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第008話 あやかし第Ⅶ支部(中立派)

 早朝から町を抜け出した俺達は中立派のあやかし専門協会を目指して幼女の足に合わせて歩いている。

 この足だと確実に日が暮れそうだ。


 イブリースが背負って走ると提案したんだが、俺の姿が見えなくなるから嫌だと拒否。

 近付けないと分かった上で、視界へ入る場所にいたいらしい。


 勝手に魔力を吸われただけなのに、懐かれた……。


「パパぁ……」


「いや、俺はお前のパパじゃ……。てか、他に言葉は喋ったか?」


「ううん。この言葉しか知らないみたい。きっと、森に入った人間の言葉を覚えたんでしょ」


 このままじゃ誤解を生みかねないが調査は協会側に任せよう。


 自動で魔力を吸収しないよう結界魔法を試したが他のあやかしと違って食事をするように喰われて消えた。

 幼女の姿でアレは怖すぎる……。


「――まさか、結界魔法を口から吸収するとは思わなかった……」


「あれは、怖いわね……。大きな口を開けて息を吸い込むように、顔がパンパンだったわ」


「僕も見てますが、良鬼(リョウキ)もその手をしっかり握って離さないでくださいよ!」


 少し先を歩く俺の首にはいつものようにルッカが襟巻きになっているが顔は後ろに向けられて幼女を監視していた。

 その幼女は無邪気で興味を惹かれる見たことないものが見えただけで走り出そうとするのを、イブリースが握っている手を引き寄せて制止している。


 さすがに生まれたばかりの幼体であるあやかしを討伐対象として殺さないとは思うが……能力的に不安だ。

 ただ、俺が寝ている間にいくつか分かったことがある。


「その髪も武器になるとは思わなかったな」


「本当よね。まさか、刃物みたいに硬くて切れるとは思わなかったわー。それに、カオナシを威圧するなんて……」


「失神したカオナシはさすがに可哀相でしたね」


 早朝に様子を見に訪ねてきたカオナシが幼女と鉢合わせた瞬間、驚いたあまり妖力を纏わせた威圧で気絶した。

 ここまで上位のあやかしは初めてで俺も正直戸惑っている。


 まだ幼体なだけ助かっているし、俺にとって脅威になるCROWN(クラウン)候補じゃなくて良かった。


 人間が行き交う道は通れないことからあやかしの道を歩いている俺達はまだ一つ町を越えたくらいで目的地まで半分も歩いていない。


 昨日のように寝てくれたら、俺達の足なら直ぐに着く。

 さすがに俺の魔力を喰わせて酔わせるわけにはいかない。


 見た目が幼女だから、初の二段階変質とかされても困るしな……。


「あー……そうだ。名前がないから、なんて呼べばいいんだ」


「あー、情が湧くかもだけど幼体だし。普通に考えたら長い付き合いになるかもだから、仮の名前つけるくらいならいいんじゃない?」


(あるじ)に名前をつけてもらうなんて羨ましいです……! 適当でいいと思います」


 話しかけられたと思った幼女は大きな二重の瞳を輝かせて、俺に近づこうとしてイブリースに手を引っ張られている。


 こんな目を向けられて罪悪感しかない。自動魔力吸収をどうにか出来たとしても一緒に暮らすのは無理だ。

 子供の世話なんてしたこともないし、する気もない。


 これでもあやかしとは一線を引いている。イブリースには色々言われたが俺はそこまであやかしに優しくはない。


 もちろん、可愛い相棒のルッカは別だ。将来コイツになら喰われてもいいと思うほど可愛い……。


 確実に怒られるから口が裂けても言わないけど――。


「そうだなぁ……。よし、決めた。お前の名前は、アノニマスだ」


「アノ……ニマ……?」


「あっ、喋った! それで、どんな意味なの?」


 意味を聞かれると答えにくい。なぜなら、"名無し"という意味だから。



 ◇ ◆ ◇



 俺はアノニマスにお願いしてイブリースが背負う形で目的地である、あやかし専門協会の中立派が拠点とする街に辿り着く。


 あやかし専門協会には本部と支部が存在する。

 それから国によって友好派、中立派、反対派へ分断されていた。

 俺がいる中立国には支部が二つあって、その一つが此処、第七支部だ。


 俺のいる町よりも面積は広く、この支部は八割が貴族ということもあって、きらびやかで出店は一切ない。


 でもって、当然のごとく門番に足止めを食らう。


「そこの女! あやかしだな。許可書は持ってるのか!?」


「あー……忘れてた。えーっと、俺は中立協会()の魔導士だ」


「魔導士様でしたか。ですが、あやかしは許可証が必要です。未所持でしたら、あちらから申請をお願いします」


 言われた方向に視線を向けると別な門番のいる詰め所があった。

 ただこの場合すぐには申請が下りない。


 人間が沢山いる街でアノニマスを歩かせるわけにもいかず、外で待っていてもらい、俺一人先に行くことを検討していると遠くの方から叫び声をあげて走ってくる人物がいた。

 ブンブンと勢い良く手を振る大男に身構える。


「ノワール! ノワールだよな!? 久しぶりー! 何年ぶりだ!?」


「えっと……シアンか? 嘘だろ……成長しすぎだろう」


 同期のシアンとは、年が五歳も離れていたことから出会った頃は十五歳だった。

 俺は教会に入って直ぐに居場所を移したため、最後に会ってから八年ぶりになる。


 当時は俺よりも低かった身長に体格も立派すぎるほど成長を遂げていた。

 門番が何か言う前に抱きしめられると、嫌でも体格差が分かる。

 ルッカがモゴモゴと苦しそうに動くのに気がついて、俺はシアンの背中を軽く叩いて離れるよう促した。


「ごめん! 久しぶりすぎてつい……町を転々としているのは知っていたけど、顔を出したときはオレがいなかったりで」


「ああ。それにしても、立派になったなぁ……俺も百八十センチ近い身長はあるはずなのに、体格差で小さく見られそうだ」


「うん! 百九十五センチだったかなー? へへっ。あのときは、負けてたからな。魔導士でも、あやかしと戦うなら身体を鍛えて損はないし」


 ――百九十五センチとか、デカすぎだろう。


 それなのに相変わらず犬属性は変わらないな。

 俺と違って裏表なく真っ直ぐで明るくて、人を選ばない人懐こさは尊敬する。


 一歩離れた場所にいるイブリースへ気が付いたシアンは興味本位から近づいて行った。

 すかさずシアンから距離をとってアノニマスを遠ざけるイブリースに、俺もシアンの腕を掴む。


「この子、ノワールの彼女? あっ、でもあやかしかぁ。それに、そっちの子供……」


「あやかしの幼体だ。それで、協会に来た。理由(わけ)あってあやかしの"仲間"に協力してもらって、緊急だったから許可証をすっかり忘れていたんだ」


「オレ、相変わらず頭は悪いけど……あやかしのことならなんとなく分かる! 緊急案件だ。分かるよな?」


 シアンの一声で態度を一変させた門番に許可をもらった俺達は裏通りから真っ直ぐ協会に向かった。


 協会はこの街で一番大きい施設であり、白一色で外観は城といっても過言はないほど屋根の部分は尖って塔のような場所がいくつもある。


 珍しい三階建ての作りだ。

 この世界は良くて二階建てで基本的に平屋が多い。


 人族にも面倒な王権制度がある。国王が住む城より高い建物は建てては駄目というものだ。


「正面から行くと協会の人間が多いから、裏口から入ろう」


「シアン、見ない間に(たくま)しくなったな……」


「そうなら嬉しい! あーっと、オレも同席して良いか?」


 俺は首を縦に振る。別に知られて困ることはないし、アノニマスの件がなかったら別件はシアンに頼むつもりだったしな。


 俺達はシアンの案内で直ぐに中立協会で一番偉い支部長がいる部屋の前に辿り着く。


 シアンが軽く扉を叩くと中から声がして静かに開けて入った。

 椅子に座って資料に目を通していたのは支部長であるグラオ・ネウトラーリ。


 三十五歳とまだ若い中、中立協会の支部長を任せられている凄腕の貴族出身で有りながら実力者だ。


「シアン・アスールです! 緊急案件により、ノワール・A・ブランシュを連れてきました」


「なるほど……。それで、許可証のないあやかしが共にいると言うことか?」


「ノワール・A・ブランシュです。はい。無許可のことお許しください。緊急案件が二つありまして、急ぎ報告に参りました」


 灰色の少し伸びた後ろ髪を一つに縛り、色白で中性的な容姿の男が顔を上げ、鋭い瞳で俺達を見定めている。

 シアンは扉側に下がり、許可を得た俺は一歩前に出て最初の案件を話した。


「――まさか、あのカマカゼを一人で退治するとは、噂は本当だったようだ。それで、上位のあやかしに変異したのは本当か?」


「はい。此方に詳細を書き記しています。それから、二つ目ですが……」


「ああ。そのあやかしの後ろに隠れている幼体の件か」


 アノニマスは幼体故に溢れる妖力を抑えられず、妖気がだだ漏れで気が付かない魔導士はいないだろう。


 初めて見る人間にイブリースから隠れるようにして顔を覗かせていた。


「はい。仮の名前としてアノニマスと名付けています。本当の幼体から、その……俺の魔力を吸収して、幼女のような姿に変化しました」


「協会の魔導士である人間が、幼体に進んで魔力は与えないだろう。つまり、奪われたということか」


「はい……。アノニマスは、自動魔力吸収の能力を持っていました。触れずに、魔力を吸うことが出来ます。それ故、彼女に頼んで連れてきました」


 イブリースは拠点としている町の森に住んでいることを伝える。

 緊急事態にも関わらず表情一つ変えない支部長はさすがだった。


「カマカゼの件はご苦労だった。後で報酬を用意する。それと、幼体の件は少し時間が必要な案件だ。シアンに部屋を用意させる」


「分かりました。危険な存在ではないと、思います……寛大な処置をお願いします」


「パパぁ……アノ、ニマ……」


 喋ると思っていなかったアノニマスの聞きたくなかった台詞に、思わず目を見張る。


 アノニマスによってこの部屋にいる人間は無論、あやかしたちも凍り付いたのは言うまでもない――。






 ◇◆---------------------------◆◇


 <あやかし紹介>


 No.Ⅵ Named.???(アノニマス)

 生まれたばかりのあやかし。幼体の初めは黒い粘液状から幼女に変化した。

 ピンク色の腰まで伸びた髪に、同色で大きな二重の瞳。髪は刃物のように硬く切れない。成長した見た目は六歳くらいの幼女。

 最も人間へ近いあやかしであり、上位存在であること以外不明。

 ただ、魔力は一切なく妖力のみで、妖気を纏っていることから完全なあやかしであることは明確。

 能力は刃物のように硬い髪と妖力を纏って威圧する。

 本人の意志関係なく側にいる人間の魔力を自動吸収してしまう。


 追記……

 <ノワール情報>

 魔力を吸ったことで成長したからか「パパ」と呼び、懐かれる。

 いまのところ純粋無垢な子供にしか見えない。

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