第⑨話 このなぞなぞの正体
前回のあらすじ。
・バカユーヤ。危なっかしくて見てられないわよっ by チルノ
昨日の敵は今日の恋のアドバイザー。魔理沙大活躍? です!
今回も視線が動きます。
優也 → チルノの順です。
「いや~、お前なかなかやるぜ。まさか私が外来人に負けるなんてな」
「ルールが良かっただけだよ。普通のルールで挑んでたら負けてた。魔理沙も最後のレーザーとか凄かったぞ?」
「へへっ、私の弾幕はパワーなんだぜっ!」
弾幕ごっこを終えた俺と魔理沙は、霊夢たちがいる本殿の賽銭箱付近に戻る最中、お互いにさっきの戦いぶりに対して健闘し合っていた。黒こげになった箒(マスタースパークの範疇にて)を担ぎながら、魔理沙は得意げに二カッと笑う。
「しかし、ここに来て二日目だって言うのに、戦い方を知ってるっていうか、何だかめちゃくちゃ慣れてるよな。チルノの時といい、弾幕が出せない状態で勝つなんて凄いぜ!」
「ま、まあ、昔からちょっと喧嘩慣れしてたっていうか、それで…」
確かに俺は弾幕が出せる住民二人に勝った。でも、二人とも俺に近づいてくれなかったらどうにもならなかった。だから、自分の力で勝ったかどうかと言えば微妙なとこだ。
「でも、マグレだよ。それにチルノから貰ったスペルカードがなかったら普通に負けていた。今回はチルノのおかげだよ」
「へえ~、そりゃ当事者に感謝しないとな♪」
「ゆ、ユーヤ、大丈夫なの!?」
魔理沙はニヤニヤしながら前を指差す。いつの間にか霊夢たちの所に辿り着いていたらしい。指差した方向にはそのチルノが俺に近づいていた。
「ふぅ。とりあえず約束は守ったよ、チルノ」
「け、ケガしてない? 最後は一番心配したんだよ…」
チルノは心配そうな表情を覗かせていたので、俺は大丈夫大丈夫と笑顔でアピールする。大ちゃんと霊夢もその後から続いてきた。
「弾幕ごっこだから、そんな心配はないと思うんだぜ」
「そんなの分かんないじゃん! マリサのバカみたいに強いレーザーだったし!」
「まあ、威力は本当に凄いですからね…」
「ていうか、アレを使う意味あったの?」
「優也の避けるのが上手いための過剰反応だぜ」
三者三様に話している中、チルノだけはまだ俺の方を見ていた。何処か悪いとこがないか身体をペタペタ触ってもいる。それだけ心配させていたんだと思い、俺はチルノの頭を撫でて答えてやった。
「お前のおかげで大した怪我もないよ。心配してくれてありがとな、チルノ♪」
「べっ、別に。だ、誰がユーヤの心配なんか…」
「? でも、一番心配したって…」
「ちがっ、あ、あたいはユーヤが勝つって信じてたし、そんな心配いらないって思ったけどねっ」
「そ、そうか。まあ、でも、スペカの他に応援とかも凄い力になったよ。本当にありがとな、チルノ」
「っ……ど、いたしまして、バカユーヤ…」
そっぽを向き、チルノは呟くように小さく返す。拗ねているように見えたその横顔は真っ赤に染まっていた…。
「何だか、付き合ってるみたいですね…」
「実際はそうじゃないから困るぜ。そして、あのアホ面は何で赤くなってるかさっぱり分かってないな…」
「一体いつ気づくのかしらね、あの鈍感男…」
「はぁ……と・こ・ろ・で、あんたたち。何か私に言わなくちゃいけない事はないわけ?」
「「……」」
神社の境内を見回すと、"魔理沙"の弾幕でできた無数の穴、"魔理沙"のマスタースパークでできた衝撃波の跡。神社の境内は荒れに荒れていた。とても参拝客に見せられる代物じゃない。
(てか、めちゃくちゃにした大半は魔理沙だ…)
その魔理沙は隙を見つけ逃げようと試みたが、瞬間移動で回り込んだ霊夢に結局は捕まった。正座する俺たちの前には、仁王立ちで佇む霊夢の姿があった。
「ったく、ロクに手伝いもしないくせに、一体何処のだ・れ・がっ掃除すると思ってんのよっ!」
「あー、これは魔理沙の事"だけ"言ってるから俺は無関係かなー」
「ふふっ、お前も同類だぜ。逃げようだなんてそうはいかないぜ☆」
「先に逃げようとしたのは魔理沙だ」
「何言ってんだ。お前が先だろ」
「おい」
「と・に・か・く」
目の前で恐ろしい笑顔を浮かべる巫女さんは咳払いを一つ、片手を俺たちの前に突き出す。
「弁償代♪」
「そもそも弾幕ごっこして良いって言ったの、霊夢だろう? こうなる事も予想してないと困る━━」
「弁・償・代♪」
「つか、巫女がカツアゲして良いのかよ…」
「そーだ、そーだ! それでも巫女かー!」
「ここに夢想封印って当たると痛~いスペルカードがあるんだけどね~♪」
「「すみませんでしたぁ!!」」
結局、俺たちは各自賽銭箱に万札を放る事になるのだった…。
(俺って……精神的に休む時間がほとんどないような…)
弾幕ごっこが終了してからさほど時間は経ってなく、あまり休んでもいないが、俺はここ博麗神社を去ろうと鳥居下に居た。チルノと大ちゃんも共に隣に居る。
別にただ単に神社の境内をめちゃくちゃにしたから霊夢に追い出されたというわけではなく、カツアゲ後、このように言ってきたのだ。
「そろそろどっか住む場所を探した方が良いわよ。探すのが遅れたために日が暮れて、妖怪に食べられたなんてケース良くあるんだから」
それを聞いた俺は、冷や汗をかきながらリュックに手を伸ばした。霊夢は博麗神社への宿泊を一晩しか認めてない。故に俺は住む場所を急いで探さないといけない。モタモタしてたら夜になって、霊夢の言葉通り本当に妖怪に食われる。決断は早い方が良い。
「はぁ……人里にもう一度行ってみなさい。慧音って人が多分何とかしてくれると思うわ」
見送りのためここに居る霊夢が、ため息混じりに口を開く。ゼロから探し出そうとしていた俺にとってこの言葉は非常にありがたい。いくらか安心できる言葉だった。
とにかく目的地は決まった。それも兼ねて、俺は今までのお礼を言う。
「泊めてくれたり、アドバイスをくれたりしていろいろとありがとな、霊夢。世話になったよ」
「私たちも泊めてくれて感謝しています! 霊夢さん、ありがとうございます!」
「また遊びに来るよ、レーム!」
「お金が賽銭箱に入れば別に良いわよ。後、遊びに来るな!」
「……」
(……ん?)
霊夢の他に成り行きで魔理沙も見送りに来ている。その魔理沙は何も言わず、一体何なのかただこちらの方をじーっと見つめていた。疑問に思った俺は彼女に声をかける。
「どうしたんだ、魔理沙?」
「何でも……いや、やっぱ言うか。気づいてないかもしれないし」
「え?」
魔理沙はそんな事を呟き、普段おちゃらけてる顔とは違う、とても真剣な表情で隣の人物に向けて呼びかけた。
「ちょっと良いか、チルノ?」
マリサに呼ばれたあたいは、ユーヤたちと少し離れた所に連れて来られた。遠くからユーヤたちも「何だろ」と目を向けてる。
「ふぅ。ここならまあ聞こえはしないだろう」
「むむっ、マリサ! あたいを連れてきてどうする気だ!!」
もしくはさっきの弾幕ごっこのリベンジか! あたいに当たるなんて何たるヤツ! あたいはすぐにスペカを身構える。
そんなあたいにマリサは違う違うと手を横に振る。
「ただ、お前に聞いてみたい事があるだけだぜ。まあ、答えられるかどうかも分かんないけどな」
何だ、天才のあたいに質問ね。あたいは自信満々に胸を張る。
「ふふん、あたいになぞなぞを仕掛けるなんて良い度胸ね! サイキョーチルノさまがらくしょーに答えてあげるわ!」
「なぞなぞね。チルノらしい表現って言えばそうなるか…」
二人っきりになる必要はあったのか思ったけど、あたいに答えられないものなんて一つもない。マリサの質問を答えるなんて、あたいにとってはカズノコ(お茶の子)サイサイ。何たって天才なんだから!
そんなマリサは息を一つ吐き……あたいにこんな事を聞いてきた。
「じゃあ、直球に言うぞ。チルノ。お前、優也が好きだろ? それもちゅーしちゃいたい方向で…」
一瞬、何を聞いてきたのか分からなかった。あたいは天才なのに…分からなかった。とにかく、頭の中でマリサの言葉を何回も繰り返してみる。
(好き? 誰が? あたいが? 誰を? ユーヤを? そりゃあ好き…………って、ちゅーする方向で!!!??)
「な、ななな、ま、マリサ!? あ、あんた、朝の見てたのっ!!?」
「ん? 朝? いや、何の事だぜ?」
「み、み、見ててそんな、そんな…!」
「はぁ……縁側でお前も見てただろ? 私が来たのはそのタイミングだよ」
「う、嘘よ! 見てなかったらそんなこと…!!」
「……ふーん」
あたいの反応が面白かったのか、マリサの顔がニヤニヤと気持ち悪いものに変わった。あ、あたい、何か変なことを言った? 自滅しようとしてる?
「もしかしてユーヤと朝っぱらから何かあったのか~?」
「ち、違うわよ! 誰がユーヤなんかとっ!」
「私、気になるなぁ~。やっぱり、心当たりあるのかぁ~?」
「べっ、別にユーヤとはそんなんじゃないって!!」
ユーヤは親友だ。昨日親友になったばかりだ。だから、親友として好きだ。そういう好きじゃない……はずだ。
「ま、マリサが言いたいのは、親友として好きって事なんだよね!? そうなんだよね!?」
「バーカ、さっきも言ったろ。ちゅーする方、つまり、恋愛感情の方だぜ。こっちから見てると、優也に恋してるようにしか見えないぜ」
「こっ、こここ、鯉!? 魚のヤツ!?」
「恋な。後、落ち着け。しかし、お前がそうなってるとはなあ~」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
あまりもそう決め付けるので、あたいはマリサにもぅ反論する。
「マリサはあたいがそうなってるって言うけど、どういうものが、こ、恋なの!?」
マリサは少し考え始め、やがてニヤリと口が笑った。何でか、また嫌な予感がする…!
「じゃあ、優也に撫でられた時はどうだった?」
「ど、どうって……は、はずかし━━」
「本音は?」
「うぅ……嬉しかった…」
「その時、自分の顔はどうだった? 冷たかった?」
「い、いや…あつかった…」
「あいつの事を思い浮かべると?」
「む、胸がきゅーっとしてドキドキ……って、何で笑ってんのよっ!!」
質問する度にマリサが笑いを堪えるような顔になっていたので怒る。こっちこっちで変な事を言われて嫌な気分だっていうのにっ!
「悪い悪い♪ でも、そこまで自分で言えば分かるだろ?」
「な、何がよ!」
「優也と違って、大妖精や他の奴らにはそういうのはなかったろ?」
「!!」
「そういうのを恋してるって言うんだよ。思い出してみろよ。昨日のいつ頃かは知らないけど、あいつとの接し方がおかしくなってると思うぜ」
ちょっとだけ…思い返してみる。そういえば、慰めた後からおかしかった。レームと二人っきりになった時はムカムカしたし、一緒に寝た時とおデコに合わせられた時はすっごいドキドキした。頭を撫でてくれたら嬉しかったし、傷つきそうになると胸が痛くなった……どれもこれも全部ユーヤへの気持ちだ。
「あっ…」
そう考えたからこそ気づいちゃった。あたいがいろいろおかしくなったのはこれで全部片付いちゃう…。
(あたいはユーヤが…好き? それも親友じゃなくて。……恋なの?)
あたいは親友と見ていた。親友で続いていくと思っていた。でも、すぐ違うものに変わっていた。今、遠くに居るユーヤを見ても、親友として見てない自分がいる…。
(は、はうぅぅ…)
違う好きとして……見てる。
「どーしよう……マリサの言う通りだよ。ユーヤに恋しちゃってるよ。昨日は親友になるって言ったのに…」
「ずいぶんと早い実りだったんだな」
「どうしよう……この気持ちどうしよう…」
「簡単に言うなって思うかもしれないけど、あいつにちゃんと伝えれば良いんだよ」
「そ、そんな事できないよ! ユーヤの事、まともに見れなくなっちゃったし、ユーヤはユーヤであたいの事が嫌いなんじゃないかな…」
あたいがそう言うと、マリサはため息をし、あたいのおデコにデコピンをくらわされた。
「イタイっ! な、何するの!?」
「いつものお前らしさは何処へ行った! それにお前の事が嫌いなら、あんなにもお前との約束を守ろうとしないだろ!?」
「でも…」
「あーー、もう分かった! もしダメだったら私の所へ来い! 慰める事しかできないけど、お前に付き合ってやるよっ!」
マリサは乱暴そうに言ったけど、あたいのために言ってくれていた。あたいたち敵同士なのに…。
「何でマリサはあたいのために…」
「伝えられなくて後悔した奴にならないためだ。誰かさんみたいにな…」
マリサは帽子から何かを取り出し、あたいに差し出した。小さい布みたいな物だった。
「恋愛のお守りだぜ。まあ、あいつ鈍感だし時間かかるかもしれないけど、頑張って想いを伝えろよ」
「で、でも…」
「お前は最強じゃないのか?」
「そ……そうだもん…」
「だったら、伝えろよ。ツンツンしないで素直にもなれ。まあ、私が言いたいのはこれくらいだな」
「……」
最初、あたいはこの好きという感情が分からなかった。ユーヤに恋してるって分かった今も、動揺してるし、驚いてもいる。
だけど、あたいはこの気持ちを………伝えてみようと思う。遅くても良いから、ユーヤに伝えてみようと思う。伝えられなくて後悔だけはしたくないから…!
あたいはお守りをギュッと握り締めた。
「あたい……いつになるか分からないけど、ユーヤにこの気持ちを伝えてみせるよ! サイキョーのあたいが弱気になっちゃダメだもんね!!」
「おおっ! その意気だぜ!!」
この気持ち……いつかユーヤに届けたい…。
ユーヤに恋心を抱いたのにも一応は理由があります。今はチルノ自身すら分かっていませんが、後に明らかになっていくと思います。恋の落ち方が唐突(何となくチルノらしいと思って)とか言わないでねw