動に首をかしげるが、ユナははっと思い当たる節を感じたのかここで進言し始めた。
「ダニエルさん! お願いします! 彦名札! 使わせて下さい! 」
このユナの進言はザジ達を驚かせた!
景品である彦名札はユナ自身の形成している札に近いモノだとすれば......
「ふむ......その通りだよ、ユナ君だったね......君の言う通り丁度今、出そうと思っていたんだ、この札があれば二依子さんの霊体を肉体に定着できるだろうと」
「軛が壊れかかっても、札を体に張り付けてしっかり定着しておけば回復するだろうと思うんだ! 」
そう言うとダニエルは鞄から小さなケースのようなものが取り出した。
「 ! 」
ザジ達に存在が開示される彦名札、それは古いモノであるので衝撃等から守る為に保管されていた。
「小さい......これが彦名札。」
ユナから漏れるように出てきた言葉のまま、彦名札は小さかった。
古代の遺跡から出土されるモノは教科書では拡大した写真が載っている、だが実物はとても小さいという印象が強い。
この彦名札もドッグタグ程度の大きさで、紙にしては異様にに分厚いまるで皮製品のような代物でびっしり文字が書かれた札ある。
「ザジ君、ここで使う? 船の霊体のサーバーを破壊したら魂は戻るよね、二依子さんの体につけておく? 」
ユナはザジに問いかける。
「囚われているプレイヤーならすぐに吸い込まれるように軛のある体に戻るはず、二依子は軛が薄いから魂が体を見失う可能性がある......」
「直接彦名札を持っていって魂を回収し、体に付けて直接戻すしかない」
ザジの見解ははっきりしている。
「私達はやられたらどうなるの? あいつに取り込まれるの? 」
菊名はザジとダニエルに聞く、答えは想像できる様だ。
「想像してると思うが、奴のサーバーが健在ならそのボディが崩壊したと同時に取り込まれるだろう......少しでも破壊出来れば強制力が弱まり、一時的にスキルの霊体保全機構で自身のスマホに移りその後に体に戻る」
ダニエルが答える、菊名も覚悟が決まった様子で、船を見据えていた。
「なら背水の陣ね、もう選択肢は残ってない」
こうして静まり返ったビルの中で、ザジ達の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
ネットの上では中継が途絶えた事に運営への不満が沸き上がる中、辛うじて難を逃れたバトルのプレイヤーが事の重大さと事件性に気が付いて通報。
その後ネット上で急に情報の規制が行われ、事件の様子を検索することが出来なくなった。
この時、政府機関よりとある組織に協力の要請が入る。
その組織とは「陰陽庁」である。




