人生に疲れた親父みたいな子供
幼稚園が始まり、役員も決まってホッと一息をつきたい!今日だ。
この日も朝から始まるママさん達の会話に、私達職員は耳がダンボになってしまう。
「ねえ〜そう言えば、◯◯さんって全然挨拶しないのよね〜」
「ほーんと、全くお金持ちだからってツンツンしてんのかしらね〜」
このママさん達はそう苦言を言ってるが、私達職員が「おはようございます〜」と挨拶をしても、知らんぷりしてんのはどっちなんだよ。
そのくせ、彼女達は教育ママで有名だ。
この聖南十字学院は幼稚舎からあるが、そこから全員が全員初等部に行くわけでもない。幼稚園にいる間にランダムで試験があるのだ。
初等部に行くのは子供だが、親を見ればその子がわかると言われるくらい、ここの初等部の試験は親重点だと言う事はあまり知られていない。
椿はそのママさん達が自分達の子供には聖南十字学院初等部に行かせるために塾やら習い事を子供達にさせているのを知っている。
本当は、自分達の行動を改めた方が一番近道なのに…。そうは思っても、こればかりは極秘事項なため、職員達には試験内容には箝口令が敷かれている。
「つばきせんせい〜。おはようございます!」
「おはようございます。正木君。義紀君。昨日はよく眠れましたか?」
「「はーい」」
一応は是と返って来る返事だが、ちらちらと母親の方を見ていると言う事は、言わされているって言うのは誰でもわかる。
少し欠伸をし始めた正木君に、大丈夫かと声をかけると子供とは思えない言葉で返って来る。
「んーだいじょうぶだよ。せんせい。ぼくがしっかりやらないと、パパはママにしかられるから。がんばるよ」
正木君、あんた本当に年中さんなの?
「ああ〜そうだよね。 まさき、きょうもあそぶぞ〜」
「おー。よしき〜」
この2人の将来が少し垣間見えて来たのは、私だけでしょうか?
この幼稚園の一日は8時に校門を開けると共に、早い子は自分達の鞄をさっさと自分のクラスに置いて来るとスモックに着替えて園庭に出て来る。
8時45分まで朝の外遊びが始まるのだ。
45分になるとクラッシックの音楽が、スピーカーから鳴り出すとお片づけの時間。そこで校門は閉まる。
だが、毎日必ず遅刻して来る親子がいる。
初めは「あらあら」で済ませられるが、それがずっと毎日ともなると、呆れてしまう。
この日もその親子はいつものように校門が閉まってから、慌ててやって来た。
いや、慌てているように見せかけてるんだろうな…。
大体、駅から園までの距離は直線距離で!Km弱。そこをてくてく歩いて来て、幼稚園が見えてもゆったり歩いているから、この親子は確信犯なんだろう。
「おはようございます。真子ちゃん」
「おはようございます。つばきせんせー」
「すみません。遅れました」
「日向さん、後10分ほど早く起きられると、真子ちゃんもみんなと一緒に遊べると思いますので、頑張って起きて下さいね」
「はい。すみません」
本当に消え入りそうな声で言って来る日向さんだが、明日から改心して早く登園して来るのかわからない。
それはこれからだ。
子供ってふと面白い事言ってくれますよね。