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第025話 殺輝石の伝承

 俺達は夜になってから村へたどり着いた。

 門番の村人へ森の石化について話をすると、驚いた様子で村長の家へ案内される。


 此処は森に近く、殺輝石(セッキセキ)について伝承(でんしょ)のある村だった。


 村長の家は村の一番奥。

 見た限り、ヴィオレットの村と大差はなさそうだ。

 町と違い、隣り合っていない平屋が十(けん)ぐらい建っている。


 中に入れてもらうと、白髪頭に丸眼鏡をかけた初老の男が会釈してきた。

 外から見ても分かるほど、他の家よりは当然大きい。中も三部屋くらいありそうだ。


「――如何(いか)にも殺輝石(セッキセキ)について話をし、協会の方にお願いしたのは(わし)です……」


 居間に案内された俺たちは村長の話を聞きながら、ある文献(ぶんけん)を見せられる。


 長テーブルに置かれた古紙(こし)の束。目を通すと、石化をさせるあやかしは昔からこの近くを縄張りにしていたと書かれている。

 この村はそのあやかしを殺輝石(セッキセキ)と呼び、数百年の間供物(くもつ)を捧げていたらしい。


殺輝石(セッキセキ)が代替わりしたのは知っていました……。噂で、最近は石化被害による死者がいないと」


「なるほど……。俺の知っている情報は協会と国だけで、国民に共有されていないはずだし」


「友好的なあやかし様で良かったです……供物は、何が良いでしょうか?」


 あやかしの食べ物は魔力だけだ。供物に意味はないが、これも一般人に伝えるのは良くないはず。

 魔導士以外で魔力を別な物に流す方法を知る者はいない。


(あるじ)ぃ……。魔力を流せない人間でも、素手で握った物とかでしたら多少は」


「なるほど……。えーっと、握り飯……とか。人の温もりが感じられる食べ物が良いかもしれない、ですね」


「おお! なるほど……。それでは今後そういたします」


 小声で助言をしてくれるルッカの案を採用して俺は営業スマイルで嘘を重ねる。

 

 あやかしの栄養が魔力だと分かったのも、数百年前からだ。

 人間の歴史としても浅い。


「賢い上位のあやかしは人間を殺さず、数を増やすことで魔力を得ていたのかもしれないな」


「なるほど! 協会の資料集にも書いてありました。あやかしは人間の僅かな魔力を捕食して生きているって」


「ただ、古紙(こし)にも書かれている前の殺輝石(セッキセキ)は、石化した人間を助ける真似はしてなかったってことか……」


 五十年前までの文献(ぶんけん)だと石化被害で死者は出ていたからな。

 本来のあやかしはきっとこれが正しい……。


 人間の姿へ擬態しているエリゴールは無表情のまま、ヴィオレットの視線にも口を閉ざしていた。


「この村では他にもさまざまな文献(ぶんけん)が残されています。蔵の方にありますので、明日(あす)村を発つ前に案内させましょう」


「有難うございます。今回の殺輝石(セッキセキ)に関しても興味深いと思っていましたので、是非」


「村にも泊めていただけるなんて、ありがとうございます!」


 夜遅い訪問だったことで、泊まると思われていた俺達は好意へ甘えることにする。

 旅人や協会の人間を泊める空き家があるらしく、案内された俺達は足を伸ばした。


 当然、木の板で出来た床に触れた俺は思わず呟いてしまう。


「……畳の方が、気持ちよかったな」


(あるじ)ぃ……。あやかしの術中にハマらないでください」


「畳ってなんですか?」


「えっと……。ヴィオレットも知っているだろうけど。あやかしの楽園にある……らしい。足を伸ばしたり、寛ぐには木の板よりも適している……とか」


 協会の人間として、あやかしの楽園に連れ去られたなんて言えない俺は苦しい誤魔化し方をした。

 根が素直なヴィオレットは疑うことなく目を輝かせている。


 少しだけ罪悪感で胸が痛い……。


 軽い仕切りもあったためヴィオレットと隔てるが、顔を覗かせる様子は不満げだった。


「わたし、雑魚寝とかしてきたので仕切りなんて不要です!」


「いや……俺も、一応男だし。ヴィオレットは女で……聖女様――」


「次……誰もいないところで聖女様って呼んだら、町で甘味(かんみ)を買ってもらいます!」


 頬を膨らませて抗議する姿で思わず笑いそうになるが、その目は真剣そのもので口を噤む。


「悪かった……。第三者がいないところでは言わない約束だったな。それじゃあ、次の町で甘味(かんみ)を買おう」


「えっ!? いいんですか? 楽しみです! それと……仕切りですけど。二人分にしては狭くないですか?」


 俺は自然にヴィオレットとの仕切りを半分に分けていた。

 ヴィオレットの視線は入口で佇んでいるエリゴールへ向けられる。


 村長達の前だったため襟巻きに扮していたルッカも床へ降りると、可愛らしい前足を器用に動かして説明し始めた。


「睡眠に関しては協会で教えていないんですか? 僕達あやかしは人間と違い眠らなくても生きられます。万能な存在なのです!」


「おーい……。その言い方だと、軽く人間を馬鹿にしてるぞ?」


「はっ! 申し訳ございません……(あるじ)ぃ……。(あるじ)は素晴らしい人間です!」


 慌てて駆け寄ってきたルッカに、口元を押さえて笑いながら反対の手で頭を撫でる。

 なぜか両手を合わせるヴィオレットは先ほど以上に輝くような瞳を一人と一匹に向けていた。


「素晴らしいです! 協会では聞いていませんでした。寝なくても活動出来るなんて……。食事は人間の魔力ですし、完璧ですね!」


「俺も最初は知らなかったしな……意図的に隠しているのか。あやかし専属なんてものまで作ったんだから知ってるはずだ」


「……(あるじ)ぃ。協会についてもお気をつけください。あやかしの王が亡くなった直後、カマカゼを倒し、幼体を保護。第七支部では群れを抑えるのに貢献した……。素晴らしい功績です」


「言葉にされると、色々と活発に動きすぎたな……。人間側でも、目立ちすぎる奴は消される(危険視される)って言葉もある」


 いままで派手な行動は協会に入る際の試験で満点以上を取って、特例として派閥に入らないことによる無所属を名乗っているだけ。

 二十歳から協会へ入って八年間。何も功績のなかった人間が、突然目立つのは良くない。


 不安げな表情で口を押さえるヴィオレットを見て俺は追加する。


 聖女様の護衛っていう重大任務が一番厄介だ……。


「まぁ、そういうわけでエリゴールは寝ずに番をしてくれるらしいから、早めに寝よう。ヴィオレットも、初めて別な能力(ちから)を使って疲れただろう」


「そう、ですね……。まだフワフワした感覚ですが! 殺輝石(セッキセキ)さんが、優しいあやかしさんで良かったです」


「ちなみに僕は、特殊なので。(あるじ)の隣で寝ています。と言っても、本当に寝ているわけではないですが」


 畳まれてある布団を敷き、エリゴールに見守られる中、俺達は眠りにつく。

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