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エロス像前

キース・ブラウンはイギリス、ロンドンのピカデリーサーカス駅、エロス像の正面に立っていた。

時計に目をやりイラついた様子で舌打ちをした彼に周りの人々がさっと距離を置く。


彼がここにいる理由は他の人々とさほど変わらない、知人との待ち合わせだ。

しかし、このたくさんの人々の中でも体感にしておよそ26年振りの再開を果たすという人はいないのでは無いだろうか。


待ちくたびれた彼がどこか暖かい場所に入ろうかと辺りを見回し始めた時、彼の待ち人が現れた。


「ごめん、キース。」


遠くから茶髪の女が手を振っている。

しかし、彼は振り返すこともなく女の首を掴んだ。


「こっちがどんだけ待たされたと思ってんだ。」


「分かったよ、だから謝ってるじゃないか、キース。それよりも手を離してくれないか?冷たいよ。」


「誰のせいだと思っていやがる、冬のロンドンに異国から来た友人を放置とはいい度胸してんな、相変わらず。」


女はひーっと小さく悲鳴を上げながら言った。


「そっちも口と目つきの悪さは相変わらずだね。あ、低身長もか。」


男はこの言葉に悪い目つきを一層悪くした。


「誰が低身長だ、このがさつ女が。」


「あっれー?私の首を掴んでいる奴より小さい男なんているかなー?あ、いたよ。」


女が指差す先には両親に手を引かれる7、8歳の少年がいた。

キースは容赦無く女の首に力を入れた。


「痛い、痛いよ。キース、ごめん。遅れてしまって本当に。」


女が謝ったことに気を良くしたキースは手を離し、黒々としたエロス像に背を向けた。


「お詫びに今日はお前が奢れ。」


不平を述べる女、シリル・ラセターを視線で黙らせたキースはあらかじめ調べておいた近くのチェーンのカフェへと足を運んでいた。

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