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第030話 反発と決闘

 俺達は老夫婦に感謝して別れ、朝早く第八支部へ向かう。

 支部の前には門番と違う協会の人間が入口に立っていた。鋭い眼光が向けられると、エリゴールに気づいて足留めされる。


 中立協会とはいえ、あやかしに寛容(かんよう)な人間だけじゃない。

 特にいまは聖女様を迎え入れようとしていて、警備も厳重だ。


「この男……上位のあやかしだろう。お前の部下なのか?」


「ああ。だけど部下じゃない……仲間だ。それから」


「はい! ヴィオレットって言います……。一応、聖女させていただいてます! この方達はわたしを守ってくれて、第七支部から来ました!」


「せ、聖女様!? 大変申し訳ございませんでした!! ……確か、金髪に紫色の瞳と……なぜか、巨大な木槌を持ってる……。どうぞ、お通り下さい!!」


 手配書でも見ているかのように資料へ目を通す体格の良い茶髪の男は、小声で特徴を口にしたあと深く頭を下げると扉を開く。


 思ったとおり内部関係者には情報を共有していたようで、俺達が中を歩くだけで協会の人間が頭を下げてきた。

 第七支部と第八支部は施設の作りが同じため、案内人は断って支部長室の扉を叩く。


「――ノワール・A・ブランシュです。聖女様をお連れしました」


『……どうぞ、中へ』


「失礼します。ヴィオレット」


 扉を大きく開いてからヴィオレットを先に通して、俺達は後から中へ入った。


 支部長室も第七支部と同じ作りをしていて、紺色の髪を後ろへ束ねた女性の支部長が(おごそ)かな椅子に座っている。


 幹部で活躍している女性の一人だ。


「長旅、お疲れ様でした。聖女様。それから、貴方も……。長居はせず、中立本部へ向うとのことでしたね。支給品や必要な物資をそこの者に教えて下さい」


不肖(ふしょう)ヴィオレット! 聖女のお勤め、精一杯頑張らせていただきます!」


「有難うございます。その間、俺達はどこにいたら良いでしょうか?」


「第七支部にもある客間へ案内させます。それから、一つ忠告があります……。聖女様の護衛が無所属の貴方であることを、良く思っていない者が居ると聞き(およ)んでいます」


 支部長直々になんの話かと身構えたが、大したことじゃなくてホッとする。

 第七支部は顔見知りだから問題なかったが、これからは違うだろうと思っていたから特に気にすることはない。


 俺が無所属を名乗らせてもらっている理由は純粋な強さだけじゃないからだ。

 協会で閲覧可能な一般的知識はもちろん、あやかしに関しても俺より上な奴がいないだろうと思うくらい自負している。


 だから、心配する言葉に対して思わず悪い笑みを浮かべそうになるのを手で隠した。


「なるほど……。問題ありません。決闘を申し込まれた場合、協会の(おきて)に基づいたやり方で対処します」


「さすが、協会始まって以来、どの派閥にも入らないことで無所属を名乗ってはいませんね。くれぐれも、聖女様に危害がないようお願いします」


 俺達は軽く頭を下げてから部屋を出てすぐ、必要な物資を伝えてから客間へ向かう。

 ただ、支部長室から出てまさかすぐに雑な尾行をされるとは思わなかった。


 俺は客間にたどり着いてすぐ、何も気付いていないヴィオレットへ先に部屋で(くつろ)いでいてほしいと伝えてから扉を閉める。


「それで? "無所属"である俺に、用があるんだろう?」


「チッ……僕様の尾行に気付くとは、ただの無所属気取りじゃないわけか。だが、上位のあやかしを(はべ)らせていないと弱いのか?」


「その前に、名乗ったらどうだ……。俺はお前の情報を一切知らないぞ」


 分かりやすい挑発に乗るほど子供じゃない俺はわざとらしく首を傾げてみせた。

 悔しがって顔を赤くする金髪の男は俺よりも明らかに年下だが、貴族であることは身なりですぐ分かる。

 

 ただ、挑発っていうのはこうやるんだ。


「きっ、貴様などに名乗る名はない! いますぐ地下の訓練場に来い! 僕様と勝負だ」


「ほう……。勝負は別に構わないが。なんの勝負で、何を賭けるんだ?」


「もちろん賭け金など、ご法度じゃないぞ! それは貴様が良く分かってるだろう。無所属などに、大事な聖女様を預けられるか!」


 支部長が心配していた種の一つらしい。

 ただ、口だけじゃないことは魔力で大体分かる。


 これも魔導士には常識で大事な要素だ。

 相手の魔力量を判別することで、魔導士による無駄な争いを減らせる。

 ただ、保有する魔力量が多すぎると判別出来なくなるっていう欠点もあった。


 当然俺はそれに当てはまる。


「決闘して納得するなら相手をしてやる。俺にとって見返りは何もないけどな」


「グッ……。調子づけるのも今のうちだからな!」


「エリゴール……悪いが、ヴィオレットを見ていてほしい。これは、お前だから頼めることだ」


「――ノワール様の仰せのままに」


 普通なら聖女様と上位のあやかしを一緒にすることはありえない。

 だけど、俺はエリゴールの言葉を信じている。


 名前を名乗らず、自分を僕様と言っているお坊ちゃんのあとをついて、施設の端にある階段を降りた。

 すると、角を曲がったところからすぐに訓練場が見える。

 室内空間で人工の土が敷かれただけの殺風景な場所だ。

 もちろん、魔導具によって施設が破壊されないよう常に防護魔法が展開されている。


 開放されていない訓練場には坊っちゃんの力で集められた数十人の観覧者がいた。


(あるじ)ぃ……。この()れ者、大丈夫でしょうか」


「ああ、問題ない。訓練場は、"支部長に筒抜け"だからな」


 支部長室には鏡遠録(ミロワール)っていう便利な魔導具がある。

 形は鏡のようで、同じ魔導具を通して遠くを視ることが出来た。


 もちろん、魔導具は安い買い物じゃないため、施設で一番危険がある場所に設置されている。


「おい、アレって……」


「坊っちゃんが連れてきた相手って、無所属ノワールかよ!?」


「さすが(あるじ)! 悪名高き存在のように知れ渡っているようです」


 それは正直嬉しくない……。


 入口から離れた方へ歩いていくお坊ちゃんは意外と礼儀正しいのが分かる。

 魔導士の決闘は離れた場所から魔法を撃ち合うのが定石(じょうせき)だからな。


「それで、観覧者まで集めた勝負内容は?」


「グッ……生意気な口を。貴様でも分かるように一発勝負だ! 互いに得意な魔法を同時に撃って、相手へ当てた方が勝ちだ」


「それって……相手の魔法を相殺して当てるってことだろう? 防護魔法は?」


「その通りだ! もちろん、危険な真似はご法度だからな……防護魔法は使ってからだ」


 意外に正統派で驚ていると、坊っちゃんはまた顔を赤くする。

 

 だけど、一つだけ問題があった。

 人間相手だと魔法を調整する必要がある。

 あやかしを殺さず捕まえるのと同じで、正直面倒くさい……。


 模擬戦をしたことのない魔導士の実力なんて魔力量だけじゃ俺でも分からないぞ。


「それから、この砂時計の砂が落ちきった瞬間を合図にする!」


「分かった。決闘はこれが初めてじゃないからな」


 どこからともなく訓練場の中央に巨大な砂時計が出現すると、砂が落ち始めた。


 これは投影魔法。

 どこかで砂時計を使っている誰かが、何もない空間に映し出しているんだ。


 俺はローブを(ひるがえ)して魔法を放ちやすい体勢を取る。


 そして、最後の砂が落ちた瞬間。ほぼ同時に魔法を放つ。


氷鎖穿孔(ヴリズン・チェイン)!」

火焔の渦(イグニス・ディーネー)!」


「あっ……。魔法の属性については聞いてなかったな」


 魔法を放ったあとに気付いた俺は、炎と相性がいいとは言えない氷属性。

 坊っちゃんのにやけ顔、観覧者の「あー!」という声も聞こえてくる。


 ただ、相性が最悪だろうと魔法の質が打ち消すこともあることを証明することになった。


 炎の渦を真っ二つに切り裂いた氷の鎖は一直線に坊っちゃんへ到達して防護魔法を打ち砕く。

 顔色が真っ青になる坊っちゃんの腹部を貫通してしまう前に、俺は指を鳴らして魔法を打ち消した。


 一瞬何が起きたのか当事者以外分からなかったことで、シーンと静まり返ったあと観覧者たちは大きな声で叫びだす。

 その場に座り込む坊っちゃんへ近づくと、泡を吹いて気絶していた。


「やりすぎたな……。相性も悪いから少しは威力が半減すると思ったんだが」


「仕方ありません! それだけ、(あるじ)の魔法は洗練されているんです」


 目立たない旅のはずが、新しい支部で早々に失態を犯すなんて考えもしないだろう……。

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