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No.いち

「あれ?おかしいな。全然消えないんだけど。」


隣で真剣に紙をゴシゴシしている瀬崎君。

残念だけど、それじゃあ字は消せないかな。


「瀬崎君、それのりだよ。」

「えっ?」


驚いた様に顔を上げると、彼は自分の手元に視線を移す。


「うぉっ!」


のりで悲惨な状態になったプリントを持ち上げて、瀬崎君は驚きの声をあげた。


「やばい、これ提出するやつだ!」


瀬崎君は、急いでのりをテイッシュで拭き取ろうとしている。

まぁ、もうカピカピに乾いてるから無理だと思うけど。


「瀬崎君もういいよ、新しいプリント貰えるから。」

「あ、そっか。」


思い付いたように手を止めると、

「せんせ~」と彼は教卓の方へ向かってしまった。


「はぁ…」


これが瀬崎君の日常的な光景です。


瀬崎 穂 (せざき みのる)

この高校のスーパーウルトラ有名人だ。


入学式に遅れて来た彼は、

「妖精さんとマリオカートしてました。」

と、真顔で言ったのだ。


突っ込みどころは満載だが、未だにその発言の真相は分からない。

私の推測だと、夢の中で妖精さんとマリオカートをしていたんだろう…


そんな彼と隣の席になった私は、あれから毎日こんな光景を目の当たりにしている。


「プリント貰ってきた!」


元気良く戻ってきた瀬崎君は、

新しく貰ったプリントを嬉しそうにひらひらさせて席に座った。


「良かったね。」

「うん。(ひじり)ちゃんのおかげ。」


そう言って瀬崎君はニコって微笑む。


あぁ、もう…

それがダメなんだってば…


認めたくないけど、瀬崎君はカッコいい。


茶色いふわふわな髪の毛。

健康的な白い肌。

スラッと伸びた足に、スマートな体。

どこをどう取っても完璧な容姿だ。

ただ性格がとてつもなく問題だけど…


でも嫌いにはならない。

いや、なれない。


だって、たかがプリント一枚貰えただけでこんなに無邪気な顔するんですよ?

嫌いになれという方が難しいと思う。


「ねぇ、聖ちゃん。」

「ん、何?」

「田中先生っておでこも広いけど、心も広かったんだね。」

「……」


悪気は無いんだよ、多分。

ただちょっと素直過ぎるだけで…

だから、田中先生も悪く思わないで下さい…。


ーキーンコーンカーンコーン


授業終了のチャイムが鳴り、生徒がぞろぞろと席を立っていく。


くぁっと伸びをしていると、

友達の理子が側に寄って来た。


「お疲れー。今日も良く頑張りました。」


そう言って頭をポンポン撫でてくる。

あー、本当安らぐ…


「今度は消しゴムとのり間違えたらしいね。」

「そうなんですよ。プリントが悲惨な事になってた。」


こうやって、瀬崎君の生態情報を理子に報告するのが恒例だ。


「聖も良く瀬崎君に向き合えるよね。あたしだったら瀬崎君見てるだけで発狂しちゃうかもしれない。」

「そんな大袈裟な…」


まぁ確かに、瀬崎君といるとかなりのHPを消耗するんだけどね…


「聖ちゃん!大変だ!」


さっきまで友達と喋っていた瀬崎君が、

勢い良くこっちへ戻って来た。


「ど、どうしたの?」

「明日、たくさんのカブトムシが地球を侵略してくるらしい!」


え…?


「やばいよどうしよ。殺虫剤大量購入しなきゃ。」


瀬崎君はそう言って、サイフの中身を慌てて確認している。


いや、ちょっと待て…。

カブトムシ?

そんなモノに地球侵略なんかされたらたまったもんじゃない。

まぁ、そんな確率は10000000分の0.1%にも満たないけど。


「大丈夫だよ。神に誓ってカブトムシなんか来ないから。」

「本当!?」


良かった~と言って机に倒れ込む瀬崎君。

もう、呆れて溜息すら出ない。


「すみません、瀬崎穂君いますか?」


ふと、教室に見知らぬ女子の声が響く。

またか…


「瀬崎君呼ばれてるよ?」

「えー、知らない人怖い。」


幼稚園児かお前は…


「ほら、早く。待たせちゃ悪いでしょ。」

「はーい…」


そこまで言うと、瀬崎君はようやく席を立って渋々と女子の元まで歩いて行く。

もう恒例行事となっている告白というやつだ。


今まで何人もの命知らずが瀬崎君への告白を試みているけど、未だ成功者は1人もいない。


「これで20何人目だっけ?瀬崎君も手強いねぇ。」


隣で呆れたように理子が言う。

まぁ、確かに顔だけはいいもんなぁ…

性格があれでも気にしないってのも凄いけど。


あれから数分後、チャイムと同時に瀬崎君は帰って来た。


「おかえり。まさかまた泣かせたりしてないよね?」

「だって知らない子だもん。」


あ、否定しないんだ…


「瀬崎君って罪な男だよね。」

「え…、俺いつのまに犯罪を…」


いや、違うから。

様々な面で違うから。


「褒めてるんだよ、瀬崎君。」

「え、本当?いぇーい!」


あー、ダメだ。


バカでアホで天然で素直で単純過ぎて、攻略不可能だ。


今日も今日とて、私は瀬崎君に精神力を削られていく。


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