No.なな
キーンコーンカーンコーン…
授業も終わり、皆がぞろぞろと帰る支度を始める。
残念ながら、私は専門委員会があるため帰れない…
「じゃ、聖またね。」
「うん、ばいばい。」
理子と別れをした後、委員会に必要なものを持って教室を出ようとした。
…あれ?
瀬崎君いつ帰ったんだろう?
さっきまで、うつ伏せで寝ていた瀬崎君が隣に居たのに、今は綺麗に椅子がしまってある。
帰るの早いなー…
ちょっと気になりながらも、委員会に行くために教室を出た。
「失礼します…」
委員会は三年生の教室でやるため、緊張しながら指定された教室の中に入る。
「おっ、夏川早いな。」
「あ、先輩こんにちわです。」
教室には篠田先輩と、何人かの生徒が来ていた。
「面倒だよなぁ、委員会って。」
「それ委員長が言うセリフですか?」
「委員長だからこそ面倒くさいんだよ。」
「皆が聞いたら呆れますよ。」
「皆誰しもそう思ってるさ。」
そんな他愛もない話をしていると、先生が来て委員会が開始された。
………………………………
「では、今日の図書委員会をここで終わりにします。礼。」
篠田先輩のはきはきとした声と共に委員会が終了される。
今日は説明だけだったため、思ったよりも早く終わった。
「ふぅ…」
持ち物を持って教室を出ようとした時、窓の外からザーザーと音が聞こえる。
「嘘…」
さっきまで晴れていたのに、いつの間にか土砂降りな雨が降り出していた。
こんな時に限って、私は傘を常備していないのです…
「はぁ…」
「何?夏川傘無いの?」
大きなため息を吐いていると、篠田先輩が声をかけて来た。
「はい…忘れてしまいました。」
「じゃあ、俺の貸すよ。」
「え?いや、いいですいいです。」
「俺のためだと思って借りてくれよ。」
「どういう意味ですか…?」
「彼女と相合傘できるから。」
「………」
そういう事ですか…
彼女さん、待ってくれてたんですね。
「…じゃあ、お言葉に甘えて。」
自分のためにも、先輩のためにも、傘をお借りする事にしました。
「よしっ、じゃあ一年の下駄箱で待ってて、傘取って来るから。」
「はい。」
そういって、お互い教室を後した。
一度教室に寄ってバックを取り、昇降口へと向かう。
階段を降りて下駄箱にでた瞬間、衝撃的なものを見てしまった。
「……瀬崎君?」
下駄箱の横に座り込んでいる瀬崎君を見つけました。
「あ、聖ちゃん。」
彼は顔をこちらに向けると、「よいしょっ」と言って立ち上がる。
どうして…?
何で彼がここに居るのか不思議だ。
一瞬、幽霊でも見たのかな?と思ってしまった。
そう思っている内に、瀬崎君は近くまで来ている。
「な…んで…?」
「あぁ、今日委員会だって聞いたから。」
「そうじゃなくて…」
「あ、俺は全然大丈夫だよ。聖ちゃん終わるの早かったし。」
「………瀬崎君。」
「はい。」
「何で私を待ってたんですか?」
「あー……」
瀬崎君は私から視線を逸らと、
「聖ちゃんと、話したかったから…」
そう言って弱々しく笑った…
私と…?
急な事で驚いた…
正直、瀬崎君が話し掛けてくるような事に心当たりは無い。
何で……
どう返していいか分からず黙っていると、遠くから篠田先輩の声がした。
「おーい、夏川ぁー。」
「あ、先輩…」
大きな声で駆け寄って来る先輩に、失礼ながら、少し空気を読んで欲しいと思った…
「待たせて悪いな。」
「いえ、全然平気です。」
異様な空気に耐えながら何とか返事をすると、横目で瀬崎君を盗み見た。
うわ…
第一印象:どうしちゃったの?
瀬崎君の顔は、まぁ、見なきゃ良かったって思うくらいクシャクシャだ…
え?ど、どうしたんだろう?
まさか、気分悪くなったとか?
気になってあたふたしている私とは逆に、先輩は平常な顔をしながら口を開く。
「そういや、夏川教室に委員会の資料忘れてったぞ?気を付けろよ。」
「ありがとうござ……って先輩、私ちゃんと資料持ち帰りました。」
「まじっ?じゃあ、これ誰のだ?」
「名前見れば分かると思いますよ。」
「………あ、あぁ、えーっと…1年3組中林佳太?」
「何で疑問系なんですか。」
「俺こいつ知らないし。夏川返しといてくれない?」
「嫌ですよ、委員長がやって下さい。」
「まぁそう言わず、お前と同じ学年だし。」
「だからって…「先輩。」
篠田先輩と言い合いをしていると、今まで黙っていた瀬崎君が口を開いた。
「それ、俺が返しておきます。」
「お、おぉ…頼む。」
そう言って資料を受け取ると、私の方に顔を向ける。
………?
どうしたのかと思っていると、急に右手を掴まれた。
「じゃ。」
瀬崎君は先輩に向かってそう言うと、私の手首を引っ張って歩き出す。
えっ?えっ?
私はというと、未だに状況が理解出来ず、ただ引っ張られて歩くのがやっとだった。
何この展開?
まさか瀬崎君怒ってる?
怒ってるよね?
ていうかどんどん下駄箱と離れて行くんですけど…
この展開はあれだね。
うん。
私がフルボッコにされちゃうやつだ。
・・・・・
ぎゃぁぁぁ~!!
心の中で聞こえぬ悲鳴を叫びながら、右手を引っ張る瀬崎君について行った…
北校舎の階段の辺りまで来ると、瀬崎君はゆっくりと手を離してくれた。
「……ふぅ」
彼は息を吐くと、その場に座り込む。
………?
私は謎と不安な気持を抱えたまま、ただ立ってる事しか出来なかった。
「…聖ちゃん。」
「は…はい…」
「ごめんね…」
「……?」
ナゼ……?
別に謝るような事なんかしてないと思う。
むしろ、資料を預かってくれたのは良い事だ。
「いきなり連れて来てごめん…」
「いや、そんなの別に……」
「あと、会話邪魔しちゃってごめん……」
「えっ……?」
篠田先輩の事だろうか…?
そんな大した内容じゃなかったし、別に問題は無いんだけど…
何で、そんな申し訳なさそうな顔するの…?
「なんかね、最近パワーが出て来ないんだ。」
「……うん。」
「前まではすぐ充電出来たけど、今は充電器が行方不明中で。」
「……うん。」
「何度も探したけど、まだ出て来てくれないんだ。」
「……うん。」
「それで思った。俺、嫌われたのかなって。もしかしたら、他の人の所に行っちゃったのかもしれない。」
「……うん。」
「でもね、俺その充電器じゃなきゃダメなんだ。」
「………」
「今日やっと見つけて、近くまで来たんだけど、パワーが不足してて動けないんだ。」
「………うん。」
「もうほとんどの機能が停止しちゃってるけど、最後の力を使って手を伸ばしてみるよ。」
「……うん。」
「聖ちゃん、俺を充電してください…」
へっ……?
一瞬意味が理解出来なかった。
それって…
それって……
「言い換えると、瀬崎穂は、夏川聖が愛おしくてしょうがないんです。」
「っ……!!!!」
何これ…
心臓が爆発しそうなほど高鳴る…
何これ何これ何これ……
こんなに嬉しいなんて……
混乱する頭の中、なんとか言葉を紡ぎ出そうとした瞬間…
「でも分かってるよ、篠田先輩には敵わないって……」
と、瀬崎君がポツリと呟いた。
……はい?
その一言で、興奮していた感情が一気に冷めていく…
えーっと…うん。
何で先輩が出て来た?
理解不能過ぎて、出そうとしていた言葉も引っ込んでしまった。
「先輩は、勉強も運動もなんでも出来る完璧な人だ。」
「………」
「顔だってカッコいいし…」
「………あの…」
「だから、先輩に勝てるなんて思ってない。」
「………瀬崎君…?」
「でも、さっきの会話見てたら我慢出来なくて…」
「瀬崎くーん。」
「一番じゃなくていいんだ、俺は……」
「先輩、彼女いるよ。」
「俺は………えっ……?」
瀬崎君はポカンと口を開け、幽霊でも見たかのように固まった。
「先輩は、前から彼女がいたんですよ。」
「か……の…じょ…?」
「はい、現在進行形でラブラブです。」
「…じゃあ、聖ちゃんは……」
「先輩は恋愛対象外です。」
「………崖があったら落下したい。」
「いやいやそれは….」
そんな事したら、隠れるどころか死亡フラグ立っちゃいますよ。
「あ"ぁぁぁ~……」
「せ、瀬崎君?」
「…作者さん、今すぐ『No.ごぉ』らへんからここまでカットして下さい。」
「何言ってるの瀬崎君?」
「はぁ~……」
大きく息を吐いて、瀬崎君は顔を隠すようにうずくまった。
「瀬崎君?」
「良かった…」
「……?」
「先輩の事好きじゃなくて良かった…」
「っ……」
やばい…
今のはキュンときた……
瀬崎君の一言で、また心拍数が上昇していく。
「でもカッコ悪いなぁ、俺…」
「カッコいいよ……」
「えっ…?」
「さっきの瀬崎君、めちゃくちゃカッコ良かったよ。」
そう言った瞬間、瀬崎君がバッと顔を上げた。
「ほっ、本当!?」
「……うん。」
「本当に本当の本当?」
「本当だよ。」
「本当に本当に本当に本当「本当です。」
瀬崎の声を遮ってそう言うと、彼はニコッと笑った。
「では、改めて……」
瀬崎君は立ち上がると、私に視線を合わす。
「お返事、聞いてもいいかな…?」
そう言って、さっきの切なそうな表情に戻った。
「瀬崎君。」
「はい、えっ…?」
名前を読んだと同時に、瀬崎君の手に触れた。
瀬崎君はいきなりの事で驚いたのか、ビクッと震えた。
「ひ…、聖ちゃんどしたの?」
「充電してるんです。」
「充電……」
「瀬崎君は、私じゃなきゃ充電出来ないんでしょ?じゃあ、私もちゃんと役目を果たさなきゃ。」
「それって…」
「私が、これからも瀬崎君を充電し続けますから。」
「聖ちゃん…」
意味が伝わったのか、段々瀬崎君の頬が緩んでいく。
「私もね、ずっと瀬崎君を充電したかったんだ。」
「………」
「だから、話せない事が焦ったくって、ずっとモヤモヤしてた。」
「っ~~~…」
「だから、今こうしていられる事が……わっ…!」
突然、瀬崎君が抱き付いて来た。
その反動で、ちょっとよろけそうになる。
「聖ちゃん大好きっ!」
「えっ、ちょっ…」
「大好き大好き大好きっ!!もう、めーたんより愛してるっ!!」
「………」
※めーたん:瀬崎君家の犬
「じ、じゃあ、帰ろっか瀬崎君。」
「うんっ。」
そう言って、一緒に昇降口に向かおうとした時、ある事に気がついた…
「あ、傘借りるの忘れた。」
その後、二人共々雨に濡れて帰ったのはいい思い出にしておこう。