夫婦の日常 #11 〜 辿り着けない日の二人 〜
今日の天気は曇り。
午後も雨の予報だけど。
「今日はさぁ、久しぶりにお弁当食べたい。」
「……出かけるの?」
夫の顔は、出かけたくないと言っている……。
「食べたくない?唐揚げのってるやつもあったね。」
「……行こうか。」
私たちは準備をして、家を出た。
車を30分くらい走らせると、
「そういえばさ、この辺にお寿司屋さんあったよね。」
夫が運転しながら言った。
「美味しかったね。値段高めだけど。」
「……今日は寿司屋にしよう。」
「え、お弁当は?」
「別にいいよ。寿司食べた帰りに唐揚げ買って帰ろう。」
「それいいね。
お寿司屋さん、なくなってないといいけどね。」
のり弁食べたかったけど。
お寿司と、唐揚げ……。
近くまで来て、店の様子を見ようにも、
通路の奥にあって、ちょうど隠れて見えない。
寿司屋は施設の中にあるので、施設用の広い駐車場に車を停めた。
「ちょっと見に行ってくるね。」
「分かった。」
しばらく待ってもなかなか戻ってこない。
迷った?
それから5分くらい。
夫が戻ってくると無表情で車に乗った。
「おかえり、お店あった?」
「……なんかね。
店の中は少し見えて、綺麗そうな感じだった。
閉店じゃないかもしれないけど、今日は休みかな。」
言いながら夫は、出発の準備を始める。
「え?土曜日の14時前に……。」
「はぁ……。」
ため息をつきながら、
ギアをドライブに入れて、サイドブレーキを落とす。
動作に、力はない。
施設の中に何かないか見に行きたいけど、
やめておこう。
「今日はさ、お弁当買いに行こ。」
「うん、そうだね。」
近くまで来ると、
弁当屋の隣のコンビニ駐車場に車を停めた。
「私行ってくる。
喉乾いたから、コンビニで飲み物買ってきて欲しい。」
「了解。」
お弁当屋さんの匂いに近づくと、
余計に喉が渇いてしまう。
あれ、
半分降りたシャッターに張り紙。
営業時間の変更のお知らせ、
昼 10時〜14時ーー
中から人が出てきたので、
「あっ……」
声をかけようと……する間もなく、
ガラガラ、カシャン。
……。
時間を確認すると、13:57。
「ふぅ……。」
車に戻ると、夫はナビの画面をじっと見つめている。
「今日はね、早めに閉まったみたい。
運転、疲れた?」
ポツポツとフロントガラスに雨の滴が落ちる。
「いや、
俺が寿司屋行こうって言わなかったら間に合ったかもね。」
「あぁ、それだ。」
「……。」
「お好み焼きかな。」
「今から?」
「いいじゃん、いつからでも。」
私はすぐにスマホで、お好み焼き屋さんを検索。
「食べ放題あるとこがいいな。」
夫はそう言うと、少し息を吹き返して、
スマホの画面を覗き見ている。
「そんな食べれるかなぁ。
じゃあ、昔行ってたチェーン店がいいね。」
「じゃあナビ入れて。」
「はーい。」
ん……。
あれ、ここの店舗で合ってるかな。
行ってみればわかるか。
住所をナビに入力。
スマホをカバンにしまおうと、ファスナーを開けた時。
あ、ファスナーに内側の薄い布が挟まって動かない……。
夫もそれに気づいて、少し呆れ顔をしている。
「あぁ、前もやってたね。貸して。」
言いながら彼が手を伸ばした時、
ブンブン、ブンブン。
ワイパーのとこに当たっちゃった?
静かに降っている雨には見合わない速さで、
行ったり来たりしている。
「……。」
気になってフロントガラスをじっと見つめてしまう。
笑ってしまいそうで、唇を少し噛み締めて耐えた。
私の視線に気付いたのか、
そっと、ワイパーの速度を弱めた。
一度私を見てから、
何も言わずに、カバンの修復作業に戻る。
また笑いそうになってしまう。
気を逸らすために、スマホでお好み焼きのメニューを眺めている。
前にも直してもらったので、
今回も華麗にファスナーを開けて見せてくれるのを期待して……。
「なんか、もうダメだな。」
ちょっと不機嫌そうな声だ。
そんなに言わないでよ……。
夫の手元に目をやると、ファスナーの引き手が外れている。
つなぎになっている金具が、
グニャッと折れ曲がっていた。
え、すんごい力入れるじゃん……。
その金具の残骸を受け取って、言葉もなく見つめるしかない。
「せっかくだから、カバン買いに行こうか。」
「えっ!なんで!」
やったぁーっ。
嬉しくて……早くっ。
お好み焼き行かないと。
ナビの『案内開始』ボタンを押した。
「あのね、近くにショッピングモールある。」
「あぁ、じゃあそこに見に行ってみようか。」
「うんっ!」
食事の後の予定を決めて、車を走らせた。
そして、ナビが声を上げた。
『目的地付近に到着しました。』
え……お好み焼き屋だった場所は、ラーメン屋に変わっていた。
「なくなってたんだね。」
この店舗だったか。閉店してたのは……。
夫には言えない。
検索の時、なんとなく……。
「……一番近い、別のお好み焼き屋さん、探すよ。」
「頼むわ。」
ごめんなさい……。
車は走り出した。
あ、ショッピングモール。
次の交差点で左折すると、駐車場の入り口というところ。
車は青信号に合わせて、交差点をスルーした。
あ……。
夫はカバンを買う予定はなかったことみたいに、運転に集中している。
……。
「コンビニでなんか食べるもの買ってくるから、店探しといて。」
「分かった。」
夫はコンビニで、コーヒー二つとナゲット二つを手に持っている。
なんか持ちにくそうだ。
「ナビ入れといたから。」
「じゃあ、行こうか。」
車を走らせて、お好み焼き屋に着いた。
……のに、
お腹は、ナゲットとコーヒーのおかげで……満たされてしまっているけど。
「先にカバン見に行こうか。」
「うん。」
入るのはやめて、さっきとは違うショッピングモールをナビで検索チャレンジ。
してみたけど、
着いた先で、そのショッピングモールは跡形もなくなっていた。
ナビィーっ!
「今日は、何やってもダメだなぁ。」
「うん……着かない。」
思ってたより、遠くまできたけどね。
私たちは、そこから一番近い駅前にナビをセット。
もうショッピングモールへのこだわりは捨てて、
駅ビルに向かった。
無事に辿り着き、私のカバンを購入。
夫は散歩用にとサンダルを購入して、車に向かう。
「来る途中に、焼肉屋あったよね。」
夫が信号待ちで少しぼーっとしながら言う。
お昼過ぎに家を出たんだっけ。
もう夜だよ。
「あったね。
そういえば、
陽介は焼肉食べたいって、前から言ってたね。」
「今向かってるんだけど。恵はお好み焼きがいい?」
「焼肉いいかもね。
結構混んでそうだけどね。」
「いいよ。もう焼肉しかいらない。」
「……じゃあ、行きましょう。」
店に入ると番号札をもらった。
車の中で待つ間の夫は、
ただ黙々と、スマホのパズルゲームをやっていた。
やっと順番が来たのは、1時間後だった。
夫は席に座ると同時に、というより、
座りながらに近い感じで、タブレットを手に取った。
「ホルモンでも食べて、元気出さないとね。」
元気になって何より。
「そうだね。」
タップの軽快さに少し、心配になるけど。
やっと食事にありつけたことと、
念願の焼肉を食べられるせいか夫は笑顔を絶やさない。
二人分、小皿にタレを流し入れている。
夫は、注文した皿がテーブルに並び始めると、
なんちゃら奉行みたいな貫禄で、肉を網に並べていく。
2種類を2枚ずつ……。
サラダまで取り分けてくれる。
並べた肉を、夫が少し眉間に皺を寄せながら裏返す。
ジュウジュウと音を立てて……美味しそう。
肉の油が炭に落ちて煙が立つ。
期待いっぱいの夫の姿を見て、
改めて辿り着けたのが焼肉屋で良かったと、ホッとする。
そして二人のお腹が満たされ落ち着いて、
「終わりにする?もう少し頼もうか?」
夫に聞いてみた。
「結局さ、どれも美味しいけど……
ロース一択で良かったと思ってる。」
……。
「じゃあ、ロース1人前でいっか。」
「2人前。」
もうお腹いっぱいなんだけど。
「……了解。」
食事を終えて、レジに向かうと、
「ありがとうございます。
お会計、9897円になります。」
え……。
高くない?
「はい。」
予定のほとんどが変更だらけの1日。
でも、楽しかったぁ。
「帰りは、私が運転するよ。ずっと運転して疲れたでしょ。」
「疲れてないよ。」
そう言いながら、夫は助手席のドアを開けている。
「次こそは、お好み焼き食べに行きたいね。」
「腹一杯。
もう、何でもいいや。」
雨は、もうすっかり上がっていた。
降ったり止んだりを、繰り返していたのに。——
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




