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政見放送

作者: 雉白書屋

『間もなく放送を開始します。国民の皆様、ご静聴のほどよろしくお願いします。自由統一党総裁、キシヌマ氏の登場です』


『えー、自由統一党総裁、キシヌマと申します。えー、私が国民の皆様にお選びいただいた際には、必ずこの国に明るい未来を取り戻すと、あ、いや、取り戻すというのは失言でした。えー、この国の発展と皆様の生活の安定のため、全力を尽くすと誓います。どうか、清き一票を……』


『続きまして、民愛党――』


『わ、私はこの国が抱える問題を解決する明確なビジョンと、実行力を持っています! この国の未来のために、ぜひ、プラス票をお願いいたします! ああぁぁぁ!」


『続きまして、グリーン党総裁、ミツナガ氏です』


『どうも、グリーン党総裁、グリーン・ミツナガです。皆様、冷静にお考えください。何が本当に必要で、何がそうでないのかを。野蛮なジェノサイドは、断固オポーズです』


『続きまして、仏明会総裁、イケタニ氏です』


『こんなこと……仏様がお許しになるはずがありません。国民の皆様、どうかよくお考えの上で投票してください。それだけが私からのお願いです。南無妙法蓮華経……』


『続きまして、共産連盟総裁、ゴウ・チン氏です』


『どうも……国民の皆様、輝かしい未来を共に――』


『集計結果が出ましたので、発表に移らせていただきます』


『おい、まだ私の番は終わって、あ、やめて、あ』


『では、結果を発表いたします。まずは自由統一党、ソンヨン・キシヌマ氏。獲得票数……31万2487票』


『ふうー』


『民愛党、ミキオ・プルート氏。獲得票数……14万6942票』


『うぅぅぅ……』


『グリーン党、グリーン・ミツナガ氏。獲得票数……26万1321票』


『いいわ……』


『仏明会、オーランド・イケタニ氏。獲得票数……13万5784票』


『おお……』


『共産連盟、ゴウ・チン氏。獲得票数……3万1298票』


『あぁぁ……』


『以上がプラス票の集計結果です。続きまして、マイナス票の発表です』


 選挙は政治家にとって就職活動であり、国民の票を奪い合うある種のマネーゲームでもある。街宣車の上で己を大きく見せ、手を振り、時には腰を低くして握手に勤しむ。普段は尊大な態度を取り、不祥事が発覚しても悪びれない政治家たちも、この時ばかりは殊勝な態度で国民に訴えかけるのだ。平気な顔で嘘をつき、当選後に「選挙中に言っていたことと違うじゃないか」と指摘されても知らぬ顔を決め込む。どうせ次の選挙の時には国民はすっかり忘れているのだからと、高を括って。

 政治家そのものに失望し、投票する気が失われるのはむしろ好都合。自分に心酔している信者たちの力があれば、当選は確実だ。

 しかし、『マイナス票』とは政治家にとって恐怖そのものだ。いくらプラス票を稼いでも、マイナス票がそれを上回れば落選が確定する。もともと、他人の足を引っ張ることが好きな国民性だ。この取り組みが導入されれば、低迷する投票率は大幅に上昇するに違いない。 


『順に参ります。ソンヨン・キシヌマ氏。マイナス票数……456万2438票! よって、死刑! ミキオ・プルート氏。632万1278票! 同じく死刑! グリーン・ミツナガ氏。326万1276票! 死刑! オーランド・イケタニ氏。死刑! ゴウ・チン氏。しけええええい!』


『ああああああああああ!』

『嫌だあぁぁぁぁ!』

『いやあああああ!』


『それでは公開処刑の準備が整うまでの間、次の候補者の投票を開始いたします。国民の皆様、テレビ、ネットから振るって投票をお願いいたします。まずは――』


 まあ、我が国には関係ない話だ。しかし、私腹を肥やし、国民を御しきれなかった者の末路は見るに堪えないものだ……おっと、そろそろ時間か。


「官房長官、そろそろ会見の時間です」


「ああ、ちょうど今そう思ったところだ」


「記者団の質問内容は――」


「ああ、わかっている。例のクーデターが起きた国のことだろう?」


「はい、日系人が多く、他人事ではないと」


「そうやって不安を煽るのが彼らマスコミの仕事だからな。まあ、日本ではクーデターなど起きないから安心だ。そういう国民性でもあるからな」

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