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第041話 水浴び?

 冷や汗に似た汗をかいたことで、出来たら水浴びをしたいと申告するヴィオレットのためにエリゴールが危険が少ない川を見つけてきてくれる。

 いざ川を目の前にしてみると、横幅五十メートルほどはある立派さだった。


「それじゃあ、川の中に何かあるといけないから俺が先に入るか……」


「分かりました! それじゃあ、わたしは……そこの、木に隠れてますね!」


「いや、それもなんか目を離すみたいな……」


 ヴィオレットは男以上に並外れた体力や腕力があるけど、それ以外は年下の女性であって守るべき聖女だ。

 ルッカはオスだけど……小動物みたいなものだから一緒に――。


「問題ございません。ノワール様のお身体は、一切露出させません」


「えっ……?」


「なんと!?」


 閉じていた黒く艶のある双翼が大きく広げられる。

 人一人なら大人の男も隠せそうな大きさではあるが、まさかな……?



 ――まさかは現実になって、ローブを脱いだあと肌を露出することなく羽に隠されたまま川の中にいる。

 エリゴールは目を瞑っていて、川の前ではルッカを膝に乗せたヴィオレットが手を振っていた。


「――どうして、こうなった……」


「ノワール様、いかが致しましたか? 川の温度は適温かと思われます」


「いや……川は冷たくないけど。この状況はどうなんだ……」


「ノワールさん! 従者にがっしり守られてる王子様みたいですよー!」


 黒い双翼は体に触れないよう一定の空間が作られている。

 羽根は曲がるものだが、器用すぎるし……こんな使い方するものじゃない。


 それに、やるなら女子のヴィオレットだろう……。

 まぁ、エリゴールが男だから出来そうにないけど……。


 休まらない水浴びだ。


 無になったまま水浴びを済ませて川から上がると、魔法で服を乾かした。

 本当に魔法は便利だと思う。


 川に異常はなかったため、ヴィオレットも服を着たまま着水した。当然、視界を遮るものはないため巨大化したルッカが尻尾で外からの目を遮断している。


「お待たせしましたー! はぁ、水浴びって気持ちいいですねー」


「ああ……普通はな。俺のは、なんか違う気がする……。それより早いな」


「はい! 早さもわたしの特技です! 寝るのも早いですし、着替えから食べるのも早いですよー」


 言われてみると、床についてすぐに寝ていたし、大食いであって早食いだった。

 さすがヴィオレットだと感心する。ただ、こういう場面では色々ありそうな気もするが……ヴィオレットに関しては何もないな。


 準備を済ませて再び深い森を再び歩き出してすぐ、まだ小さいが明らかに他とは違う透明で、結晶のような魔力生命樹(マギア・リラフト)へ目を奪われる。


「うわー! 凄い綺麗ですね!!」


「ああ、そうだな。まだ小さいが、この深い森ならいくつあってもおかしくない」


 一説では魔力生命樹(マギア・リラフト)が森を作っているとも言われていた。この大陸で一番広大な森なら、少なく見積もっても五本はありそうな気がする……。

 ただ、その一本は得体の知らない緑色のあやかしに喰われて失われた――。


 魔力生命樹(マギア・リラフト)の上は他の木が避けたように穴が空いているため、太陽の光に照らされた透明な葉がキラキラ輝いている。

 頭上からプツンと音がして一枚の葉がヒラヒラ舞い降りてきた。


 思わず両手を伸ばすヴィオレットの掌に透明な葉が触れた瞬間、砂のように粒子へ変わってサラサラと消えていく。


「えっ……」


「へあっ!? き、消えちゃいました!!」


魔力生命樹(マギア・リラフト)の葉は熱で消えますよ? なので、素材として使う場合は加工が必須らしいです」


 首に巻き付いていたルッカが、俺たちの知らないことを説明してくれた。人間よりも長生きしているあやかしは情報通だが、ルッカは生まれてそんな経ってないはず……。


 眉を寄せてルッカを見据えると、首をかしげる姿は可愛い。


(あるじ)ぃ……? どうかしましたか?」


「いや……ルッカはまだあやかしになって幼い方だろう? 物知りだよなって」


「そう言うことでしたか。実は、あやかしによってコミュニティがあるんです! 僕は(あるじ)たちが使う魔法と違って声を拾ってます。人間の耳には聞こえません」


「ルッカちゃん凄いです! 自然の魔力みたいに見えないけど、感じ取るって感じでしょうか」


 あやかしはまだ不思議でいっぱいだな。

 コミュニティについて軽く説明をしてくれるルッカを撫でながら、再び開けた場所へ出る。


 エリゴールに運ばれて距離は伸ばせた気がしたが、のんびり歩いていたからか再び藍青色の夜(アズルノーチェ)へ移り変わった空を見上げた。

 淡紅色をした空模様が一瞬で深い青へ染まるのは圧巻だ。

 ただ、素直に喜べないのは複雑でもある。


「それじゃあ、今日は此処で野宿しようか」


「はい! 今日はどんな野菜を使いますかねー。この森に食料とかあったら良いんですけど……」


「森なんだから、キノコや樹の実……山菜なんかはありそうだけどなぁ」


「探してみましょうか? 僕がお供します!」


 ルッカの提案で焚き火の枝を探しつつ食べ物も見て回る俺たちと、料理の準備をするヴィオレットに、護衛するエリゴールで分かれ、平穏な一日が過ぎていった。

お知らせ

活動報告でお知らせしたのですが、この度あやかしの王候補。略して『あや王』は次から【不定期連載】になります。ストックが書けて、投稿するときは、日曜日の19時10分〜で変更しません。今後もゆるっとあや王や、新作連載した際はそちらも宜しくお願いします。

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