日本語で話してるでしょ? 改稿 加筆(5/1)
ハーレークィーン物を書いてみたくって、書いちゃいました。
椿の誕生星座を蠍座→乙女座に変更しました。
「おばちゃん〜焼き肉定食!」
「あいよ〜」
ここは普段なら企業戦士や団魂世代のサラリーマンに人気の食事処。今時珍しくお品書きは手書きと言う団魂世代には懐かしいと感じさせる、そんな昭和の香りが漂う食事処『たんぽぽ』。
ここの目玉は何と言っても、懐に優しいワンコインのランチ定食と月に一度現れる姫達だ。
その姫達が現れると、この昭和の香り漂うたんぽぽもオシャレに見えるから面白い。
その姫達はカツラなのか銀に赤に青と言う頭にそれぞれ着ている衣装もどこかのお祭りかテレビ番組のロケから抜けて来たのかと言わんばかりに決まっている。
ーねえ、今日ってアニフェスとかやってたっけ?
ーわぁ〜俺、初めて見たよ。あれってビスクドールってやつだろ?やっぱ、カメラとか周りに仕込んであるんじゃないのか?
お盆を抱えたスタッフ達もちらちらと派手な客達の方を見ている。
客の中には、携帯でいきなり写真を撮ろうとしているものいた。本来ならば店の店員である彼らがそんな客の行動を止めなければならないのに、客と一緒になって彼らもその変わった客の姿を携帯電話に納めている。
「すみません。注文まだなんですけど。まだ水も来てないし。早く注文取ってくれない?あ、私日替わり定食ね」
「あ、私も同じの〜」
「私も〜」
「は?」
注文を取っていた店員が、フリーズしている。無理もない、目の前には美女三人に見つめられて(睨まれている)早く早く〜と言われ、彼の下半身は爆発寸前。
ここは駅から徒歩数分の平日はリーマン達が好んで来る定食屋。
昼は忙しいサラリーマン達がご飯をかき込むと所。
そんな昭和の臭いがプンプンする定食屋にオタク系の雑誌から抜け出して来たような女性三人に見つめられれば、誰だって陥落する。
一人は外国人。このフランス人形みたいな美少女が頼んだのは本日の日替わり定食。
ネギトロ納豆たっぷり定食だ。
何でネギトロ納豆たっぷり定食を食べるんだ?
彼女のような人が食べるのは香り高い紅茶とクラブサンドだろ!!
「は?」
「は?じゃないでしょ?」
それでも店員はまじまじと彼女の顔と本日の日替わり定食(納豆定食)の写真と見比べている。そして何を思ったのか、いきなり彼女
ビスクドール
の地雷の一つを踏んだ。
「アイアム、ジャパニーズ ノーナットウ!」
その言葉に、愛らしいビスクドールのこめかみに青筋が立つ。
「そんなん見りゃあ分かるわよ。何なのよ!納豆頼んでいる人いるじゃないの!早く注文取りなさいよ。私らはお腹が減ってるんだからね!」
銀色の髪をした彼女はすでにこの状況には慣れているのか、呆れたような視線を店員に流すとガタンと立ち上がった。
失礼極まりない男性店員よりも頭一つ高い彼女はにっこり微笑むと定食屋のメニューの中にあるネギトロ納豆たっぷり定食の画像を指差した。
これでわからなかったら、コイツは店長
マスター
に一言文句言ってやる。
だが、哀しいかな。写真付きのメニューを指差されても、このオバカな店員は合点が行かないのか首をしきりに傾げる。
やはり無能だったのだろう。少しの間を置いて、いきなり女の方を見ると顔を紅潮させた。
「ディスイズ ア ペン」
自慢げに普通のボールペンを見せて来る店員。
「「「……」」」
こっちはお腹が空いているのに、この店員、一体何を言いたいんだ?
「見りゃわかるでしょうが。それがあんたには納豆に見えるのか? あんたね〜人をバカにしてんの? それとも試してんの? もういい!マスター呼びなさいよ!」
お腹が限界にまで減っている椿がとうとうキレて、マスターを呼べと騒いでいるのに、この店員はさっと顔を青ざめさせると自分のズボンの前を探り始めた。
何考えてんの? もしかしてマスターだと言っているのに、変なことをしろと言ってるように聞こえたらしい。
一体どんな耳してんじゃ!
それで出て来た言葉が。
「ま、マスター◯ーション? アイム ア ドーテー」
何で童貞が片言になってんのよ!童貞は英語じゃないだろ!
「んなの知るかよ!! 責任者を呼べって言ってんの!碇さんいるんでしょうが! 彼を出しなさいって言ってんの!」
とうとうキレた彼女の声に慌てて出て来たのは、頭にねじり鉢巻、黒ブチの丸眼鏡をかけた色の浅黒い男性は呆れたようにため息を吐いた。
「椿さん…またあなたですか…」
仁王立ちになって笑顔で怒っている彼女を見た男性は、ため息を吐いた。
「大将、知ってるんですか? この外国人?」
店員は白髪混じりの自分の雇い主に向かって、ため口?それってダメっしょ。
まあそれは置いておいて。それよりもこのおバカ店員が言った言葉が問題だ。
『この外国人?』
外国人って何よ! 私は日本人だって言うの! それに何?あの態度は?!椿の頭の中では理性Aと理性Bが喧々囂々のつかみ合いをやっている。
理性Aは大人の対応でもっと円滑に物事を済ませようとしている。
理性Aーまあまあ、この店員だって悪気はないみたいだから、今日の所は多めに見て…とニコニコ顔。
だが、理性Bは教育者としての理念で、ダメな事はダメだとはっきり言う方が世の中のためになると息巻いている。
理性Bーこの店員に悪気はない?違う悪気とかの問題よりも大事な事を忘れてるよ。大体、店長であるマスターにため口を叩く事自体、間違ってるって知らないとこがダメだね。そんなことじゃこの世知がない世の中では生きて行けないって知らないのかな? 今のうちに悪い事は悪いと厳しく教えておかないと、その内大迷惑をみんなにかける可能性大だわ。
今のうちに矯正するに超した事はないのよ。わかった?!
「椿さん落ち着いて落ち着いて。これ、今度使ってね」
そんな椿を宥めるように碇が定食タダ券をくれたけどさ…。これ平日って私らの職業やってれば無理だし、使えない。
で、この失礼極まりない男は、何でまだ私の事を指差してるのかな〜。
一応これでも客なんだぞって声を大にして良いですか?
接客業は客に対して指差すな〜!!!
「三木さん、君ね……もういいよ。こちらのお客さんの注文は僕が受け取るから。君は帰りなさい。全く客が注文しているのに、何を聞いてるんだ? さ、椿さんお待たせいたしました。ご注文は日替わり定食で?」
店長は笑いながらも日替わり定食のメニューを書き込むと、全くお手柔らかに頼みますよと苦笑い。
あの店員、もうお仕置き部屋行きだろうな…。
お仕置き部屋と言うのは、この店のお品書きをひたすら和紙に書かせられるお仕事の部屋である。
「うむ。良きに計らえ」
「椿さん、それって使い方違うでしょ〜。でも椿さんならあの子を育てられると思うんだけど、どう?教育者として腕がなるでしょ?」
どう?ってなんすか。
今のこの季節が私にとって一番精神的にキツい時期だと知ってて言ってるのかね。
そんな暇はないとばかりにギロリと店長を睨めば、マリア様と言われ十字まできられて拝まれる始末。
これ以上目立ちたくない。
なら…と言うことでアドバイスだけ出しておいた。
「そうね…。来月までにマニュアルを憶えて、後は言葉遣いに頭髪をなんとかすればいいんじゃないの?客商売で俯いたままなんてちょっとね。まあ、たまにテストとしてまた来るから、その時までに客の前で自慰行為なんてしようとかしなければ良いんじゃないの?」
「自慰行為って……(チロリと三木を見ればお品書きで自分のテントを隠している)本当に申し訳ない!!じゃあ、それまでアイツは俺が教育しておくから、椿ちゃんも安心してよ」
ご機嫌な碇店長の後ろ姿を見て、してやられたと思った。
多分だが、今日の集まりでここでお昼を食べようと言い出したのは京子達だ。
「あんた達、謀ったわね!」
「え〜私達はただ、碇さんの新人教育が上手く行ってないから手伝ってくれ〜って泣きつかれたから来ただけよ」
ふてくされた椿がここは二人のおごりだからと言えば、ニヤニヤと笑って来る二人の手には、割引券が。
や ら れ た
そんな感じで不機嫌だった椿も注文の日替わり定食がテーブル並ぶと、途端に笑顔となる。
女三人よれば姦しいと言うがこの三人はどうやら普通とは違うようだった。
「やっぱり納豆よね〜」と一言口にしただけで、後はお通夜かと思うほど黙々と一心不乱に食事に集中してる。
「どうしてもっと日本人って顔に生まれて来なかったのかなぁ」
そう椿が何気なく愚痴れば、二人はなんて贅沢な悩みだと言い出す。
彼女達の周りにいる客達も一斉に大きく頷いている。
椿とて二人の悩みの方が贅沢に聞こえるのだ。
黒髪が重すぎて髪を染めたいし、ウェーヴもかけたいなんて勿体ないし、そっちの方が贅沢な悩みだ。
毎回、この二人に連れられて×ゲームの如く着替えさせられ、そのまま道を歩けば外国人観光客に囲まれるし、仲間だと思われてツアーに連れて行かれそうになった事なんて両手の数以上だし。
たまに違うレストランやショップに行ったとしても、通訳とか言われて変な英語を話す店員を連れて来られることなんて序の口。
パブが立ち並ぶ道を三人で歩いたりしたら、お店に店員として引っ張り込まれ、義兄まで呼ばなきゃいけなくなった事もあった。
椿自身、自分がこんな見かけだから、どれだけ日本語を流暢に話しても、怖がられたりするのはいつものこと。
おうむ返しかと突っ込みたいくらいの片言の日本語で返されたりしても、笑顔でスルーしているが、内心『私は宇宙人じゃないし、化け物でもないと怒ってる』。
「「まあまあ」」
鯨でもつり上げそうなくらいに眉を顰めて熱弁を奮う銀髪の女性。
それを宥めてくれる二人の親友に、ビスクドールも大変だねと同情される。
笑い事じゃないのだよ君達。
街をこの格好で歩かされているから、今日はいつもよりも見物人に囲まれていたし。
殆どの人達が携帯電話片手に『はあはあ』言っているって、ちょっとこの日本の将来考えると怖いんだけど。
「ところでさ〜、何? その何とかドルって? どっかの国の通貨なの? それともお菓子に着いて来るオマケなわけ?」
ずるずると納豆を口の中に入れた椿は嬉しそうに目を瞑るとお茶を飲んで一息を入れた。
「「え……何でそう来る……」」
ぷは〜!!
おしぼりで顔をふく彼女を見て二人は、日本中のアニオタとビスクドール目指してる子達に謝んなさいと言って来る始末。
「??」
北川京子と里見 菜々は椿の高校時代からの親友だ。声を揃えて目の前にいる自分達の親友の言葉に呆れてる。
二人の親友の早乙女 椿は外見は動くビスクドールそのもの。口を開けば、お前は親父か?と思うほどの残念女子だ。
その行動も然り。まずおしぼりで手を拭く前に顔や首筋を拭うと気持ち良さそうな顔をするのはもちろん、ぷはぁ〜なんて言ってるし…お茶を飲んだ後は必ず爪楊枝を使っている。
「椿……あんた本当に残念女子だわw」
「その外見で、親父思考は詐欺だわw」
呆れる二人に構わず椿は目の前の納豆定食に夢中だ。
「え? ひはうほ?」
ごっくんと口の中の物を飲み込むとお茶おかわりね〜と頼んでいる。
「…椿…あんた仮にも幼稚園の先生なんでしょ? もう少し行儀良く食べなさいよ」
ごくんとご飯を飲み込んだ椿は、あーマジ死ぬかと思った。一瞬お花畑の向こうに死んだおばあちゃんが見えたわと涙目で胸をドンドンと叩きながらも、急いで味噌汁で無理矢理、喉に詰まったご飯を胃袋へと流した。
「一度、そのおばあちゃんに淑女とはって習ってくれば良いじゃん」
「そうだよ。椿の親父女子だって治るかもね」
確かに私のおばあちゃんは社交界の中でも凛と佇む一輪の気高き蘭とか言われてたけどね、そんなおばあちゃんに見かけだけはそっくりな私は両親や親戚達に『詐欺だ』『メッキだ!!』『はりぼてだ〜』なんて酷い事ばかり言われてる。もう今ではだから何?って睨んじゃうくらいだけどさ。昔は大泣きしてた。
全く失礼しちゃうんだから。
さくらお姉ちゃんみたいだったらと何度言われて来た事か大人しくて
「ふ〜んだ。どうせ私は女子力が低い親父女子ですよ。あのね〜、私だって年がら年中、幼稚園の先生やってるわけないのよ。オフの時は、素の私でいたいの」
「あら、椿のくせに捻くれちゃったわ。あの天真爛漫で素直な椿はどこに行ったのかしらね、お母さん哀しいわ」
「私は同じ年の母親なんて持った事ないわよ。しかも二人も」
「「あら奇遇ね、私だって同じ年の子供なんて持った憶えないもの」」
本当に勿体ないわね〜なんていってるけど、この二人が考えている事ぐらいお見通しなんだから。
歩くだけで男に取り囲まれるんだから、そこのところ上手く利用してやればいいのに。
私があんただったら嬉しくて沢山の男達に貢がせるんだけどねなんて、黒い笑みで言われてご覧なさいよ。もう恐怖だから。
この悪女を地で行くのは私の悪友で幼なじみの北川京子。大人ショートカットで凛々しい眉が印象的な二十六才独身。彼女の髪が後二センチ短かったら、ヘルメットって感じ。美人は何をしても許されるのかな。
声が少し低いけど、そこは彼女の笑顔でみんな騙されちゃう。
そんな京子の父親は、北川桂西と言う日本芸術界でも有名な水墨画家。北川桂西画伯の絵は、一枚数千万から値がつくと言うからすごい。父一人娘一人だから京子の彼氏になる人は、相当大変な思いをしないと彼女とは結ばれないだろう。その前に彼女の親衛隊からの報復が怖いんじゃないのかな。これまでの歴代の京子の彼達は、京子付きのSP達&親衛隊によって蹴散らされて来た。それでも彼氏達を複数作っていた京子の執念って…勲章物だわ。
「京子はもう、貢がせてるでしょ。椿あなたはそんな事しなくていいのよ。そう言うの椿には無理って分かってるから。京子みたいな悪女テク覚えなくていいのよ。だって人には向き不向きって物があるんですもの。バカな子ほど可愛いってよく言うでしょ?」
スズランのように可憐な笑顔でさっきから毒を吐いているのは里見菜々。
里見流茶道の家元の母親と、写真家の高木竜之介を父に持つ、正真正銘のお嬢様。
そんな菜々は保健医として聖南十字学院で働いている。それと平行で、次期家元の修行中だとか言っているから本当にお嬢様って大変だよね。
常日頃、結婚するなら嫁に行かずに婿に来てもらいますのと豪語している菜々は本当に現実主義者。
確かに次期家元の婿になるには、同じ業界じゃないとダメだろうしね、菜々も大変そうだ。
無責任に騒ぎだす親友二人に、椿は他人事のようにお新香を口に入れるとパリパリと食べ始めた。
「ねえ、椿は職場で出会いとかありませんの?」
「へ?何それ。あーのーねー菜々、私の職場はあなた達と同じ学校系列なのに、そんな出会いなんてあるわけないに決まってるでしょ。 まあ、今の職場で出会いを求めてもねー。無理だよ」
「あら?好きな殿方でもいらっしゃるの?」
菜々のおっとりした言葉に思わずお茶を吹きそうになった。
「ぶっ!!」
汚い(ですわよ)って二人から子供を叱るように言われたけどさ。
「人の家庭なんて壊したくないしさ。子供あっての私達の仕事じゃん」
「「確かに……珍しいけど、椿の言う通りだ(ですわね)でもこのまま化石になっても良いのかしらね」」
「なっ!何それ化石って…ひど!!」
この三人の仕事は仕事場は違っても一応教員。椿は私立聖南十字学院幼稚舎で幼稚園教諭を。
北川京子は同じ学院の小学校で小学校教諭を。そして里見菜々は同学院高等部で保健医をしている。この三人は聖南十字学院大学の卒業生。
この聖南十字学院は一般的に言う上流階級の御曹司や社長、財閥令嬢達が通う学校だ。
二人とも今度の日曜日に二家族揃って、合同見合いがあるとかで、もしそれが纏まったら、こうしてたまの休みに食べに行くのも最後になるだろうって言っている。
そんな楽しいランチがさっきの場違いな勘違い店員に水を差されたのだ。
「ぷっはぁ!!」
昼だと言うのに、店長からの差し入れでビールを飲んでいる。
「やっぱ未使用とかってみんな嫌煙されちゃう年なんだよね…」
ぶぶっ!!
里見と京子がビールを鼻から吹きそうになった。汚いと言いながらも、彼女達におしぼりを持たせると、椿はコップにビールを注ぐとぐぃっと喉に流し込んだ。
「椿!あんた酔ってない?」
「椿…お下品ですわよ」
「まだ大丈ぶい♪ だ〜って、ビール一杯しか呑んでないし。にしてもさ〜、京子も里見も来週にはお見合いなんでしょ? あーこの中で独身は私一人になるんだ…哀しい…」
これ、私です。早乙女 椿 花の独身!年齢はピチピチ(完璧に死語だわさ)二十八歳乙女座よ!
これまでの二十七…もう二十八だったかを降り返って見ても、ろくな男と付き合った事なかった。
そりゃあ、私にだって一応彼氏?って言う人は何にかはいましたよ。京子や里見達に言わせると変な彼氏達…まあ、二人がそう言うのも分からない気もしないわけでもないけどさ〜。だってね…デートとか言って公園に連れて行かれて、いきなり撮影会になるんだもん。ほんと、カメラ持ってハァハァ。
そんな彼氏達は私を彼女扱いではなくって、女神扱いだったから手もつないだ事もキスもない。
そう考えると私って本当にとーっても残念な女だ。
昔干物女って流行ったけど、あれは仕事に頑張るけど家ではジャージ着てる人の事を言う。
でもさ〜、そう言う人達は仕事に行く時はちゃんとした格好をして行くんだよね。私とは正反対だ…。
いや違う。家でも外(仕事場)でもジャージの私は……きっと取り込み忘れた干物を通り越してガッチガチの『化石』なんだろうね。
もし、その化石がティラノザウルスとか、プラキおザウルスみたいな、超一級の恐竜だったら良いわよ。
私ってば、なーんも価値のない化石だし、そこら辺の石っころと下手したら間違われて、ポイってその辺に捨てられちゃうような化石なんて自分で言ってて哀しいわ…。
今日の服だって、京子と里見に朝から強制的にショッピングと言う名の連れ去り拷問に付き合わされなきゃ……絶対にジャージだったわ。
普段の私なら、絶対にぜ〜ったいに着ないし選ばない。だってこ〜んなフリフリでピラピラな洋服なんて…は、恥ずかしいし誰かに見られたりしたらって思うと…穴があったら入りたいくらいだわ。
このレースのフリフリでピラピラな洋服を私の前に突き出して来た時の里見と京子のあまりの迫力に、思わず引き攣ったよ。
「あ…あのさ…」
「「私達からのプレゼント(ですわ)よ」
これを着ろと?
差し出された服を指差せば、二人とも無言で頷くんだもん!
怖〜よ!
キラキラ笑顔なのに、目が笑ってないってどう言うことよ。
大蛇二匹に睨まれたカエルの状態で身動き取れなかったし、こう言うのって目で金縛り?しかも、人のお気に入りのケリーバッグを物質にとってるし……。
がっくり両肩を落として嫌な事はさっさとやるしかないか……。そう思って着てしまったのが運の尽きだった。
一応着たんだから、元の洋服に着替えようってしたら……ない? 何で?
「椿、服はこっち。早く出てらっしゃい!」
「あ、あのさ〜出て来なきゃダメ?」
「「当たり前でしょう! 今日はあんたの誕生日でしょ!(ですのよ)!」」
そうです。本日八月二十三日は私、早乙女 椿の二十八才の誕生日なんです。渋々フィットルームから出てくれば、アパレルショップの店員さんも目を輝かせた。
「お似合いです〜!!」
な〜んて言ってたけど、絶対ウソだ。あれは売り上げ上げるための口からでまかせだ。
ちなみに私の着替えは、あの後里見と京子が持ってる(お付きの人がだ)。
あーこれで今日の私は見せ物に決定。
あー早く着替えたい〜。納豆を服に零して『着替えて来る』って言っちゃおうかな〜。
「椿。納豆零さないでくださいよ。子供じゃないんですからね」
「着替えたら、シバク!」
こ、こいつら……。人にはこんなメイド服か不思議の国のアリスみたいな格好させておいて…。あんた達は普通の格好かよ。絶対、ここから出たら無理矢理にでも腕を組んでやる!
にっこりと微笑んだ私が二人をコスプレショップに連れて行ったのは、許される事だと思う。
それぞれショップの店員によってアニメキャラにさせられていた。京子はなんで私だけ軍服?と文句を言っていたけど、軍服萌えなのかさっきから鏡の前でポーズをとっているし…。
里見は爆弾ボディを生かして、結構きわどい格好をさせられている。始めは恥ずかしがっていた二人だったけど、私から「さあ、外に行こうか!!」と公開処刑を言われ、三人は街の中を練り歩いた。
その日の夕方のニュースでは普段は混雑しない道路は渋滞し、警察が交通整理をするほどの騒ぎとなった事を告げた。その模様を上空ヘリからの撮影で黒い集団の一番先頭で歩いている三人の顔が映った。
京子と里見は帰宅後、それぞれの親に話し合いと言うお説教の場を設けられたとか。それ以来、二人は椿を使ってコスプレさせる事を諦めた。