第033話 二年で築いたもの
「……あやかしと共存する村か」
明らかに赤い月の夜明けの影響を受けた中位のあやかしの暴走した跡。
村の入口で立ち止まっていた俺達に気付いた村人が歩いてきた。
復旧作業を手伝っていた下位のあやかしはエリゴールにビビって手が止まっている。
「……あの。旅の方……いえ、そのローブは協会の……。視察でしょうか?」
「あっ……いや。視察じゃない。目的地に向けて移動しているんだ。それで、これは」
「そうでしたか……。はい、あやかし達に赤い月の影響と聞きました。ですが、この通り……問題はありません」
詳しく話を聞くと、村にいた中位のあやかしが暴れたが、下位のあやかしが頑張って止めて元に戻ったらしい。
中位のあやかしは一人だけしかいなかったようで被害は最小限に収まったとか。
ただ、村は半壊。
数日かけて復旧作業中だった。
「あやかしの野性的な面は見てなかっただろう? 恐ろしくなかったのか?」
「……はは……最初は、突然過ぎて、恐怖しました。ですが、二年も一緒に暮らしていたので……」
笑っていう村人に、声が聞こえている下位のあやかしたちも、ぎこちなく笑っている。
思わず自分と重ねて、二年もいたのに無言で出て行った町のことを思い出した。
最初は協会の人間として喜ばれ、関係も良好。
少しずつあやかしとの関わりが増えていくと、町で噂を聞いてしまった。
「今回、町に来た協会の人……"あやかし側"みたい。私達の話なんて聞いてくれないんじゃないかしら」
幼少期の人間に嫌われたくないという気持ちがトラウマに似た部分から、距離を取ったことで誰も訪ねてこなくなってしまう。
中立側だからこそ起こることだった。
俺は派閥に属していない無所属だが、そんなこと一般国民が知るわけもない。
エリゴールが動かないことで下位のあやかし達は作業を再開し始める。
人間と手を取り合って作業をする姿は理想そのものだった。
「――ヴィオレット。悪いけど……」
「皆まで言うなですね! 大丈夫です。わたしもノワールさんと同じ気持ちです」
「村長と話がしたい。迷惑でなかったら、俺達も復旧の手伝いをさせてほしい」
村人は驚いていたが、すぐに村長と話をして滞在許可も得る。
すぐに簡易的な小屋を案内してもらい、荷物はすべて魔法で小さくしているためそのまま作業に入った。
ヴィオレットは女性だからと別な仕事をお願いされそうになるが、自慢の怪力を披露するとあやかしと同じ仕事を頼まれている。
当然、護衛でもあるためヴィオレットと同じ仕事をこなすことになった。
「いや……魔法を使わないでとか、無理だろう……」
「そうですかー? わたし、魔法なんて使ってませんよ! あ、これはそっちに運んだらいいですか?」
「主ぃ……ヴィオレットさんと同じ考え方は改めるべきかと」
こっそりと話しかけてくるルッカに同意する。
作業をこなしていると、近づいてくる大柄なあやかしに気付いた。
一つ目をして額の左右に小さな角のようなものがある。
すぐにこいつが元凶である中立のあやかしだと分かった。
「これはオラのせい……始末するか?」
「……いや。俺達は、お前を始末しに来たわけじゃない。旅の途中で立ち寄っただけだ」
「そうですよ! 悪いことしたからって、あやかしだからと始末しません」
短い息を吐く中立のあやかしは安心したようで、村人や下位のあやかし達もホッとした顔をしている。
ただ、俺は一言だけ忠告した。
「お前の言う始末で、協会側が重要視しているのは人間を殺すことだ。分かるな?」
自分の耳にも聞こえてくる冷めた口調で、肝を冷やしたような中位のあやかしは大きく首を縦に振る。
それから、これは他のあやかしにも聞いていることを聞いた。
おかしくなったときの状態について。
「……やっぱり、自我を失うタイプが多いな。興奮状態というよりは、野生的?」
「ふむふむ……。つまり! あやかしさん達は理性的ということですね」
「まぁ、そうなるな……。それに、理性的じゃないと共存なんて出来ていないだろう」
村に来て昼食を頂いてからずっと作業をしていると、知らないうちに藍青色の夜に移り変わっていた。
以前なら星の光だけで暗かった夜も明るく感じて、体内時計が狂う。
俺達は村長宅にお邪魔して夕食をご馳走になっていた。
「その……このようなことは言いたくないのですが。次の村は中位のあやかしが複数いましたので、村がなくなってるかもしれません……」
「なるほど……。いや、有益な情報感謝する。そのときはまた考えよう」
「……家は無くなっても、此処のように建て直せます。村人や、あやかしさん達が無事だといいですね」
複雑な表情をするヴィオレットは村長の奥さんの手伝いをしながら少ない食材を分けてもらっている。
次の村までは比較的に遠くはないが、無くなっていたら野宿だな。
それから、さすがに肉や魚は調達出来ないから野菜スープになる。
「ヴィオレットがいなかったら、確実に干し肉と黒パンだったからな」
「えへへ……野菜スープでも美味しく頑張りますね!」
「すみません……。肉や魚は貴重でして、私共も赤い月から食せていないものでして……」
「協会に支援の請求をしておこう。もう暫く辛抱してほしい」
今回は小屋のため、ヴィオレットと雑魚寝になった。
本人は気にしていなかったけど、俺が気になるから仕方なく、ルッカを間に置いて誤魔化している。
低い天井を眺めてから視線を左右へ向けた。
扉側には当然のように佇むエリゴール。
そして、隣のヴィオレットは気持ち良さそうな寝顔を向けていた。
「……もう少し警戒してほしいと思うのはおかしいのか?」
「主ぃ……。全くおかしくありません! この娘が無防備なんです……。本部で一人にするのが心配になります」
「あやかしに心配される聖女って……。まぁ、大丈夫だろう。生活は約束されてるし」
眠くない俺はルッカと話をしていたら、いつの間にか朝を迎えて目を覚ます。
隣を見るとヴィオレットの姿がなく、飛び起きる俺にルッカが可愛い前足を外へ向けた。
「えっ……。エリゴールもいない? もしかして」
「主ぃ、おはようございます! 問題ございません。黒天宝が、主の言いつけを守って見守っています」
「俺が頼んだのは森だったけど……。それからずっと、指示を守ってるのか?」
顔を洗って二人の元へ向かうと、エリゴールが畏まる。
俺に気付いたヴィオレットが走ってくると、朝食をとってから早めに村を出ることにした。
「旅の無事を祈っています」
「有難うございます。それじゃあ、お元気で」
「食材なども含めて有難うございました! お元気でー!」
頭を下げる村人とあやかしを背に、再び舗装された道を歩きだす。
村がなくなっている可能性の話を聞いていたエリゴールが再び双翼を広げ、上空へ舞い上がった。
すぐに降りてきたエリゴールは首を横へ振る。
聖女であるヴィオレットを、ただ送り届けるだけじゃ終わらなそうだ……。
<お知らせ>
【週刊連載】
毎週月曜日20時02分〜
1話連載になります。
次の投稿は4月7日(月)になります。
以前お伝えしていた4月〜新作連載予定のため、【あやかしの王候補】略して『あや王』は週刊連載になります。
新作の連載時期は未定ですが、また活動報告に書きたいと思うので興味がありましたら本作と共にどうぞ宜しくお願いします。
引き続き楽しんで頂けると幸いです!応援宜しくお願いします。




