第四話 優也の能力
前回のあらすじ。
・チルノちゃんが頭を撫でられておかしくなった。by 大ちゃん
ガールズラブ要素はない…と思う。でも、それに近い事はある…と思う。
まあ、基本的には友愛なんですけどね。一応キーワードには入れた方が良いのかな?
「この階段、一体何段あるんだ…」
人里で昼食を済ました俺たちは、博麗神社へと繋がる階段を上っていた。
だが、一向にその神社に着かない。十分くらい前から上っているが、上を見上げても鳥居の一つも見えなかった。
「すー…すー…」
「……」
(それに何で俺は案内人を背負ってるんだろうな…)
おんぶしてと言ってきて訳が分からず、何でと聞いてもバカって言ったからの一点張りだったので、俺は仕方なしにチルノをおぶる事にしている。
チルノは俺の背中でうるさいほど騒ぎまくっていたが、途中で疲れてきたのかウトリウトリし始め……今は夢の中にいるってとこだ。
「うへぇ~……この団子が…」
「どんな夢見てんだか。しかし、この階段は本当にいつ終わるんだ?」
「もうそろそろですよ。ほら、見えてきました」
俺は上を見上げる。確かにここの神社の鳥居が見えてきた。
「もう一踏ん張りだな…」
「むにゃむにゃ……あたいったらさいきょーね…」
「やっと着いたー…」
ここまでいろんな事があったが、ようやくその博麗神社に辿り着いた。
博麗神社。歴史を感じる古い本殿が一つ佇み、周りに森があるだけの何処か素っ気ない神社。けど、人を落ち着かせる雰囲気があり、俺個人的にはなかなか良い所だと思う。ここの空気も何処となく美味しい。
「おーい、チルノー」
とりあえず、博麗霊夢に会う前よりも先にチルノを起こす事にする。理由はこいつの能力で背中が冷たい…。
「ふぇ……ちゅいたの…?」
「ええ、着きましたよ。博麗神社にね…」
少し寝ぼけながら聞いてきたので、背中から降ろす合間、それに対してちゃんと答えてあげた。
と、同時に……
「おーーい!! レーム、遊びに来たぞーーっ!!」
「俺が目の前に居るのに大声出すな!! 耳が痛いわっ!!」
しーーーん
「あり? 来ない?」
「……留守なんじゃないのか?」
あんな大声で呼ばれて誰も来なかったならそれしかないんじゃないのか。耳を擦りながら俺は簡単に推測する。
「でも、怪しいですね。試しにあそこの賽銭箱にお金を入れてみましょうか」
「え? 何で?」
「霊夢さんの有無を確かめるためです」
「え、ええっ!? お金を入れるだけで居るかどうか分かるの!?」
どんな最先端なんだ!? 耳を擦るのも忘れ、思わず大ちゃんに聞き返してしまった。
「あの霊夢さんですからね。では、早速…」
「あっ、待って。俺が入れる」
「え? でも…」
「いいから…」
百聞は一見にしかず。どういう事なのかは分からないが、実際に実践してみる事にしよう。
俺は賽銭箱の前に立ち、100円玉をポイッと放ってみた。
チャリーン…
「あなたねっ! 賽銭箱にお金を入れてくれた心優しきお方はっ!?」
「!?」
小銭を入れて一秒も経っていないのだが、紅白の巫女服に脇を露出させた、歳は俺と同じくらいの女の子が賽銭箱の右脇から忽然と姿を現してきた。
自分がお金を入れたためなのか、とても嬉しそうな顔をしていて、目もキラキラと輝かせている…。
「さっきのは瞬間移動です。それとこの人が博麗霊夢さんです」
「!」
一瞬で一体どうやってここまで現れたのかと、俺が疑問に満ちた表情を浮かべていると、表情を察した大ちゃんがそれに対し小声で教えてくれた。
瞬間移動ってそんなものまであるのかと驚いたが、それ以上に彼女の名前の方がインパクトが強く、同時に安心感も得た。
「お茶を用意するから上がって上がってーっ♪」
「あのー……私たちもよろしいですか?」
「そうだそうだ! あたいたちも入れろー!」
どさくさまぎれって言ったらなんだが、俺の隣から大ちゃんたちも了解を得ようとする。するとさっきまでのテンションが一転、彼女の顔はあからさまに嫌そうな表情に変わる。
「ああ、あんたたちも居たの。本当はあんたたち、特にチルノなんか入れたくないけど……まあ良いわ」
「なっ、何だとーっ!!」
承諾こそしたものの、その対応は俺とは違って冷たかった。
「ありがとうございます。ほら、チルノちゃんも行くよ」
「置いて行くわよ、バカ氷精」
「むきーーっ!!」
博麗霊夢はお金で動くという事なのか。一応巫女さんだろうに…。
博麗の巫女に、博麗霊夢に居間まで案内され、今は客用に出してくれたお茶を啜っている。茶の風味をそのまま出したようなとても美味しいお茶だった。お茶をあまり飲まない俺でも、少なくとも外の世界では味わえない味だと感じる。
丸テーブルの向こう側で、俺たちと同じような光景を映している博麗霊夢が口を開く。
「私の名前は博麗霊夢。まあ、そこの二人から話は聞いてると思うけどね。呼び方は霊夢で構わないし、敬語もいらないわ」
「俺は赤池優也。こっちも優也で構わない」
それぞれ自己紹介も済ましたので、早速俺は本題へ移ろうとする。
「あんた、外来人ね。だから、ここに来たんでしょ?」
「え?」
霊夢はさぞ当たり前だという表情で先に答えた。こういうケースは一度や二度ではないのだろうか?
「俺が外来人だって分かりやすいのか?」
「服装とそのリュックを見たらね」
「え? リュックも?」
「無駄にでかいわよ」
霊夢にバッサリと言われたが、そこまで大きいという自覚はない。登山用リュックをもう少し大きくした程度だし……人によりけりか。
とにかく、俺が外来人と確認できた所で、霊夢は慣れた様子でこう聞いてきた。
「それでここに残るの? ここから帰るの?」
「えっと……俺はここから帰ろうと思う。このままだと親や友達も心配するしな」
ここへ迷い込んでまだ一日目ではあるけど、きっと向こうでは俺の事を捜していると思う。そんな人たちに心配はかけたくない。早く帰って安心させたかった。
「ユーヤ…」
「優也さん…」
でも、少し寂しい気持ちもある。違う世界なので、二人とはこれで永遠の別れとなる。短い時間だったけど、この二人と友達になったのは事実だから…。
「……二人とも本当にありがとう。元の世界に戻っても二人の事は忘れないよ」
「ふ、ふん。あたいもユーヤに悪口を言われたのは忘れないけどね」
「ここは素直に優也さんを忘れない、でしょ? まったく…」
そう言いながら、二人は何処か複雑そうな表情を浮かべていた。二人とも俺の事を友達と思ってくれてるのかな…。
(仕方ないけど、二人とは同じ世界で会いたかったな…)
「話は終わったみたいね。それじゃあ、早速━━」
「待ちなさい、霊夢」
準備するため霊夢が立ち上がろうとした時、何処からかここに居る人たちとは違う声が木霊してきた。
「……?」
「こんにちはー♪」
「うわっ!?」
辺りを見回していると、いきなり俺の目の前に逆さ宙吊りで体は上半身だけの女性が出てきた。いや、よくよく見ると、空間に裂け目が入っているから、恐らくその中に下半身があるのだろうか…。
「うふふっ、良い驚きっぷりね♪」
女の人はニッコリと笑いながら、やはり裂け目の中に下半身があったようでそこから出てきた。
今まで会った事のないような美人さんだった。髪は金髪のロングストレートで、毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる。瞳の色は青ではないが、肌白くスタイルが良い事から何処か欧露の女性を彷彿とさせた。仮に十人男が居るなら、その十人全員が振り返ってしまうほど美しいのではないだろうか。……そんな中で何故か胡散臭さは覚えるが。
「あ、あなたは?」
「そういうのは自分から先に答えるんじゃなくて、外来人さん?」
胡散臭い表情を崩さず、彼女は逆にこう返してきた。
「えっと……赤池優也」
「私は八雲紫。敬語無用でゆかりんって呼んでね♪」
ゆ、ゆかりんはスルーして、八雲紫って確か大ちゃんが元凶だと話していた大妖怪だ…。
(……何でここに?)
「何よ、紫。コイツもあんたが連れてきたんでしょう?」
少し不機嫌そうな顔をしながら霊夢は紫に問い詰める。
「いえ、違うわ。全く知らない子よ。だから気になって今まで隠れて観察してきたけど、とんでもない能力を持っている事が分かったわ…」
「え? お、俺に!?」
「「ユーヤ(優也さん)に能力!?」」
チルノと大ちゃんは驚いた顔で俺を見た。俺もそうだが二人も俺に能力があるとは思っていなかったからだ。
「……その能力って?」
少し緊張した面持ちで、霊夢は核心の部分に触れる…。
「『あらゆるものを受け流す程度の能力』よ」
「あらゆるものを…受け流す程度の能力?」
「ええ、そうよ」
「それって具体的にはどういう能力なの? つか、私の隣に座るな。腕を組むな」
「ダーメ♪」
隙間から出てきた紫は、ドサクサ紛れに近い形で霊夢の隣に寄り添う。霊夢はあからさま嫌な表情で紫を退かしにかかるが紫は微動だにしない。やがて霊夢は諦めた。
「うーんとそうね。じゃあ優也。ここに来るまでの間、魔法の森という森を通ったかしら?」
「!」
「ああ、最初にここに迷い込んで、一番長く居た場所がそこだ。大ちゃんからは普通の人間では毒に近い瘴気が溢れてると聞い……!」
「そう、そこは普通の人間だったら、長時間は長くはいられない。だから、あなたは瘴気を、あなたのその能力で受け流していたのよ。氷精の方はともかくとしてそちらの妖精さんは気づかなかったの?」
「優也さん自身、瘴気に耐えられる身体だと思って、そういう人間の人も今まで見てきたのであまり気には留めてませんでしたけど……まさか能力だったなんて…」
「ふ、ふん! あたいは気づいてたもん!!」
チルノは自信満々に言うが、声は少し裏返っていた。チルノ、無理すんな…。
「……あれ?」
ちょうどその時、チルノを見てふとこんな事を思った。
「ちょっと待ってくれ。俺はここに来る途中、チルノをおぶってたんだが冷気はしっかり背中に感じたぞ。あんたの言うその能力が正しいなら、その冷気も受け流しているはずじゃないのか?」
「恐らくそれはチルノの能力は受け流してたけど、チルノという身体の冷たさは受け流していなかったのよ。
私の考えだと、この能力は物体がある物やその温度、弾幕攻撃などの攻撃に関わるのは、受け流せたとしても数秒しか受け流せない。だけど、それ以外のものはほぼ自動的に受け流せる…」
一瞬弾幕はどうかと思ったが、チルノが襲い掛かった時、チルノの弾幕が俺の右足に当たった。
紫の考えは当たっている…。
「待ちなさい、紫! それじゃあ、幻想郷と外を繋ぐあの結界は…」
「彼の能力にとって、結界は攻撃でもなければ物体でもない。受け流されるわ。私が最初「待ちなさい」って言ったのはそういう意味よ」
二人が何の話をしてるか俺には分からなかった。ただ、一つだけ分かった事があった…。
「優也、残念だけど…」
止めろ……それ以上は言わないでくれ…。
「あなたは、もう元の世界に帰る事はできないわ」
俺にとっては、非情な宣告だった…。
作中ではそこまでしませんが、優也の能力が仮に人間関係にまで及んでいたらちょっと怖いですよね。会う人会う人が全員他人になってしまいますから…。
こんなの絶対生きられないよっ!