表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/43

第039話 ホッとするスープの味

 しばらく獣道を歩いていると、薄紅色をした空は藍青色の夜(アズルノーチェ)へ変化する。

 拍子抜けするほどに平穏で、静かな森はかえって異常に感じた。

 辺りは当然暗くなってきたため、魔法で周りを照らして進む。


「そろそろ野宿する場所を決めようか。と言っても、どこも同じにしか見えないが……」


「そうですね……道に迷いそうです。ルッカさんのおかげでここまで来られましたが!」


「当然のことです! (あるじ)を正しい道へ導くのが僕の役目ですから」


 ルッカは可愛いだけじゃなくて強くて賢い……。

 俺は幸せ者だ。


 尻尾をパタパタと動かして、褒められて興奮しているルッカの頭を撫でる。

 少しだけくすぐったいけど。


 エリゴールが周辺を確認して、他の木より少しだけ大きな木の横でテントを張ることにした。


「よし、あとは――」


「お任せください! わたしが、温かくて具だくさんな野菜スープを作りますので!」


 気合十分なヴィオレットに食事の準備を任せて、焚き火のため細かい枝を集める。

 魔法を使って一本の木を木材にして、水分を抜いたら簡単だが、極力森の破壊は禁止されていた。


 魔力生命樹(マギア・リラフト)の生息地であることもそうだけど、あやかしの棲み処を奪うことは人間の里に出てくる者が増える。

 あやかしとの中立を公言しているこの国は争いの火種を生まないよう努力しているわけだ。


「これに火をつけてっと……よし。石は事前に準備しておいて良かったな」


「本当に魔法は便利ですよね! こんな小さくなって、持ち運びが楽です」


 指ほどの大きさな調理器具を革袋から取り出すヴィオレットが笑いながら元の大きさに戻していく。


 人間に欠かせない水も魔法で生み出せるのは大きい。

 もちろん焚き火の火も。


 しばらくして直ぐに良い匂いがしてきて、しゃがみ込んだヴィオレットの上から覗き込む。

 前回とはまた違ったスープに目を細めた。


「あっ、もう少ししたら出来るので!」


「ああ。それじゃあ、テーブルとかの準備をしておく」


 小さくなった家具も革袋から取り出して魔法で大きくする。

 時間魔法が使えなくても、こうやって収納出来るから旅も楽だ。

 ただ、生モノは調達するか、氷魔法でも精々一日だから野菜以外は干し肉や干し魚になる。


「うーん……氷魔法を常時掛けられたら、生モノも持ち運べるが……出来るとしたら、俺くらいだろうしなぁ」


(あるじ)にしか出来ません! ですが、戦闘が続くと氷は溶ける恐れがありますからね……」


「そうだなぁ……。寒い季節くらいしか現実的じゃない。野生動物を狩るにも、この森はあやかしばかりで一匹もいなさそうだ」


 食用の肉は基本的に人間が育てている家畜で、野生動物は滅多に捕まらない。

 森に川が流れていたら魚を捕れるけど……当然文献(ぶんけん)にそんなものは載っていなかった。


「いま思ったが、あの鳥は森の中までついてきていたか?」


「いえ、森へ入る際に高く飛んでいきました。さすがに、森の中は危険と判断したのかもしれませんね」


「さすが、誰かの使い魔だ……。きっと、森の出口で待っているだろうな」


 健気にすら思える使い魔だが、基本的に魔導士が魔法で作り出したモノであって、生き物じゃない。


 テーブルと椅子の準備が終わったとき、元気なヴィオレットの声が森へ響き渡る。


「出来ましたー! あ、ノワールさんたちもありがとうございます!」


「ちょうどお腹も空いてきたし、早速頂こうか」


「はい! 熱いので気をつけてくださいね!」


 笑顔でよそってくれるヴィオレットから受け取った木の器に入ったスープから、香辛料の匂いがして腹部を押さえた。

 匂いだけでお腹が鳴りそうになる。


「ふっふっふー! 季節野菜盛りだくさんですよー! あと、町で購入したお肉も今日はあるので、贅沢です!」


「本当だな。鶏肉がゴロゴロしてる。美味しそうだ」


「明日からは野菜だけですが、美味しいスープを作りますね! それでは、いただきます」


「いただきます」


 食事のときは首に巻き付いているルッカも膝の上で丸くなっていた。

 いつものことだけど、ルッカを撫でながら食事が出来るなんて幸せすぎる……。


 まずはスープを飲むと、口の中へ広がる深い味わいに、新鮮な野菜と肉の出汁も感じた。


 調理で時間はかかっていないはずなのに、肉は口の中で溶けて、野菜は新鮮さが分かるみずみずしさ。

 自然にホッと息が溢れる。


「ヴィオレットのスープを味わったのは二度目だけど、本当に美味しいな」


「えへへ……ありがとうございます! まだまだ沢山あるのでお替りしてくださいね!」


「ああ。軽く二杯はいけそうだ」


 ヴィオレットは俺以上に食べるから、食材の量が心配だけど鍋を見た限り四人分はあった。

 収納魔法はあっても、時間魔法がないから保存は効かない。


 俺たちは満足する量を食べて、片づけを済ませるとすぐに就寝した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ