第三話 団子より友達
前回のあらすじ。
・不安しかないの案内人
人里には今後ともお世話になると思います。小説的にも主人公的にも。
「まったく、いつも以上に時間がかかったわね! いつもはもっと早いはずなのに!」
「はぁー……やっと着いたー…」
「道が合っていて良かったです…」
案内してもらってから約二時間後、ようやく俺たちは魔法の森を抜け、人が多く住み着いているという人里へと辿り着いた。
途中、案内人から大ちゃんに代わり、どうにか事なきを得て助かった。大ちゃんがいなかったらもうダメだったと思う…。
この人里は建物や店などが江戸風で、昔にタイムスリップした印象を受けた。人の着ている服装もほとんどが和服。よって俺が着ている私服は珍しく、通り過ぎる度に盗み見される。
あまりジロジロ見られるのは好きじゃないが、そこはまあ我慢するしかない。
「にしても、いつも使ってる道を間違えるとかどういう事だよ。最初から期待はしてなかったけどさ」
「な、何だとー? ユーヤが飛べてたらもっと早く着いたんだよーっ!!」
「俺のせいかよ! 俺は妖精とか妖怪みたいに飛べないんだよ! それくらい分かれ⑨っ!!」
「あたい⑨じゃないもんっ!!」
「二人とも落ち着いて、周りが見てますよ…」
周囲から注目されていると言われ、俺たちははたと言い争いを止める。道のど真ん中でやる行為じゃなかったな。
「……グスッ」
「あっ……え、えっと…」
それに心なしかチルノも泣きそうな表情に変わってる。というか、泣いてしまっている…。
(ちょっと……言い過ぎたな…)
「……ゴメン。せっかく案内してくれたのにあんな事を言って…」
「ふ、ふえ!?」
「誰にでも間違いはあるのにそれをお前だけに押し付けて……チルノ、本当にゴメンな」
俺がいきなり謝ってきた事に、チルノはかなり動揺したように見えた。こうやって謝られた事が少ないんだと何となく思う。
「いや、その……あたいこそ……ごめん」
そんな様子だったけど、そのチルノもそっぽを向きながらも俺に対して謝った。
と、ちょうどその時……
グーー…
「「「……」」」
CMのなっ○ゃんがジュースを飲んだ後にいつも言ってそうな、って俺の腹の音かよ!?
「そういや、朝食すら食べてなかったよーな…」
「ぷっ、あはははは! タイミング悪すぎっ!」
「ちょっ! わ、笑うな!」
音の主が分かったチルノは、自分の腹を抱えて笑い始める。その原因が腹だけに……いや、くだらないよ!
隣に居る大ちゃんも必死に笑いを堪えていた。
「くすくす……向こうにお団子さんがあるので、先に食べていきませんか?」
「あははははっ!」
「うぅ~…」
それを見て少し気落ちする。けど、雰囲気は良くなったし、これはこれで良かったと思う。
俺のお腹に感謝……はしたくないけどね…。
とにもかくにも大ちゃんの意見に賛成し、俺たちは近くの団子屋で昼食を済ます事にした。
ちょうど正午近くだった事もあり、団子屋店内は客で少し混雑していた。その中を通り抜け、俺たちは空いている席に座る。団子の良い匂いが漂っていて、何も食べてない俺にとっては涎がこぼれ落ちそう。
「俺の奢りで良いから、二人とも遠慮せず食べてくれ」
「やったーー!!」
「え? 良いんですか?」
既に頼み始めてるチルノを余所に、大ちゃんは心配そうな表情を浮かべる。
「ああ、俺は何故か10万ほど持ってるし、それに団子だったらそこまでお金もかからないよ。だから、大ちゃんも遠慮せず食べて」
「で、でも…」
「お礼くらいさせてよ。なっ♪」
お礼もせずに元の世界に帰ったら、俺の中で残りができる。二人にはもう会えなくなるし、ここは俺も引くわけにはいかなかった。
大ちゃんはまだ少し遠慮してるようだったが、しばらくして笑顔で答えた。
「ふふっ、分かりました。ありがとうございます」
「あはは、それはこっちのセリフだって」
本当に感謝したいのは俺の方だ。二人に会わなかったら、俺は死んでもおかしくなかったかもしれない。
元の世界に戻っても二人が俺のためにしてくれた事は忘れないよ…。
「うん! うんまい!」
「って、お前はもう食ってるのかよ…」
談笑を交えながら団子を頬張り、やがてお腹が満たされた俺たちは、その団子の勘定を済まそうとしている。
俺が元の世界で使ってた現金は使えるようだ。団子の値段は1本150円。
優也 150×8本=1200円
大妖精 150×5本=750円
チルノ 150×100本=15000円
「チルノ……何で十倍も増えてるんだ?」
途中、俺は用を足すため一時席を離れていた。離れる前、ちょうどチルノは10本目の団子を食べていたはずなのだが、戻ってきたらその十倍は跳ね上がっていた。
「へ? 十倍って何?」
「……分かりやすく言おう。俺がトイレに行ってる間、お前は10本目の団子を食べていた。俺はトイレが何処にあるかで少し時間を使ったが、そこまで時間は使ってない。トイレを済ませ、俺は席に戻った。そして、俺がお前の食べ終わった本数を見ると、どういうわけかその十倍、合計で言うと100本になっていた。……これはどういう事なのかな?」
「「……!」」
ここまで言うと流石のチルノも分かったらしく、予想以上にあたふたし始める。隣に居る大ちゃんも何処か焦っている様に見えた。
「ほほほら! あ、あたいって実はいっぱい食べるんだよ! 人だってたまに食べちゃうしっ!」
「大ちゃん?」
「にゃっ! ち、チルノちゃんは意外と良く食べるんですよ~!」
二人とも目線が俺を向いてない。嘘を付くのが下手な子たちだと思った。
「ふーん……正直に言ってくれたら俺は怒らないんだけどなー」
「「ごめん(なさい)っ!」」
「切り替え早いな!?」
大ちゃんから詳しく聞いた所、どうやらルーミアという友達がお金を持ってなく困っていたから、その子の食べた本数を全部チルノのに加えたと言う。
そのルーミアって子は、てゐって奴に団子がタダだと騙されたそうだ。加えてかなりの大食いの妖怪で、一人で90本も食べてしまったらしい。チルノが俺に上手く話すからと今は帰らせていないようだが…。
「まったく、言ってくれれば良かったのに…」
「「ごめんなさい…」」
会計を終え、店内から出る最中、チルノと大ちゃんはまた謝る。
「で、でも、大ちゃんは違うんだよ! あたいが一方的にやっちゃった事だし、怒るならあたいだけを怒ってっ!」
「チルノちゃん…」
チルノは大ちゃんの前に立ち、自分が悪いと言ってきた。また、怒られる事を想定しているのか目も瞑っている。
「……バーカ。さっきも言ったけど怒ったりはしないよ」
「なっ!? バカって何よ!! またあたいの悪口を━━」
「それよりもチルノが思った以上に友達想いと知れて嬉しいかな? 俺もチルノの立場だったら同じ事すると思うし」
「え!?」
俺はチルノの目線までしゃがみ、自分の手をその頭に乗せて撫でた。
「むしろ怒るよりも褒めたいかな?」
「ふ、ふえ?」
「何か安心したよ。チルノって根は優しくて良い奴なんだな♪」
「なっ……何よそれ…」
顔を少し赤らめ、嫌だったのかチルノはそっぽを向く。褒めるために撫でたんだけど止めた方がいいかな?
「撫でられるの嫌だった?」
「い、いや、そういうんじゃなくて…」
「ん?」
「だから、その……あー、もう!!」
チルノは俺の手をすり抜け、どういうわけか俺の背中に回り込んで来た。
「…んぶして」
「……え?」
「あたいをバカって言ったから、お、おおおんぶしてっ!」
「は……はい?」
そして、本当にどういうわけかこんな事を言ってくるのだった…。
くだらないダジャレだ。腹だけに"下らない”とも使えてしまう…。
何だかすみませんw