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夫婦の日常

夫婦の日常 #11 〜 辿り着けない日の二人 〜

作者: 葵
掲載日:2026/10/14

今日の天気は曇り。

午後も雨の予報だけど。


「今日はさぁ、久しぶりにお弁当食べたい。」


「……出かけるの?」

夫の顔は、出かけたくないと言っている……。


「食べたくない?唐揚げのってるやつもあったね。」


「……行こうか。」


私たちは準備をして、家を出た。


車を30分くらい走らせると、


「そういえばさ、この辺にお寿司屋さんあったよね。」


夫が運転しながら言った。


「美味しかったね。値段高めだけど。」


「……今日は寿司屋にしよう。」


「え、お弁当は?」


「別にいいよ。寿司食べた帰りに唐揚げ買って帰ろう。」


「それいいね。

お寿司屋さん、なくなってないといいけどね。」


のり弁食べたかったけど。

お寿司と、唐揚げ……。


近くまで来て、店の様子を見ようにも、

通路の奥にあって、ちょうど隠れて見えない。


寿司屋は施設の中にあるので、施設用の広い駐車場に車を停めた。


「ちょっと見に行ってくるね。」


「分かった。」


しばらく待ってもなかなか戻ってこない。

迷った?

それから5分くらい。

夫が戻ってくると無表情で車に乗った。


「おかえり、お店あった?」


「……なんかね。

店の中は少し見えて、綺麗そうな感じだった。

閉店じゃないかもしれないけど、今日は休みかな。」


言いながら夫は、出発の準備を始める。


「え?土曜日の14時前に……。」


「はぁ……。」

ため息をつきながら、

ギアをドライブに入れて、サイドブレーキを落とす。

動作に、力はない。


施設の中に何かないか見に行きたいけど、

やめておこう。


「今日はさ、お弁当買いに行こ。」


「うん、そうだね。」


近くまで来ると、

弁当屋の隣のコンビニ駐車場に車を停めた。


「私行ってくる。

喉乾いたから、コンビニで飲み物買ってきて欲しい。」


「了解。」


お弁当屋さんの匂いに近づくと、

余計に喉が渇いてしまう。


あれ、

半分降りたシャッターに張り紙。


営業時間の変更のお知らせ、

昼 10時〜14時ーー

中から人が出てきたので、


「あっ……」


声をかけようと……する間もなく、

ガラガラ、カシャン。

……。


時間を確認すると、13:57。

「ふぅ……。」


車に戻ると、夫はナビの画面をじっと見つめている。


「今日はね、早めに閉まったみたい。

運転、疲れた?」


ポツポツとフロントガラスに雨の滴が落ちる。

「いや、

俺が寿司屋行こうって言わなかったら間に合ったかもね。」


「あぁ、それだ。」


「……。」


「お好み焼きかな。」


「今から?」


「いいじゃん、いつからでも。」


私はすぐにスマホで、お好み焼き屋さんを検索。


「食べ放題あるとこがいいな。」


夫はそう言うと、少し息を吹き返して、

スマホの画面を覗き見ている。


「そんな食べれるかなぁ。

じゃあ、昔行ってたチェーン店がいいね。」


「じゃあナビ入れて。」


「はーい。」


ん……。

あれ、ここの店舗で合ってるかな。

行ってみればわかるか。


住所をナビに入力。

スマホをカバンにしまおうと、ファスナーを開けた時。


あ、ファスナーに内側の薄い布が挟まって動かない……。


夫もそれに気づいて、少し呆れ顔をしている。


「あぁ、前もやってたね。貸して。」


言いながら彼が手を伸ばした時、

ブンブン、ブンブン。


ワイパーのとこに当たっちゃった?

静かに降っている雨には見合わない速さで、

行ったり来たりしている。


「……。」


気になってフロントガラスをじっと見つめてしまう。

笑ってしまいそうで、唇を少し噛み締めて耐えた。


私の視線に気付いたのか、

そっと、ワイパーの速度を弱めた。


一度私を見てから、

何も言わずに、カバンの修復作業に戻る。


また笑いそうになってしまう。

気を逸らすために、スマホでお好み焼きのメニューを眺めている。


前にも直してもらったので、

今回も華麗にファスナーを開けて見せてくれるのを期待して……。


「なんか、もうダメだな。」


ちょっと不機嫌そうな声だ。


そんなに言わないでよ……。


夫の手元に目をやると、ファスナーの引き手が外れている。

つなぎになっている金具が、

グニャッと折れ曲がっていた。


え、すんごい力入れるじゃん……。


その金具の残骸を受け取って、言葉もなく見つめるしかない。


「せっかくだから、カバン買いに行こうか。」


「えっ!なんで!」


やったぁーっ。

嬉しくて……早くっ。

お好み焼き行かないと。


ナビの『案内開始』ボタンを押した。


「あのね、近くにショッピングモールある。」


「あぁ、じゃあそこに見に行ってみようか。」


「うんっ!」


食事の後の予定を決めて、車を走らせた。


そして、ナビが声を上げた。


『目的地付近に到着しました。』


え……お好み焼き屋だった場所は、ラーメン屋に変わっていた。


「なくなってたんだね。」


この店舗だったか。閉店してたのは……。


夫には言えない。

検索の時、なんとなく……。


「……一番近い、別のお好み焼き屋さん、探すよ。」


「頼むわ。」


ごめんなさい……。


車は走り出した。


あ、ショッピングモール。


次の交差点で左折すると、駐車場の入り口というところ。

車は青信号に合わせて、交差点をスルーした。


あ……。

夫はカバンを買う予定はなかったことみたいに、運転に集中している。


……。


「コンビニでなんか食べるもの買ってくるから、店探しといて。」


「分かった。」


夫はコンビニで、コーヒー二つとナゲット二つを手に持っている。

なんか持ちにくそうだ。


「ナビ入れといたから。」


「じゃあ、行こうか。」


車を走らせて、お好み焼き屋に着いた。

……のに、


お腹は、ナゲットとコーヒーのおかげで……満たされてしまっているけど。


「先にカバン見に行こうか。」


「うん。」


入るのはやめて、さっきとは違うショッピングモールをナビで検索チャレンジ。

してみたけど、

着いた先で、そのショッピングモールは跡形もなくなっていた。


ナビィーっ!


「今日は、何やってもダメだなぁ。」


「うん……着かない。」


思ってたより、遠くまできたけどね。


私たちは、そこから一番近い駅前にナビをセット。


もうショッピングモールへのこだわりは捨てて、

駅ビルに向かった。


無事に辿り着き、私のカバンを購入。


夫は散歩用にとサンダルを購入して、車に向かう。


「来る途中に、焼肉屋あったよね。」


夫が信号待ちで少しぼーっとしながら言う。


お昼過ぎに家を出たんだっけ。

もう夜だよ。


「あったね。

そういえば、

陽介は焼肉食べたいって、前から言ってたね。」


「今向かってるんだけど。恵はお好み焼きがいい?」


「焼肉いいかもね。

結構混んでそうだけどね。」


「いいよ。もう焼肉しかいらない。」


「……じゃあ、行きましょう。」


店に入ると番号札をもらった。


車の中で待つ間の夫は、

ただ黙々と、スマホのパズルゲームをやっていた。


やっと順番が来たのは、1時間後だった。


夫は席に座ると同時に、というより、

座りながらに近い感じで、タブレットを手に取った。


「ホルモンでも食べて、元気出さないとね。」


元気になって何より。


「そうだね。」


タップの軽快さに少し、心配になるけど。


やっと食事にありつけたことと、

念願の焼肉を食べられるせいか夫は笑顔を絶やさない。


二人分、小皿にタレを流し入れている。


夫は、注文した皿がテーブルに並び始めると、

なんちゃら奉行みたいな貫禄で、肉を網に並べていく。

2種類を2枚ずつ……。


サラダまで取り分けてくれる。


並べた肉を、夫が少し眉間に皺を寄せながら裏返す。

ジュウジュウと音を立てて……美味しそう。


肉の油が炭に落ちて煙が立つ。


期待いっぱいの夫の姿を見て、

改めて辿り着けたのが焼肉屋で良かったと、ホッとする。


そして二人のお腹が満たされ落ち着いて、


「終わりにする?もう少し頼もうか?」


夫に聞いてみた。


「結局さ、どれも美味しいけど……

ロース一択で良かったと思ってる。」


……。


「じゃあ、ロース1人前でいっか。」


「2人前。」


もうお腹いっぱいなんだけど。


「……了解。」


食事を終えて、レジに向かうと、


「ありがとうございます。

お会計、9897円になります。」


え……。

高くない?


「はい。」


予定のほとんどが変更だらけの1日。


でも、楽しかったぁ。


「帰りは、私が運転するよ。ずっと運転して疲れたでしょ。」


「疲れてないよ。」


そう言いながら、夫は助手席のドアを開けている。


「次こそは、お好み焼き食べに行きたいね。」


「腹一杯。

もう、何でもいいや。」


雨は、もうすっかり上がっていた。

降ったり止んだりを、繰り返していたのに。——




最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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― 新着の感想 ―
お店に辿り着けなかったり、ナビが当てにならなかったり、予定どおりにいかない一日なのに、二人のやり取りが微笑ましいです。最後に焼肉を楽しむ陽介さんの姿に、こちらまでほっとしました。
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