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まずい、迷った。
一週間前——
ルーナちゃん本当に行っちゃうのかい?
心配そうな顔をしてそう言ったのは
この街ノク・セレーネのパン屋の店主だ
そんな顔しないでおばちゃん、ちょっとお兄ちゃんを
探しに行くだけだから
そう言いながらパンを受け取り代金を支払う
ルイくんが帰ってこなくなってもう何年経つかね、
忘れもしない。春が少し顔を出してきた少し肌寒い三月、兄のルイは突然姿を消した
来月でもう5年になる
ルーナちゃん気をつけるんだよ
うん、ありがとう
じゃあねと手を振りながらパン屋を後にする
家に着くと早速買ってきたパンをリュックに詰めた
保存のきく硬いパンだがあの店のはとても美味しい
(よし、これで用意は完璧だ)
目的地はこの国の都市ノア・ズィーベン
辿り着くには隣街ノラ・フィリアの森を抜けなければならない。当日は日の出と同時に出発して日の入りまでに中間地点の山小屋に着き次の日の夕方くらいには到着という計画だ。森の中を1人で進むから吹雪は避けたいと街の占い師に相談し、一週間後の25日は日差しが出て吹雪の心配はない。そう教えてもらった
2月25日
日の出と同時に出発した
占い師の言った通り日差しが出ていて暖かい
まっすぐ、ただただまっすぐ森を進んでいく
出発から5時間くらい経ちちょうどセレーネの森を抜けたあたりで段々と雲行きが怪しくなってきた。いよいよ雪が降り、風も強くなる。それでも山小屋に着かなければ凍えて死んでしまう。急いで山小屋を目指すがしかし、吹雪で前が見えない
風に煽られ木々たちが悲鳴をあげる
(寒い、疲れた)
木に寄りかかり一息つくと括り付けられた冒険者用の看板が目に入る。その瞬間
まずい、迷った
そう確信した。
山小屋の近くの看板には山小屋の絵が描かれている。しかし、この看板には雪だるまが描かれている。もちろんこんなの見たことがない。つまり大きく道を外れてしまったのだ
(絶望している暇はない。どこか、雪をしのげる場所を探さないと)
一旦大きなため息をついた後辺りを見回した。すると斜め前へずっと続いていく足跡が微かに残っていることに気がつく
(人のだ...!)
雪で消されてしまう前に足跡に沿って森の中を走った
死に物狂いで走り、たどり着いたのはひっそりと佇むお屋敷だった。とにかく中に入れてもらおう。今はそれしか考えられない
誰かいませんかー!
大きく呼吸すると寒さで肺が痛い。何回か乾いた咳をこぼし、また大きく息を吸って叫ぶを繰り返す
誰か...っ!
体力の限界に近いようだ。もう無断で入ってしまおうか。でも足が動かない、呼吸が浅い、ただただ寒い
(ダメかも...)
諦めかけたそのとき。軋んだ音を立ててお屋敷の玄関が開いたと同時に、大丈夫ですかと叫ぶ声が聞こえた
助かった...
記憶はそこまでで途切れてしまった




