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【※警告※】残酷な描写あり。自己責任でお読み下さい

「五條区の二番地で女性が殺傷される事件が起こりました」 


 青いビニールシートで惨状のある場所を全て隠している。

 テレビに映してはならないように、厳密に囲われていた。


「怖いわね。ミナトも気をつけなさいよ」

「うん」

「こんな時くらいバイトを休ませてもらったら?」

「いま繁盛期なんだよ。そんなことできない」


 食パンを齧り、最後の一片を口に含んでから席を立つ。

 玄関を出るまで母親が喚いていたが、扉を閉じて歩きだす。

 早朝から天気も良く、視界も良好だ。近所で行き交う人達もいつも通りで、何も不安に感じることなどない。

 

 ミナトは不意に誰かとぶつかった。

 すみませんと謝ると、相手は何も発することなく、ミナトとは反対側の道を行く。


「変な人……あ、やば、遅刻しちゃう!」


 バーガーショップの店員の服を着て、今日も笑顔でスマイルだ。

 今日は新作メニューの発表で、忘れないように何度もチェックして頭に叩き込む。

 開店時間になると客がなだれ込み、列をなして注文を受けた。



***


「今日もあのお客さん来てるわよ」


 同じレジ接客の由美が、こそりと喋りかけてきた。

 首を傾け、誰のことかと尋ねてみる。

 

「注文受けた時なんだけど、声が低くて聞き取りにくくてさ。二、三回聞き直したのよ。それから毎日は同じメニューばっかりで。注文受けるこっちはすんごい楽で助かるけど」

「うん」

「常連さんなら会釈くらいあっても良いって思わない? ちょっと感じ悪いよね」


 チーフマネージャーが聴けば叱責ものだ。

 この会話を早めに切り終わろうとすると、耳元でボソリと言われた。


「こっちを何度も見てるみたい。誰かお目当ての人がいるのかもね……」

「えっ!」

「こんど観察してみて……もしかしたら、ミナト狙いかもね」


 意味深な笑いで由美は笑う。

 対するミナトはあたふたした。


「ちょ、ちょっとぉ……あ、いらっしゃいませ!」


 野球帽をかぶってるから視線など分かるわけない。

 ミナトは気持ちを切り替えてレジ打ちした。


***


「お疲れさまでした~!」 

「あっ、ミナト、ちょっとお茶しない」

「良いわよ。さ、シェイク飲もうか」


 従業員らは割引がある。

 ミナトも由美も、小腹が空いていたのでセットを頼んだ。


「あ、ねぇ見て」

「ん」

「あの人まだいる……」


 ミナトらの終わる時間にもまだ男性はいた。

 店の外に立ってある電柱に体を預けているだけだが、何かしている素振りはない。


「ミナトって好きな人いるの?」

「ぶっ! な、な、なんなのよ、いきなり!」

「まぁまぁ、あの男がミナトを好きだったら何かアクション起こすかもって思ってさ。で、どうなの」


 隠すこともしないお喋りは周囲にただ漏れである。

 ミナトは顔を真っ赤にさせて、由美を睨んだ。


「どうしてあの人と関係あるのよっ! 私は別に」

「好きな人が居ないって?」

「そういうこと! お生憎さま……」


 外を見ると、いつの間にか男の姿が見えなかった。

 ミナトも由美も、なんだか肩すかしをくらった気分である。



***


 帰り道に由美と別れたあと、ミナトは真っ直ぐ家に向かう。

 今日も疲れたから、すぐにお風呂に入ろうと思う。

 家に着いて気付いた。門のドアが開きっぱなしである。


 うちはちゃんと門の扉を閉じるのだ。

 母がそういうことに煩いから。


 不思議に思い、ミナトは家の扉を開いた。

 暗くて見えないが何かにぶつかる。たぶん、靴が散乱しているのだろう。

 壁側を触って電気を点けると、踏んでいたものに驚愕する。


「――――――!」

  

 所々に付着した血液に驚愕した。

 口元に手を当てて慌てて抑える。

 リビングへと続いている血痕を見て、真実を知らねばならないと心の声が脳内に響いた。


「お、かぁ、さん?」


 震える手で、血痕が付着したドアノブを開けた。

 伸びた鮮血の先を視線で辿ると、おびただしい血液の血だまりが床一面に広がっていた。見覚えのある頭髪、閉じられた瞼、口から流れ出る血糊。まさかと思いたくなかった。


「いや、いやぁ、おか、さん……」


 母親の頬に触れるか触れないかのギリギリの時点でギシリ、と二階から足音が聴こえた。震える体を叱咤してテーブルの下へ隠れる。ガチガチ鳴りそうになる歯を手で押さえ付けて悲鳴を飲み込むので精いっぱいだ。黒い革靴が床の上を歩き、しばらくそこを行ったり来たりしているのを眺めるだけ。



 ドスッ!



 頭部に目掛け、一突きした包丁に眩暈がする。

 母親の頭部をビニール袋に入れてどこかへ去ろうとする犯人に、ミナトは悔しくて、台所のシンク下にある包丁を奪い取った。

 刺したあとのことなど知った事か。一矢報いるためだけに、犯人の背中に向けて包丁を掲げる。しかしミナトには出来なかった。足が震え、腰が立たなくて無理だったのだ。自分の身体が恐怖に震え、悔し涙を零していると、犯人の血に濡れた指が涙を掬い取った。



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