No.さん
「まじ2組の久本ってかっこいいよね~。」
うん。
「それだったら5組の園田君の方がいいよ。かわいいし。」
うん。
「何言ってんの!篠田先輩が1番でしょうが。」
うん。
もう勘弁して下さい…
私の机に集まって、何やらピンクトークを始めたお嬢さん方。
全く、私のようなおばちゃんにはついて行けませんよ…
「でも瀬崎君もなかなかだよね。」
左側の女子がポツリと呟いた。
瀬崎君…?
うん、分かるよ。
確かに顔はかっこいいよ。
"顔だけ"はね。
「はぁ…」
溜息を吐いて、友達と駄弁っている瀬崎君に視線を移す。
もったいないなぁ…
あれで正常な育ち方をしてたら、絶対校内一モテるのに。
心の中でそんな事を考えていると、瀬崎君がこちらを振り返った。
私と視線を合わすと、ニコッと笑い掛けてくる。
あぁもう、なんてもったいない…
瀬崎君の笑みを見て、周りの女子は「きゃっ」とはしゃいでいる。
みんな忘れないでー。
彼は入学式の日に妖精さんとマリオカートしてた男だからー。(夢の中で)
「そういえば、聖は好きな人いないの?」
と、ある女子から突拍子もない質問が振られてきた。
好きな人ですか…
「そういえば存在しないな…」
「もったいないよっ!聖凄い可愛いのに!」
はぁ…
多分あなたの目に不具合が起きているのでしょう。
それにしても、本当に考えた事なかったな…
好きな人って…
「もうっ!高校生にもなったのに、恋愛しないなんてつまんないよっ!今度誰か紹介してあげる。」
あ、遠慮しときます…
「授業始まるぞー、席つけー。」
Goodなタイミングで先生が来てくれて、皆は渋々席に戻って行った。
好きな人ねぇ…
小さい頃は結婚の約束とかいっぱいしてたんだけどなぁ…
ん?
ちょっと待て、それって世間が言う不倫ってやつじゃないでしょうか?
………
まぁ、そういう年頃だったんだよ。
…うん。
「聖ちゃん聖ちゃん、顔が十二面相になってるよ。」
「え?」
あれ、顔に出てた?
ていうか何で+2したんですか、瀬崎君……
「いや、ちょっと考え事をしてまして…。」
「俺に言ってくれれば0.5秒で解決しますよ。」
残念ながら、そんな優れた脳を人類は持ち合わせておりません。
まぁでも、瀬崎君に言っても害は無い気がする。
「ねぇ、瀬崎君。」
「はい聖ちゃん。」
「恋ってなんでしょう。」
ーーガタンッ!
……え?
今何が起こった…?
目の前には、UFOでも見たかのような顔をして、椅子から転げ落ちている瀬崎君がいる。
驚きたいのはこっちなんですが……
授業中のため、周りの視線は全て瀬崎君へとロックオンされている。
「こっ…こい?……鯉?……濃い?」
「うん分かったから、落ち着いて瀬崎君。」
なんとか瀬崎君を宥めようとするが、彼は焦点の合って無い目をキョロキョロさせて、パニック状態に陥っている。
「…恋、特定の異性に強く惹かれる事。また、切ないまでに深く思いを寄せる事。恋愛。」(goo辞書引用)
「瀬崎君っ!」
誰?
誰ですかこれ?
こんな国語辞典みたいな説明する人初めて見ましたよ?
「先生っ!瀬崎君重症です!」
「いっ…今すぐ保健室へ連れて行ってやれ…」
私は席を立って瀬崎君の腕を掴むと、引きずる様にして教室を出た。
………………………………
ガラガラ…
保健室の扉を開けると、ほんのりと薬品の香りが鼻をくすぐる。
先生いないのかな…?
鍵くらい閉めておこうよ…と思いながら、中に入って瀬崎君を椅子に座らせた。
「………」
「………」
教室を出てから瀬崎君も私も無言だ。
だから、なんていうか…
気まずい空気が流れている…
「……聖ちゃん。」
「はっ…はい…」
いきなり名前を呼ばれたため、驚きで声が裏返りそうになった。
「ごめんね…」
「ぜっ、全然平気だよ。授業もサボれるし。」
「ところで、さっきの質問は現在系ですか…?」
「えっ…?」
えーっと、どういう意味でしょうか…?
「今現在恋というものを体験しているのですか?」
そう言って、瀬崎君は苦しそうに顔を歪める…
「えっ…そういう事じゃ…」
「聖ちゃん。」
「へっ…?」
「なんかね、苦しい…」
瀬崎君はそう言って、自分の胸に手を置いた。
「うっ…嘘!ちょっと待って、今薬探して来る。」
「いらないよ。」
棚に向かおうとしたが、瀬崎君に手首を掴まれたため前に進めなくなった。
「…瀬崎君?」
「こうしてれば治るから。」
「これで…?」
「うん。聖ちゃんパワーを注入しているのです。」
そう言って彼は、くしゃっと顔を歪めて笑った。
その笑顔に安心し、私もつられて笑う。
手のひらで瀬崎君の体温を感じながら、なんだか私も元気が貰えた気がした…
「よしっ、充電完了!」
それから数分後、瀬崎君は手をゆっくりと離して立ち上がった。
「もう大丈夫?」
「うん。元気100倍、せざきんまーん!」
なんかバイキンマンみたいになってますよ…。
手を天井に向けてドヤ顔をキメている瀬崎君に苦笑いをし、
「じゃあ、帰ろっか。」と話しを流した。
瀬崎君は「うん。」と言って気にせず私に笑い掛けてくれる。
そして瀬崎君が保健室を出ると、私も続いて保健室を後にした。
なんだか、右手に瀬崎君の温もりが残っている気がした…
……………………………
ーガラッ
教室に戻ると、授業が終わって皆立ち歩いていた。
「おっ、穂おかえり。」
「大丈夫か?」
早速瀬崎君の友人達が、瀬崎君を見つけるやいなや集まって来る。
人気ですなー…
私はその間をそーっと抜け出して自分の席へと向かった。
「あ、聖お疲れ。」
前の席で必死にノートをとっていた理子が、私に気付いて後ろを振り向く。
「皆びっくりしてたよ?いきなり椅子から転げ落ちたと思えば、恋愛について語り出すんだもん。もう笑いを通り越して怖かったよ。」
「あはは…」
元はと言えば、私の質問が全ての要因なんですけどもね…
言っておこうと思ったが、今の雰囲気だととてもカミングアウトなんて出来なかった。
「それで、瀬崎君どうしたの?」
「え?あぁ…うん、何も無かったよ。」
「え?」
「何も無かったんです。」
「………」
「………」
「え…?」
この子理解する気無いのかな?
「あのですね、病気も怪我もなんの異常も見受けられませんでした。」
「……やっぱり瀬崎君は同じ人種じゃ無いのかもしれない。」
いやいや、他にどんな人種がいると言うのですか。
まぁ、確かにあれだけの謎な行動を見てたら、そう思えて来るかもしれない…
友達に笑顔を振りまいている瀬崎君を見てみると、安心と共に心配と言う感情が湧き出て来た…