あなたって本当はおいくつなの?
夢小説に対して煽るような部分がありますが、この世界の中の認識ということでなにとぞひとつ…!
「エディオラ!お前のような悪女とは、今この時をもって婚約破棄をする!」
王立学園の卒業パーティーにて。
ケビウム第二王子殿下が私、エディオラ・アークス侯爵令嬢に向かい、声高らかに宣言をした。
「そして俺の最愛、ミラを!新たな婚約者とする!」
その背中には、殿下に守られるような位置取りをする、ミラ・ソーン男爵令嬢をひっつけて。
───ここまでくると、テンプレもいっそ清々しいわね。
開いた扇でうっかり笑いそうになる口元を隠す。
まぁ、なんというか、物語によくある話である。
婚約者持ちの王族や高位貴族令息が天真爛漫な低位貴族令嬢に惹かれる。令息の婚約者は嫉妬で令嬢をいじめ、最終的に断罪される、と。
しかし、その婚約者が転生者であるならば話は別である。
悪役令嬢から一気に主人公に早変わり。逆に令息と令嬢が断罪対象になる。
もちろん、今現在、この婚約破棄騒動も後者であった。
私、悪役令嬢たるエディオラには、前世でこの世界とそっくりな乙女ゲームをした記憶があったし、今世ではヒロインをいじめたこともない。冤罪対策にアリバイもばっちりである。
メインヒーローたる殿下の顔が好みだったため婚約をしていたが、性格的に全く合わず、こちらとしても早々に熱は冷めていたし、いずれこうなるような気はしていた。
婚約破棄されたとしても困らないように準備もしてある。
それにしてもゲームではあんなに素敵な性格だったのにね?おかしいね?
セオリーでは私がこの後、「理由を伺っても?」みたいなことを尋ね、いじめの証拠からの矛盾点を叩きつけてからの断罪にもっていくはずだが、私はそんなことはしない。
ひとつ、気になることを聞きたいだけだ。
「ねぇ、あなた」
私の呼びかけに、ミラはびくりと身体を震わす。
その反応に最愛(笑)がいじめられるとでも思ったのか、殿下がミラを庇う動きを見せるが、そんなものはどうでも良い。
「ミラ・ソーン男爵令嬢。ひとつだけ聞きたいのだけれど」
「……な、なんでしょうか」
背筋を伸ばし、戸惑いながらも私の目を見つめ、そのチェルシー・ピンク色の髪を揺らし、首を傾げ、応答する。
あら、殿下が庇ってくれるのを制し、怖いけれど悪に立ち向かうんだムーブがお上手。
そして私はゆっくりと扇を閉じてから、そんな彼女に疑問をぶつける。
「ねぇ、あなた。あなたって本当はおいくつなの?」
殿下の婚約破棄宣言で静まり返っていた会場が、今度は私の質問で凍り付く。
人って静か以上に静かになれるのね。
は、と声にならない声がミラの口から漏れた。
「……どういう、意味、でしょうか」
「あら、そのままよ。あなた、転生者でしょう?」
私の断言にミラは、ひゅ、と喉を鳴らし、目を見開く。
そして驚きの後はすぐに怒りの表情へと変わった。
「───道理で。道理で攻略が上手くいかないはずだわ。悪役令嬢も転生者だったなんて……!」
「だから聞きたかったの。あなた本当はおいくつ?」
「さっきからなによ!卒業するんだから17に決まっているでしょう?!」
同じ質問を繰り返す私に怪訝な顔をするミラ。
これは疑問に思った経緯を説明しないとちゃんと答えてもらえなそうね?
ねぇ、例えヒロインに転生したって、その時点でそれはもう元のヒロインじゃないのだから、ゲーム本編ではなく夢小説のようなものだと思わない?
だってあなたがいくら行動をトレースして、好感度の上がる選択肢を選んだところで、実際のヒロインと全く同じ思考回路じゃないのだから。そういう齟齬って滲み出るものよ。
なのでこの世界を夢小説だと仮定すると、ちょっとおかしいのよね。
物語で読んだ世界に転生しちゃった!ヒロインに成り代わってヒーローと恋愛するんだ!と思っていたかもしれないけれど、少なくとも今の流行りは悪役令嬢逆転モノのはずなのよ。
「……悪役…、逆、転……?」
ぽつり、とこぼしたミラに頷く。
ええ、悪役令嬢に転生して、断罪を回避するお話よ。
その様子だと知らないようね?
夢小説って、たしか……20年くらい前だったかしら?昔に流行ったものでしょう?
森の紙面とか、マジックの島とか。
私が具体的な名前を出すと、ミラはびく、びくびく、と身体を震わせて反応する。
心当たりしかないようでなにより。
「だからね、逆転を知らず、物語で読んだようにと夢を見たということは、本当はおいくつなのかと思って。もしかして……40歳くらい…、」
「失礼ね!!!!まだ24よ!!!!!」
ざわり、と会場が揺れた。
忘れてるかもしれないけど、ここは学園の卒業パーティー。
卒業生は17~18歳のはず。
それが本人の申告で24歳ともなると、年齢詐称、そしてこの世界ではいわゆる行き遅れになってしまう。
「ミラ……お前、そんなに歳が……」
「ちっ、ちがっ、違うの!!!!」
年齢を聞いて呆然とする殿下に慌ててミラが取り繕うが、もう遅い。
殿下の護衛騎士に目線を送り、「俺を騙していたのか?!」「話を聞いて!!」と揉めている二人を会場から連れ出してもらう。
断罪が有耶無耶になってしまったけれど、ミラ年増説が会場で一番インパクトを与えられたようなので良し。これだけ証人がいたら殿下有責の婚約破棄は確定なのでそれも良し。
「エディオラ様」
少し喋りすぎたので、飲み物を飲んでから帰ることにしようと思い、給仕を呼ぼうとしたところで声をかけられた。
振り返ると、リジー・ソース男爵令嬢がグラスを持って立っている。
私が飲み物を欲しがるのを察知し、先回りして用意してくれたらしい。
気が回るのが好ましく、彼女は私の侍女になることが決定している。
「あの、ありがとうございました」
シャンパンで喉を潤しているとリジーにお礼を言われた。
「私の従姉妹、話が通じないというか嚙み合わなくて、何を注意しても聞き入れてくれなくて。不謹慎かもしれませんが、今回の騒動で、やっと───、」
リジーは、その綺麗なキューピッドピンクの髪を揺らして微笑む。
───やっと、異物が排除されたように思うんです。
24歳で転生したのであれば、2026年だろうと2002年だろうと24歳なんですよね。
時代が違うのをなんとなくわかっていながら、40歳と言ってムキにさせたかっただけ。
断罪されるヒロインって、イベントが起きなくて悪役令嬢も転生者だと気付いた後も、勝ち目なさそうなのになぜ敵対するのだろう…?
あと、書き終わってから、別に殿下の名前考えなくても良かったなと思いました。




