一話エピローグ「残滓に残るモノは」
大した文学でもなく、カッコいい魔法モノでもなく純ファンタジーというか変な作品って奴です。
とりあえずは経緯だけでも読まれると幸いですが
暗がりのビルの一室に一人椅子に座っている少女が居る。
彼女が大事そうに持っているのは古い紙札、人の形をしており中心に梵字が書かれている。
(なんでこんなことになっちゃったの? )
彼女の脳裏に浮かぶのはつい数十分前の出来事。
家にやって来た変な黒服の人達が家の伝来の一品である人形の古い紙札を買い取りたいとやって来たのだが、彼女の家族一同これを拒否。
売り物でないと祖父祖母が首を横に降ると黒服達が実力行使に躍り出た。
だがこれは一度や二度ではない、過去に新興宗教の類いに札を買い叩かれそうになった時も一家総出で追い払い、事なきを得るストロングな家系であったのだ。
今回も家中を黒服達が詰め居る中を、一家でラグビーの如く札を持って走り回ってパスを繰り返し黒服に捕まるという「逃走中」さながらの大脱出劇を行ったのであるが…
最後に彼女に渡された時には一家皆取り押さえられ、いよいよ年貢の納め時となった。
そしてあれよあれよと街のビルに逃げ込んだ彼女であったのだ…
やがて逃げ込んだ個室のドアノブがガチャガチャと動き出す、だが内側から鍵が閉められているため開くことはない。
「ここだ! ここに居るぞ! 」
扉を閉めたのは彼女自信、だが結果袋のネズミとなってしまった。
「開けなさい!我々は君に危害は加えない!言うことを聞きなさい! 」
外に黒服の男達が詰めかけ、扉の向こうから呼び掛ける、当然部屋の中の彼女に向かって語りかけているのである。
(駄目、聞いては駄目......)
彼女は見た目はまだ中学生程でおかっぱの似合う幼さの残る少女だ、だがその手に持った人形の札を家族の一員として護り通さなければ成らない。
何故ならこの札こそが、彼女の家々に代々伝わる失われた陰陽師の最後の式神の札であり、奇跡の残滓であると伝えられているからだ。
「扉の鍵がある筈だ、管理人を呼んで鍵を取ってこい!」
黒服リーダーらしきの男が指示する、すると他の黒服の男が廊下を走り鍵を取りに行った音が聞こえる。
(もう無理なの? ここで捕まるの! )
彼女の手には汗が滲み手元の鞄が滑り落ちる。
(まだよ! まだ何かしらの方法がある筈…落ち着いて考えよう、この札を隠す方法を! )
彼女は鞄の中を開けて探り始める、だが隠してもそれは何時かは見つかるものであり一時しのぎにしかならない。
(おおっ…!これだ、これで良いかも…)
それは彼女が鞄に付けている変な熊のヌイグルミだ。
ゲームセンターのプライズ賞品であり無意味に背後にチャックが付いている小物入れ紛い、いかにも余り物のですよと言わんばかりの代物だ。
(ついにキミのその機能が有効に扱われる時が来た! )
人形の札を小さく折って無造作に熊のヌイグルミの背中に捩じ込むと周囲を見渡し隠せそうな通気孔らしき部分に隠す。
(このままこの札が本当に式神になって逃げ出せばいいのになあー! )
最後に彼女はそう念じるように拝み、通気孔の奥まで捩じ込むと。
その奇跡の残滓は起こった......
鍵が差し込まれ閂が外れる音がする!暫くして扉を開けると、黒服達が雪崩れ込んだ。
そこで黒服達が見たものは......
眠る様に横たわる少女の姿と、札がどこかえと消えたという事実であった。
続きます