百二十五話「目覚めたのは......」
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時間は遡り......三日前。
ザジ達は成層圏の戦いから脱出した。
飛行船ドローンから切り離されたレストルームコアは、そのまま真っ逆さまに落ちていく。
「みんな、ファントムブースターを全開で吹かせ! 姿勢制御しないと大回転するぞ! 」
そう、ここで回転がかかったら、ミキサーの様な状態になり、地上に戻ったらレストルーム内部でバラバラになって居て、全滅するという可能性を秘めていた。
「うおりゃああ! ハイスピリットおおお! クマ・ウインドバリアあああ! 」
残り霊力の余裕が産んだのか、ユナの渾身の「風避け」が張られる!
「上手いぞ! 風を逃がせればブースターで姿勢制御も可能だ! ......後は」
ザジとフォッカー、更に二依子までが霊力を振り絞ってブースターを吹かし、姿勢制御に尽力を注ぐ。
「風避けで逃がした風を上から取り込んで、霊力でブーストさせて下方向に誘導放出させるんだ! 」
ザジが機転を効かせてブースターの吹かせ方を提案、結果的に姿勢制御は成功し、落下傘を開き地上までの状態を安定させた。
レストルームコアの前方で様子を伺うパルド、彼が気にかかるのは落下予測地点と......
「ギャオオオオオオオ! 」
鳥(舟)の巨大霊体による追撃である。
謎の龍の巨大霊体により、大きなダメージを受けた様に見えたが......
実はそれはシラ達教団亡霊が、鳥の巨大霊体を舟に擬装した際。
狂暴性を抑えようとして、取り囲んだ拘束具が破壊された訳で。
拘束から解放された鳥の巨大霊体は、内部で制御していた教団亡霊を食らい。
本能のまま地上の霊体を吸収するため、地上に向かっていたのである。
「奴の姿はどうなっている? 」
焦るパルド、相手は当然教団亡霊を食らった後、身近に居る自分達に食い付いてくるのは予想が付く。
「フォッカーの作った囮を食らい、俺達を見失ってるな......追って来ないぞ」
フォッカーの捨てたボディは、上手く囮として機能した事を安心したザジが、レストルームの内部収納を動かす。
「この状況だ......ボロボロのボディでは動きにくいよ、一旦レストルームの奥にオリジナルボディを収納するね」
このレストルームは、元々ザジのオリジナルボディが安置されていた。
「レストルームコア、オープン......これでボディは再び収納だ」
パーツの一部を外し、レストルームの床から出てきた収納ボックスを閉じる、外したパーツから二依子の声がする。
「あんなに直したのに......ザジ君、今度はもう少し頑丈にするね」
以前に、ザジのオリジナルボディを改修した二依子が言う。
「さて......状況を整理しようか」
フォッカーの声で、全員が集まり状況を確認。
現在、レストルームの霊力残量は余裕があり。
フォッカー一人なら霊体のみでも存続可能である、だがレストルームが壊れ、霊力が漏れだしたら消滅は否めない。
「俺は代用ボディで霊力の消費を抑えよう......」
ザジはオリジナルボディを保管したので、代用のボディをレストルームの奥から出してきた。
「二依子の札の入ったバックパックパーツは外して置いたよ、定着してるみたいだし札から霊力が出て霊体が安定してるはず......二依子、出て良いよ」
二依子の霊体がレストルームの霊力を吸収し現れる、札を中心に形を成しのだ。
ザジのプラモデルボディから出した「彦名札」が、霊力を一部を補填して肉体の軛を持つ霊体修復し、新たに作り出した様である。
「ザジ君達と同じミニマムサイズの霊体......この札って本当に憑依アプリみたいなモノなのね......ってひゃあ! 」
二依子の霊体に喜んだユナがしがみつく、そして中身の霊体が飛び出して、二依子に二重にしがみついた。
「んほおおお! ムチムチのフワフワの霊体じゃああ! あれ!? 何で服も実体化出来るの! 私の時はすっぽんぽんだったのに詐欺じゃね!? 」
この期に及んですっとんきょうな言葉を吐く変態のクマ。
フォッカーもパルドも、その事実に落胆していた。
(せめて霊体くらい、センシティブなサービスがあってもいいじゃないか! )
心の声が駄々漏れの二人を他所に、当の二依子本人は......
現在のザジに注目していた。
「ザジ君......そのボディ......」
「ああ、探したらレストルームにまだ置いてあったんだ、ちょっとした罰ゲーム専用のボディで、カンチョウ達の趣味らしい」
今、ザジは以前に使っていたガールタイプのプラモデルに取り憑いているのだ。
......二依子がマジマジと凝視している、何かの"真髄"に至った目をしていた。
(トゥンク......)
(あの堅物のザジ君が、あんな女の子の姿のプラモデルに......しかも尻を気にして困っているだなんて......)
新たな可能性の獣が目覚めた瞬間である。
きっと面白おかしい獣である。
(……)
「......何だこれは! 」
急に通信機を使っているパルドが困惑の声を出した。
「どうした? 」
フォッカーがパルドに状況の説明を求める。
「カンチョウ達と連絡取れないか試しているんだが、突然電波が繋がらなくなって......ってうおおおおお! 」
パルドが驚愕する、いや全員が驚愕した。
「アイツ! こっちに気づきやがった! ヤバいぞ! 」
上空の巨大霊体は鳥の形を取り戻し、こちらに向かってきたのである!
まるで何かの指令を受けて、ザジ達亡霊に食らいつこうとしているかのように......
「回避! 回避! 」
フォッカーが叫び、全員がワタワタと霊力でブースターを吹かせようとするが、落下傘の自由落下だけでは回避しようがない。
「もうダメだ!! 」
パルドが諦めたその時......!
鳥の巨大霊体は何かに反応して、進路を変え激しく別方向に飛び去った!
「 !!? 」
全員が安堵の声を漏らす中、その助かった原因が眼前に過る!
電波障害の原因は強い電波を使用するモノ......
レストルーム周囲を通りすぎる沢山の飛翔体、自衛隊が打ち上げたパトリオットミサイルである。