第六話 これからもよろしく
前回のあらすじ。
・ユーヤと親友になりたい! by チルノ
遅くなってすみません。さて、今回も視点が動きます。
今回は優也 → チルノ → 優也の順です。チルノの視点は今回短いです。
「ありがと、チルノ。もう離していいよ」
しばらくして、落ち着きを取り戻した俺はチルノにそっと声をかける。かかっていた雲がなくなったかのように今はスッキリとしていた。
「もう…大丈夫?」
同じようにチルノもそっと声をかけてくる。その声には優しさがこもっていた。
大丈夫。だって、親友と呼べる奴がここにも居るから…。
「ああ、大丈夫だ」
チルノはゆっくりと俺を離す。ほとぼりはようやく冷めようとしていた。そんな時、今まで気づいていなかった事に俺たちは今更ながら気づく。
それは……
(ち、近い…)
チルノが抱きしめた事で、お互いの距離……特に顔辺りが近くなっていた。今まで気づいてなかった事もあってか、俺たちはその場で硬直してしまう。
「えっと…あの…その…」
「……」
(ち、チルノって、意外にかわ……って、何を考えてんだ!)
男の子みたいでやんちゃなイメージしかなかったチルノなので、今の狼狽えてる表情や仕草はギャップが強かった。だから、こんな時に俺は"かわいい"と思ってしまう。
「ご、ごめん! すぐ離れる…わわっ!」
「おっと!」
一方のチルノは硬直が解けたらしく、顔を赤らめながら急いで距離を取ろうとする。その事で体が少し傾きかけたが、俺が瞬時に手を掴み、自分側に引っ張った事でそれを回避させた。
「え、えっと、大丈夫?」
「あ、う、うん。あり……がとう」
「うん、別に良いよ…」
「あっ…」
大丈夫なのを確認した後、俺は静かにその手を離す。
「「……」」
そして、お互い何故か黙ってしまう。何だか凄い気まずい…。
少しの沈黙の後、チルノが言葉を選びながら言ってきた。
「えっと、えっと……だ、大ちゃんたちも心配するからそろそろ戻ろうユーヤっ!」
「そ、そうだな。ずっと、ここに居ても仕方ないしな…」
「うんうん! 行こっ、行こっ!!」
「そ、そんな強く引っ張るなってっ!」
チルノに手を引かれ、一緒に社殿の方へ戻っていく。戻る最中もチルノの顔がまだほんのりと赤かった。
(……大丈夫かな?)
「あら、遅かったわね。私はもう湯船に浸かったわよ」
俺たちが外に出てた間、霊夢は既に風呂の方を済ましてたようだ。今は服装(寝間着)も変わっていて、居間のテーブルで静かにお茶を飲んでいる。ただ、服装は変わっても脇が空いているのは変わらず、本人もそれが自然体だという様子を呈していた。
ちなみに大ちゃんはまだ入っていないようだ。俺たちの事をずっと待っててくれてたのだろう。
「ふふっ、良かった。優也さん元気になったんですね?」
俺の表情を見てか、大ちゃんは微笑みながら言う。大ちゃんもいつもの俺に戻った事に気づいたようだ。
「おかげさまでな。大ちゃんも心配してくれてありがと」
「いえ、私はそれしかできなかったと思います。正直、何て声をかけていいかも分かりませんでした」
「それでもほぼ初対面の人を心配するってなかなかできないと思うんだ。本当にありがとな」
「うふふ、それならチルノちゃんにはもっと感謝しないとダメですね♪」
「あはは、それもそうだな」
「ふ、ふん! あたいたらサイキョーね!!」
実際、チルノがいなかったら立ち直れなかったかもしれない。誇らしげに胸を張るチルノを、俺は感謝の気持ちで見ていた。
「お話のところ悪いけど、どっちが先に入るか決めてくれない?」
お茶を飲みながら、霊夢は早く決めろと言わんばかりの表情で言う。少しばかり空気を読んでほしかったけど、ここは霊夢の家(神社)だし、巫女さんが怒る前にさっさと順番を決めようか。
「そうだな。じゃあ、先にチルノと大ちゃんが入ってよ。俺の案内とかで大変だったと思うからさ」
「あっ、分かりました。チルノちゃんもそれで良い?」
「え? え、えっと…」
チルノは俺と霊夢を交互に見る。何やら少し不満そうな表情を覗かせていた。
「う……うん」
「じゃあ、行こう。チルノちゃんの分(寝間着)もちゃんと持ってきてるからね」
「うん…」
一瞬、また俺たちの方を覗き見た後、大ちゃんと共に居間の方から出て行く。その様子も何処か渋々といった感じだった。
一体どうしたというのだろう?
「大ちゃんと一緒に入るのが嫌なのかなー…?」
「……あんたって案外鈍感なのね」
「え?」
ユーヤに先に入っててと言われ、それをオッケーしたあたいと大ちゃん。レームが場所を教えなかったのもあって少し迷ったけど、どうにかお風呂がある所を見つけて、今はそのお風呂に浸かっている。ちなみにあたいは熱いのはキライだから冷たい方(あった事にビックリ)だ。
それにしても……あたいどーしたんだろう?
ユーヤとレ-ムが二人きりになる事にムカついた。前まではこんな気持ちはなかったのに。ユーヤが誰かと二人きりで一緒になっても、特に気にする事もないと思ったのに…。
(今は何かイヤ……かも)
「チールノちゃん♪」
「うひゃいっ!」
そんな考え事をしてるあたいは、いきなり大ちゃんから呼びかけられてビックリしてしまう。そのせいか変な声も出ちゃった…。
「な……何、大ちゃん?」
その大ちゃんはあたいの反応が面白かったのか笑ってる。あたいはちょっとムッとくる。
「いや、ゴメンゴメン。チルノちゃんにも春が来たんだなぁって思ったらつい…ね」
「え? 春? 春ってもう来てるじゃん?」
「チルノちゃんは分からなくて良いんだよ♪」
そう言われると気になる。あたいは大ちゃんに問い詰める。
「ねえ、どんな意味? どんな意味なの?」
「さっきのチルノちゃんの表情だよ♪」
「分かんない! だって、あたいの顔、見えないもん!」
「だから、分からなくて良いって♪」
この後も聞いてみたけど、大ちゃんがいろいろと誤魔化したせいで分かんなかった。仕返ししようと、算数の問題(1+1という問題)を出したけど、簡単に答えられて仕返しにならなかった。
(……春ってどういう意味だろ?)
チルノと大ちゃんが風呂から出るまで、霊夢と他愛のない話をして時間を潰した。しばらく時間が経って、頭にタオルを乗せた二人が戻って来たので、それを確認した上で俺もすぐ風呂に入る事にした。
それにしても、大ちゃんはいつの間に寝間着を持ってきたんだろ? 戻ってきた時には既にそれに着替え終えていたので疑問に残る。チルノもチルノで俺に早く入れって急かしたし…。
(まっ、いっか)
「にしても、広い風呂だな…」
風呂を見て、すぐ広いと感じたのは、普通の家庭(神社だけど)にある風呂の中では、かなり広い部類だったからだろう。水風呂もあるし、もう一つでもお風呂を作ったら銭湯と勘違いすると思った。
「はぁ……にしても疲れた」
俺は湯船に浸かりながら深く息を吐く。本当にいろいろあった一日だった。弾幕然り、幻想郷然り、能力然りで……こんな長い一日は初めてではないだろうか?
「いろいろあった中でも、チルノに泣きついたのはちょっと恥ずかしかったな…」
でも、チルノは何も言わず、ただ抱きしめてくれた。一人じゃないって気づかせてくれた。それだけで安心できるような気がした。心から…。
「……はぁ」
大ちゃんも俺の事を心配してくれてたみたいだったし、俺は本当に幸せ者だよ。
ずっと親友でいてくれたら……な
(……明日にでもお礼がしたいな)
そんな事を考えながら、しばらくして俺は浸かっていた湯船から腰を上げた。
「はい、あがりっと」
「あっ、私もです」
「うぎゃあああ! またやられたあああ!!」
二人に続き、俺も風呂から出た後、更に時間が進んで、時刻はまもなく夜の十時。
ちなみに今はチルノ、大ちゃんの三人でトランプ遊びに戯れている。ジャンルは七並べ。何故七並べかというと、単純にチルノが比較的やりやすいゲームだから。比較的に、ね。
(まあ、後は察してくれ…)
「もう! 今度こそ勝ってやるもん!」
「はいはい、しゅーりょーしゅーりょー。就寝のお知らせよ」
「しゅーしんって?」
「おねんねの時間だってさ」
「ええーー!! まだ早いよーー!!」
何もない日はもう寝る時間と決まっているらしい。俺にとってもまだ寝る時間帯じゃないが、いろいろありすぎて疲れていたのでありがたいと思った。チルノだけはまだ起きてると文句を垂れているが、そこは霊夢に完全スルーされている。本当に元気な奴だな…。
「……あら?」
ただ、これから寝ようとする前、ちょっとしたハプニングが起こった。
「あんたたちに悪いけど布団が三枚しかないのわ。三人の中で誰か二人一緒に寝てくれない?」
「え?」
布団が全員分なかったのだ。俺たちは一瞬キョトンとしてしまう。
まあ、一人で生活している霊夢だからこそこうなる事は珍しくないか。むしろ霊夢の性格で三枚あった方が驚きかも…。
「何よ。何か文句ある?」
「い、いや! え、えっと、だったらチルノと大ちゃんでい━━」
「優也さんとチルノちゃんで良いと思いまーす♪」
「「!?」」
(ちょっ、何言ってるの大ちゃーーん!?)
普通に考えたらチルノと大ちゃんだと思っていたのでビックリしてしまう。確かにそういう事も考えないで寝ちゃいそうな子だけど、チルノはちゃんとした女の子だし、男の俺と寝るなんて絶対ダメだって!
「そうね。その二人で良いわね。空き部屋が二つあるから、その一つを使って良いわ。私と大妖精はもう一つの部屋ね」
「はーい♪」
「何でお前は否定しないんだよ!?」
「じゃあ、私たちはこっちの部屋にしようかしら?」
霊夢に対してツッコミを入れるが、チルノの文句同様スルーされる。しかも、既に大ちゃんと一緒に空き部屋の一つに向かっている…。
「え? ちょ、ちょっと…」
「二人とも!」
その途中、大ちゃんは俺たちの方へ振り返り……
「頑張って下さいね♪」
微笑ましい笑顔を向けられながら、霊夢と共に居間の方から消えた…。
「……え? 何を頑張れと!?」
「……」モジモジ
チルノはチルノで顔を赤くして固まってるし。
トランプしてた時の勢いは何処へ行った! 今ほしいぞ、今!
らしくもなく指をモジモジしてるチルノに、心の中でそんなツッコミを入れてしまう。
俺が焦っても仕方ない。一旦深呼吸して落ち着いた後、俺はチルノに言葉詰まりながらも言う。
「え、えーっと、普通に嫌だと思うけど、一緒に寝るしかないから……悪いな」
「う、うん…」
結局、一緒に寝るしか選択肢がなかった俺とチルノは、もう一方の空き部屋に敷かれた布団の中でお互いに窮屈ながら分け合っていた。本来なら一人用の布団である。チルノの冷気を直に感じるほど窮屈だった。
「チルノ、枕使って良いよ」
更に布団が一枚しかない状態に追い討ちをかけるかのように枕も一つしかなかった。まあ、当然だろうが…。
「あたいは良いよ。ユーヤが使ってよ」
「遠慮するな。それじゃあ、お前が寝にくいだろ?」
「それを言うならユーヤだって…」
「別に良いよ。枕を使わなくても寝れるし」
「大ちゃんは、枕で寝た方が疲れが取れるって言ってたよ」
「チルノも疲れてるだろ…」
「ユーヤの方が疲れてるじゃん…」
「何処でそう判断したんだよ…」
「トランプでレームに反論しなかった所。反論しそうじゃん、ユーヤ的に」
「どーゆー意味だ、こら」
「えへへ……あれ? 何の話だっけ?」
「枕だろ…」
なかなかまとまらない。枕一つに何言い合ってんだろ、俺たち…。
「じゃあさ……一緒に使わない?」
「え?」
「だって、二人とも疲れてるし、さ…」
頬を赤らめ、チルノはこう提案してきた。この頭二個分でギリギリの枕を共同して使うというのは些か問題があった。
「……分かった。もうそれで良いよ」
だけど、埒があかないので俺もそれにした。ここでまた何か言うと寝られなくなる可能性が出てくるから…。
とりあえずは決まった。のそりのそりと俺たちの頭は一つの枕へ近づいていく…。
こっつん…
そして、可愛らしい音を立てて……というか今更なんだけど思った。
これ普通は家族か恋人同士がやる事で、男女の親友同士がやる事じゃないよな…。
「はぅ……冷たい?」
「……大丈夫だよ」
まあ、チルノだからまだマシかな。霊夢とかだったら強引にでも布団と枕を譲ってるわ。いや、そもそも霊夢じゃこういう状況にもならんか。
「てか、思ったんだけど、チルノさっきから俺に対して心配しすぎじゃない?」
「ふ、ふえ?」
「だって、枕を譲ろうとしたのも俺が疲れてるからだろ? お前だったら「これはあたいの枕よー!」とか言うと思ったのに…」
何か慰めてくれた後から、チルノの様子がどうも変だと思う。
「そっ……そういう時もあるんじゃないの!?」
「そういうもんか?」
「そ、そうよ! そ、それにあたいは別にユーヤが心配とかじゃないし…」
「え?」
「だから、えっと……あたいはユーヤがその………あ、あたいもう寝る!」
かなり中途半端な形で切られ、チルノは俺の顔が見えないように横を向く。横を向く間際、さっきよりも顔が赤くなっていた…。
「???」
「すー……すー…」
その後、少し時間が経った頃、チルノの寝息が耳に聞こえてきた。横目で見ると、水色の髪が上下に揺れている。チルノも何やかんやで疲れていたのだろう。
(まあ、お疲れさまかな? 今日はありがと)
チルノの頭を軽く撫で、心の中で感謝の言葉を呟く。
思えば、幻想郷で最初に出会ったのがチルノだったな…。
出会った当初はバカで乱暴で何も考えてない妖精だと思ったけど、ここへ来るまでの間、チルノ良い所をたくさん知った。友達想いでもあるし、そんな友達想いから親友とも言ってくれた。……こんな俺を助けてくれた。
「……」
俺は最初に出会えたのがこいつで……本当に良かった…。
「おやすみ、チルノ。これからも…その……いろいろとよろしくな」
はい、何故か添い寝イベントに突入。そして、何もしないのがまあユーヤクオリティ。
ちなみにこいつ結構鈍感です。どれくらいかって? まあ、異性に好きと言われても、友達(親友)で好きと認識しちゃうくらいです。