第037話 楽園の裏側『残骸』
昨日は投稿出来ず、申し訳ございませんでした。今後は、手動ではなく予約投稿にしますので引き続き宜しくお願いします。
また、5月より日時を毎週、日曜日の19時に変更します。
引っ込みそうになる首を鷲掴みにする。
「おい……そこから、外へは出られるのか?」
「ヒィィィ!? な、んで……ニンゲンが――」
「主の言葉に答えなさい! でないと、その一つ目を目玉焼きにしますよ!」
「ヒァァア!? で、出られます……ただ、楽園の道でして……」
一つ目という珍しくもないが、中位のあやかしは、ご丁寧に楽園と繋がっている道だと教えてくれた。
つまり、そこから出ても意味がない。むしろ悪手。
思い切り引っ張り、一つ目をこちら側へ連れ込むと一度手を離した。
村人たちも驚きどよめく中、転がった一つ目を睨みつける。
「俺の言うことだけに答えろ……。人間界への出口と、此処の仕組みを教えろ」
「ヒッ!! 残忍な顔……。ニンゲンの道は、オラが通ってきた反対側。ちょうど、青い服を着たニンゲンが立ってる」
「えっ……? うわぁぁあ!?」
一つ目に言われた村人が背後の空間に触れた瞬間、消えてしまった。
唖然とする俺は、前に向き直り再び一つ目の首を鷲掴みにする。
「オイ……あの人は大丈夫なんだろうな?」
「ヒィィィ!! だ、大丈夫! 下位のあやかしも行かせたらいい! でも、出口から出たら戻れなくなる!」
「主ぃ……この者、信用には値しませんが、一人行ってしまったので行くしかないかと」
村人が一人消えたことで不安が増長してしまった。人間の不安なんて分かるはずがない、空中を優雅に飛んでいるミスティを呼びつける。
「ミスティ! お前も先に行ってほしい。頼めるか」
「ウーン……分かっタ! 行ってあげル。みんな、ミスティについてきテ!」
ミスティが先に空間から姿を消すと、下位のあやかしから順に通り抜けていった。
足元にいたルッカはなぜか肩へ飛び乗ると、首に巻き付いてくる。
「主は僕が守ります!」
「有り難う……相棒。それで、此処の仕組みは?」
「こ、ここは……残骸と呼ばれる場所……。楽園から出たゴミを捨てて、オラ達が処理する。ただ、楽園の裏側だから……"同じルールが適応される"」
「つまり――お前……!」
最後の言葉で一つ目が歪む姿に、背後へ視線を向けて全員が通った空間へ触れるが空を掴むだけで、出口が消えていた。
代わりに例の耳障りな声が聞こえてくる。
『……えー、まさか楽園の裏側である残骸に人間が一匹迷い込んだようです。楽園のルール上、鬼ごっこが始まります。あやかしのみなさんは、狩りに備えてください。繰り返します――』
「フヘヘ……すぐに出口から出てたら良かったんだ。おまえ、凄い良い匂いがする!」
「主ぃ! この空間じゃ、逃げ場がありません! しかも、楽園ではあやかし共の核が破壊できません――」
「ハハッ……万事休すってか? 旅も始まったばかりなんだけどな――」
先ほどまで畏怖していた一つ目はすでに俺を獲物として見ていた。
まさに、形勢逆転……。
しかも、どこからともなく、ぬっと空間を移動してきたあやかし達が姿を現してくる。どいつもこいつも、獲物としか認識していない目はギラギラしていた。
それなのに、なぜか冷静な自分に笑いそうになる。
これは、諦めて餌になると決めたわけじゃない。
冷静になってあやかし達を前に目を閉じる。
「――エリゴール。お前なら、この窮地を救ってくれるんだろう?」
一斉に飛びかかってくるあやかし達に、再び目を開けて一歩後退する俺の横から二本の腕が伸びてきた。
艶のある黒く伸びた爪に、細いのに筋肉質で靭やかな腕――。
ルッカが何かを口にするよりも早く、腕を掴まれた俺達は残骸から消える。
『……えー、残念ですが。速攻で、狩りの時間が終了となりましたー――』
抱きとめられる感覚と、少し高めの可愛らしいルッカの声じゃない、低音で耳に心地良い音が聞こえてきた。
「――"ノワール様"。遅くなり、申し訳ございませんでした。ご無事でしょうか」
視界に入る黒い双翼と、離れていく姿で背後へ向き直る。
「……エリゴール。有り難う。お前のおかげで無事みたいだ。来てくれると思っていた」
「無論。ノワール様の危険分子は、空間であろうと全て排除致します――楽園等、最も不要な産物。いずれ始末致します故」
「ははっ……楽園というよりは、あの鬼ごっこだけだな。あのルールは誰が作ったんだ?」
「あの気色悪い遊戯ですか。あれは、確か――前王だったかと。我が王も廃止を考えておられましたが――複雑なようでして」
複雑で残酷な遊戯……。
あやかしらしい、気色の悪さだ。
艶狐が言っていた言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど……。
俺とルッカの安寧に不要な、『楽園の破壊』って目的が追加されたぞ?
ふと視線を感じて周りを見ると、町の前だということに気付く。
森じゃないことに驚く視界へ、目に涙を浮かばせたヴィオレットの顔が張り付いた。助けた村人と下位のあやかし達もいる。
「ノワールさぁぁあん!! 無事で、良かっだですぅぅう!!」
「ヴィオレット……悪い、心配かけた」
勢いのまま抱きついてきたヴィオレットを受け止めると、俺達の周りを飛び回るミスティに深く息を吐いた。
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お知らせ。
以前お伝えしました通り、本日から19:02投稿になります。また、日にちについては日曜連載になります。
そのため、次回は5月4日を予定しいます。宜しくお願いします。




