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No.ごぉ


あれから数日、明らかに瀬崎君の態度がおかしい。


いつも意味もなく喋り掛けてくるのに、今は全く何も言いに来なくなった。

でも、私から話し掛けると必ず返事はしてくれる…


これはどういう生態の変化でしょうか?

余りにも突然すぎて、正直今の状況について行けない。


私なんかしたのかな…?

いや、でも瀬崎君をこんなにも変えてしまうような事態に心辺りはない。


えっ、じゃあ…

もしや思春期…?

急に異性と話すのが恥ずかしくなった、的なあれ?

だったら、仕方な…


「あ、野田さんプリント落としたよ。」

「え?本当だ、瀬崎君ありがとう。」


……why?

それはそれは優しそうにプリントを拾ってましたが?

思春期の可能性は0に等しいという事ですね?


何故か不思議だった。

落とした物を拾うというありきたりな光景なのに、それを見た時、心の奥に変な感情が生まれた…


……なんだろ?

何か変な気分…

寝不足だからかな…?


あんまり気分が晴れなかったが、そのうち治るだろうと思い放って置く事にした…


「ちゃんと復習しとけよー」


チャイムと同時に授業が終わり席を立とうとした時、


「瀬崎君いますか?」


聞き慣れた台詞が聞こえてきた…


また恒例行事のお時間だ。

皆もよく懲りずに挑戦できるなーと思う。


「はい。」


瀬崎君は短く返事をして、入り口で待つ女子の元へと向かう。


…あれ?

まただ。


何か胸の辺りが痛いな…

しかも、さっきよりも痛みが大きくなったような…

保健室でも行ってみようかな?


ちょっと心配になったため、急遽保健室に向かう事にした。


一階へ降りて、保健室の扉を開けようとした時、隣の準備室から何やら話し声が聞こえてきた。


「入学式の時からずっと瀬崎君がの事が好きで…」

「………」


はい?

せ・ざ・き・く・ん?


どうやら、お隣では告白の真っ最中らしい。

しかもお相手はまさかの瀬崎君。


本当自分を呪いたい…

篠田先輩の時といい、今といい…

自分はどれだけ修羅場と巡りあえば気が済むんだ。

今更ながら自分の行動と判断に後悔した。


「本当に瀬崎君の事が好きなんです。つ、付き合って下さい!」


思わず隣の会話に耳を傾けてしまう。


瀬崎君…

ダメだ、さっきよりも症状が悪化してる…


隣の会話を振り切って保健室の扉を開けようとした瞬間、瀬崎君の声が耳に届いた。



「ごめん。俺、好きな子いるんです…」



ーガラッ!!


「うわっ、夏川さんどうしたのいきなり…!?」

「先生、私難病を抱えてるようです。」


そう言うかいなや、扉をしめて足早に先生の前の椅子に座った。


「え?あっ、えーっと…症状は?」

「胸が張り裂けるように痛いです。」

「うーん…、いつから?」

「約1時間程前から。」

「何か症状が起きるような心辺りはある?」

「特には…あ、ある人を見てたらこんな感じになりました。」

「………」


すると、突然先生が黙りだした。


「どうしたんですか…?」

「いや、ちょっと病名が見えてきた。」

「え、それはなんです…」

「その人が他の女子と話してる時もそんな感じがした?」

「あ、はい…確か、それを見た時に胸が痛くなりました。」

「やっぱり…」


そう言うと、先生は大きな溜息を吐いた。


「夏川さん、確かにそれは難病よ。」

「え!?じ、じゃあ、どうすればいいですか?」

「残念だけど、薬や適切な治療法は無いのよ。」

「えっ……」


じゃあ、まさか私はずっとこの気持ち悪い感じのまま…?


「治すには、貴方が自分自身で行動するしかないわね。」


自分自身で行動…?


「具体的には何をすればいいですか?」

「私に聞いても意味無いわよ、自分で考えなきゃ。」


それだけ言うと、先生は「はい、診察終わりー。帰った帰った。」と、席を立ってしまった。


なんですかその適当っぷりは…

余りにも適当な態度に少し呆れてしまった。


いいですよ、自分で治しますからっ。

「ありがとうございましたー。」と、ボー読みしながら保健室を出ようとしたとき、


「ヒント、その人の事いっぱい考えてみて。」


と、先生が一言呟いた。


「…?…はい……」


意味が良く分からなかったが、とりあえず返事をして保健室を出た。


その人の事をいっぱい考える…?

はたしてそれのどこに治療要素があるのでしょうか?


先生の言葉を頭の中でリピートしていると瀬崎君達の存在を思い出して隣の部屋の様子を伺ってみた。

何も聞こえない…

どうやらもう帰ったようだ。


何故か少し安心して、少し切なくなった…


チャイムと同時に教室へ戻ると、急いで自分の席に座る。

前の席の理子が「どうしたの?」と声を掛けてきたが、「いや、ちょっと…」とだけ言って曖昧に流した。


急いで授業の準備をしていると、ふと隣から視線を感じる。

顔を上げて見ると、何か言いた気な瀬崎君と目が合った。


『俺、好きな子いるんです…』


その瞬間蘇ってくるさっきの台詞…


思わず目を逸らしてしまった。

うわ…

絶対今のはあからさまだよ…


心の中で罪悪感を抱きながら、平然とした態度で教材の準備をした。

もちろん、今瀬崎君がどういう表情をしているかなんて、知る由も無い…


………………………………


なんとなく気まずくて、授業になんて集中出来なかった。


早く治れこのやろうっ

なーんて自分にあたっても、効果はいまひとつだ。


とりあえずこのモヤモヤを一刻も早く排除したかったため、先生のヒントに頼ってみる事にした。


瀬崎君…

瀬崎君瀬崎君瀬崎君…

頭の中でどんどん瀬崎君を繁殖させていく…


そういえば、瀬崎君と初めて喋った時は凄かったな…

………………………………


『フランスパンマンは、君っさぁー♪勇気を出しってー♪』

『……あの、すみません。』

『ほら、きらめくーよ♪君はやさ『あのっ。』』

『え?はい、何でしょう。』

『そこ、私の席なんですが…』

『あれ?でも紙に31番って書いてあるよ?』

『机の上の数字をご確認下さい。』

『…?』


ー32ー


『失礼致しました…』

『はい。』


ーガタッ


『あ、君と隣だ。宜しくね、えーっと……夏川せいちゃん?』

『聖と書いてひじりと読むんですよ。』

『聖ちゃんかぁ、いい名前だね。俺は…』

『知ってますよ、瀬崎穂君でしょ?』

『あれ、なんで?』

『朝の入学式でもう有名人になってますよ。』

『本当!?てことはTVのオファーとか来るかな?』

『……残念ながら180%それはないです。』

『えー…、だったらきっちり200%が良かったな。』

『じゃあ、そういう事で…』

『やった、ははっ。』


………………………………


あれ?

なんだろ?

凄い悲しくなってくる…


あの時は毎日他愛もない話をして、毎日眩しいほどの笑顔を見ていたのに…

今じゃ、まともに顔も見れないなんて…


今すぐ顔を右に向けたいと思った。

今すぐ瀬崎君の名前を呼びたいと思った。

今すぐ彼の声を聞きたいと思った。

もう一度、あの笑顔を見たいと思った…


これは何と言う人間の心理でしょうか?


本当は分かってる。

分かってるんですよ。

Likeって意味じゃない事を。

ただ自信が無いんです。

今の私はチキン野郎なんです。


チキン my heart……


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