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第040話 魔力生命樹《マギア・リラフト》

 早朝、穏やかな気候の中で軽食を食べてから森を歩き出してすぐ、後ろを歩いていたエリゴールがスッと前に出て片手を横へ伸ばす。

 何かあるのかと後ろから覗き込んで、歩いてきた道とはだいぶ異なる足場に眉を寄せた。


 森の中は比較的、地面にも草が生えていて、伸びた蔓などでヴィオレットが何度も足を取られそうになっている。

 にも関わらず、足を止めた先は土だけではなく枯れた土地のように干からびて見えた。


「――地面が、割れてるな……」

「ほ、本当ですね! 水分が少なかったんでしょうか……」

「いや、此処から先ずっとみたいだ……。僅かだが、魔力のようなものも感じる」


 首に巻き付いていたルッカも地面へ降り立つと匂いを嗅ぐ。

 明らかに感じたことのない魔力と、以前どこかで記憶している妖力の残滓も感じた。

 周りの木には影響がないのか、変わった部分は見えない。

 空に視線を向けるが、相変わらず生い茂る長い木によって僅かな隙間から覗く青さだけ……。


「広大な森とは言っても、一種の檻みたいだな……」

「私でしたら森を抜ける事は可能ですが、翼を痛めそうです」

「えっ? その硬い翼なら森の木くらいで――」

「この森には多くのあやかしが棲息しておりますが、それ以上にどこの森よりも大きな魔力がございます」


 エリゴールいわく、魔力はあやかしの食事になるが、この森にある魔力は前衛的だという。

 つまり、被食者ではなく捕食者だ。


 地面に触れても異常はないということで再び歩き出して少し経った頃。異常の無かった木が薙ぎ倒された広い場所にたどり着く。

 明らかに人間がいた形跡も僅かに残っていた。


「……此処は、森人がいた里の跡地だな」

「えっ!? そうなんですか!? 地面は乾いてますね……それに、この跡――」

「ああ。あのときの緑色のあやかしだ。吸魔(キュウマ)から名前を聞くのを忘れていたな……」


 巨大な足跡が中心部に残されている。簡易的に枯れ草や木材で作られた家屋は踏み潰されて辛うじて原型が分かるほどだった。


 再び匂いを嗅ぐルッカは頭を上げて走り出す。

 思わず追いかけた森の先には、先ほど感じた魔力の正体があった。


 この森では異様に感じる風景。背の高い木々が避けるようにポッカリと空いた場所の下で、日差しを浴びてキラキラと輝く透明な結晶――。

 見た目が結晶みたいに透明で美しい巨大な木――の、枯れ跡。

 下に散乱している木の葉は硝子のように砕け散っていて、巨大な手の跡がこびりつき、押しつぶされた魔力生命樹(マギア・リラフト)だ……。

 あと数日経ったら折れそうな幹からは、目に見えないはずの魔力残滓が黒い靄のように溢れ出ている。


「ひゃっ……!? これって……」

「――魔力生命樹(マギア・リラフト)だ。それも、年代物だな……」

(あるじ)ぃ……。この世界に生きるあやかしなら、これがどれだけ大事か分かっています。妖力を回復するために、こんなことをやらかす()れ者は危険です」


 ルッカの言うとおり……。

 あやかしにとって空気中に魔力があるからこそ、人間と違って寝ることなく妖力を回復出来るんだ。

 それを担っている魔力生命樹(マギア・リラフト)を殺して奪うなんて……。相当な面倒事だということが分かる。


 完全回復したかは定かじゃないが、いつまた急に襲われてもおかしくはない状況だ。


「森の中はあやかしの妖気で溢れてる……此処からは更に気を引き締めよう」

「は、はい……! それと……ここにいた森人さんたちは無事でしょうか……?」

「その心配はないだろう。俺たち人族と違って賢いからな……伊達に、数千年生きていないって話だ」


 ホッと胸をなでおろすヴィオレットに、跡地を調べることはせず急ぐことにして足を速める魔法を使う。

 それでも数日はかかりそうな森の中、入ってきたときよりも呼吸がし辛いことに気づいた。


 この感覚は、魔力枯渇に近いような……危なさがある。

 横を見て、体力自慢なヴィオレットも額に汗が滲んでいた。


 再び前に出たエリゴールが無表情のまま重大なことを告げてくる。


「ノワール様。この地帯だけ、異様に空気中の魔力が薄いようです。このペースでは、身動きが取れない事態もありえます」

「エリゴールの言うとおりです! きっと、あの木が朽ちたことで、ここ一帯に流れていた空気も異常を来しているのかと」

「……なるほどな。普段なら魔力生命樹(マギア・リラフト)のない場所でも気にならないが、あって当たり前の物が無くなったから……」

「ですので、失礼致します――」


 話は分かったが、次の言葉の意味は理解出来ずヴィオレットと目線を合わせた途端、不自然に体が浮き上がった。

 ヴィオレットも慌てている様子で、中心にいるエリゴールを見てすぐに理解する。

 俺たちは腰を抱かれて荷物のようになっていた。

 いつの間にかルッカも俺の首に巻き付いている。


「それでは参ります――」

「いや、待て……参るって――」

「うひゃぁぁあ!?」


 呼吸をすることも苦しくなるほどの速さで上空を低空飛行していた。景色は残像のように繰り返され、酔いそうになって目を瞑る。

 エリゴールに何も言えないまま、どうにか呼吸をして気づくと藍青色の夜(アズルノーチェ)が顔を出し、漸く解放された俺たちは地面に四つん這いになって深呼吸していた。

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