No.ろく
授業が終わり、号令が済むと同時に辺りがざわめきたつ。
瀬崎君も、席を立って何処かへ行ってしまった。
「ねぇねぇ、聖。」
「…ん?」
ノートを取り終わった理子も、一度のびをして後ろを向いて来る。
「なんかさ、最近の瀬崎君っておとなしいよね。」
「…そう?」
「そうだよ、だって最近授業に集中出来るもん。」
「なんか瀬崎君が邪魔者みたいに聞こえるんだけど…」
「え?違うよ、ただ瀬崎君のおバカっぷりが見れなくて寂しいなって思って。」
「……それ、褒めてんのか貶してんのか分かんないです。」
まぁ確かに、最近は瀬崎君によるアクシデントを見ていない…
ついにノーマルに目覚めちゃったとか?
まぁ、それはもう無理だろう…(おい)
でも、確かにおバカの無い瀬崎君なんて、髪の毛の生えた田中先生と一緒だ…
はい、マジ調子乗りました。
本当にごめんなさい先生。
今の言葉は胸の奥にしまって置きますから…
「おバカも見ないけど、最近笑った顔も見ないなぁ…」
「…そうだね。」
それは私も思った。
まぁ、それ以前に瀬崎君とあんまり喋ってないんですけどね…
毎日あの笑顔を見ていたから余計寂しく感じる…
「どうしたんだろうね…」
「うん、まぁ原因はなんとなく分かるけど。」
「…はい?」
「うん、まぁ原因は「2回も言わなくて結構です。」
言葉を遮ってそう言うと、理子が意味有り気な顔でこちらを見て来る。
「瀬崎君も哀れだねぇ…」
そう一言言い残し、
彼女は前に向き直ってしまった。
はて?
今のは何でしょう?
明らかに何かありそうだったが、ちょうどチャイムが鳴ってしまったため理子に聞きそびれた。
仕方なく授業の教材を用意していると、隣でガタッと音を立てて瀬崎君が戻って来た。
「………」
この人誰?
って思うくらい無言で授業の準備をしている。
「はぁ…」
何なんですか、もぅ…
やっぱり、こうなった過程が気になってしまう。
後で必ず聞き出そう…
頭の中でそんな事を考えながら、曖昧に授業を聞いていた。
……………………………
「ぐぅぅ…ぐぅぅ……」
……?
授業も中盤に入って来た頃、隣から場違いな音が聞こえて来た。
瀬崎君…?
右に顔を向けると、机に突っ伏してこちら側を向いている瀬崎君がいる。
「………」
……ちくしょう、
可愛いじゃないですか…
瀬崎君の寝顔は、まぁ、何とも美麗的だった。
長いまつ毛に綺麗な肌、目に掛かる前髪、
半開きの口なんてもう…
なぜか、自分の女子としての劣等感が湧いて来る…
あぁ、なんて不公平なんでしょう。
せめて、どれか一つでも交換できたらなぁ…
と、本気で思う。
しばらく瀬崎君の寝顔を見つめていると、彼のまぶたがピクッと動いた。
慌てて視線をはずすが、「んー…」と言いながら寝返りをうっただけて、起きる気配はない。
はぁ……
寝顔はちゃんと見れるのに、まぶたが上がった顔は見れないなんてどうかしてる…
やっぱ私はチキンなんですよ。
今の自分がもどかしくてしょうがない。
本当は言いたい事がいっぱいある。
だけど、私はチキンだから…
「瀬崎君、笑って……」
こういう時しか口を開け無いんです。