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第024話 心優しい石化の少女

 石化の男性がいた場所まで戻る。周辺で他に石像は見当たらない。


 俺達は慎重に閉じた森の中を進む。

 次第に開けた道はなくなり獣道へ変わってくると、すぐ後ろにいたヴィオレットの悲鳴が聞こえてきて振り返った。


 下位のあやかしである蛇の尻尾を踏んでしまったのか、木の上へ放り投げられている。

 俺が魔法を放つ前に、すかさずエリゴールが双翼(そうよく)を羽ばたかせ受け止めていた。

 ただ、荷物のように抱えるのはやめてあげてほしい……。


 戻ってきたヴィオレットはエリゴールの肩に抱えられたまま半泣きで謝ってきた。


「ず、ずみません……! お世話をおかけします」

 

「いや、無事で良かった。エリゴールも有難う」

 

「――いえ。事前に察知出来ませんでしたので。申し訳ございません」


 俺としては被害が最小限で、守る相手が無事なら及第点だと思うけど……。

 ただ、あの持ち方については苦言した。


 俺が知る森とは違って爬虫類を模したあやかしが多く、気をつけているにも関わらず度々ヴィオレットが視界から消える。

 しかも、ミニスカートにピッタリした黒いパンツ姿のヴィオレットに対して、特に細長い蛇のあやかしが服の中へ侵入を試みようとしていた。


「ず、ずみまぜん……」

 

「大丈夫だ……ってか、大丈夫か? あの蛇共……変態だな」

 

(あるじ)ぃ……。爬虫類のあやかしたちは人間の体液からも魔力を摂取します……。変態という表現は、僕達には分かりません」


 あやかしとの違いに俺達は二人して目を丸くする。

 本能的に魔力を奪おうとしているだけだから、俺達人間が思う感情はないに等しいらしい。


 ただ、人型である上位のあやかしに当てはめられるかは――。


「俺の言う変態から、吸魔(キュウマ)はどう見えた?」

 

「変態です!」

 

「――同意致します」


 あいつは変態で合っているらしい。


 しばらく歩みを進めて次第にヴィオレットも慣れてきた様子で、回避出来るようになっていた。

 これもヴィオレットの成長になるかもしれない。


 再び開けた場所へたどり着いた俺達の目に複数の石化したあやかしの姿があった。

 しかも、少し先の方に見えた洞窟近くで石化した人間の姿も複数ある。


「つまり、この洞窟内にいるってことだな」

 

「ノワールさん! この人たち、協会の人かもしれません!!」

 

「えっ? ……本当だ。このローブは協会支給品。てことは、調査にきてやられたのか……でも、それなら報告が出ているはず」


 自分たちだけでどうにかしようとして返り討ちにあったのが妥当か。

 

 最初と同じく両手を握りしめ、聖女の力を使おうとするヴィオレットを止める。


「解決してからにしよう。騒がれても困るだろう? それに、まだ力を使いすぎるのも良くないしな」

 

「わ、分かりました! ですが、わたしたちも大丈夫でしょうか……。石化は状態異常の中では特殊で、解除は――」

 

「良く勉強しているな? でも、大丈夫だ。なんとなくだけど……。エリゴールは、どう思う?」


 背後にいるエリゴールへ振り返り、俺の思うことが正しいか判断を仰いだ。


「――ノワール様がお考えの通りでございます。石化は脅威ではありますが、大きな欠点がございます。"自分よりも強いあやかし(相手)には通用しません"」

 

「えっ!? そうなんですか!? というと、上位のあやかし……妖力の高さでしょうか?」

 

「つまり、此処にいるエリゴールには確実に効果がない」


 両手を握りしめてエリゴールを拝むヴィオレットにも清々しい無表情で呆気にとられる。

 まぁ、エリゴールを盾に俺も無効だろうということを隠させてもらった。


 多分、聖女であるヴィオレットも大丈夫なはず。


 ということで、本物の盾になってもらうためエリゴールを先頭に、後ろを俺が歩いた。

 洞窟の薄暗さは光魔法で明るくすると壁の至るところに蔓が伸びている。

 岩肌に触れてみると冷たくて少しだけ湿っていた。


 洞窟内は狭くもなく大人二人なら横に連れ立って歩ける。

 ただ、どこまで続いているかが分からない。


「やっぱり上位のあやかしが居るからか……静かだな」

 

(あるじ)ぃ……。ここにいるあやかしは、赤い月の影響を受けてると思います。妖力がだだ漏れです」

 

「そうみたいだな……俺でも感じてきた。体に針が刺さるような感覚だ」


 チクチクと雷の衝撃にも似ている感覚に、警戒しながら先へ進む。

 すると、明らかに広い場所へ出た。さっきまでは近かった天井すら遠くにある。


 しかも、足元を照らすだけの明かりだったことで暗いはずの場所は、一面星空のように輝いていた。


「……これは、文献(ぶんけん)に載ってた。星青石(せいせいせき)か」

 

「――すごい、キレイですね!」

 

「お二人共……石に見惚れていてはなりません! 首謀者です」


 石とバッサリ断ち切るルッカによって、視線を中心に向けた俺は縮こまっているあやかしに向き直る。

 白髪のように白く長い髪が地面に広がっているあやかしは、こちらに気が付いていないのか下を向いて頭を抱えていた。


 白髪というには透き通った艶のある髪で、目を凝らすと少女のような見た目をしている。

 

 だが、こちらに視線を向けた瞬間。

 奇声をあげ、見えない何かが飛んでくる。


 前方にいるエリゴールが双翼(そうよく)を広げ、俺達の盾になった。


「エリゴール……まさか、いまのが?」

 

「――はい。石化の能力です。ノワール様は無論、その人間も問題はないでしょうが……人体に影響があると良くありません故」

 

「やっぱり、状態異常は目に見えないんですね……。わたしには、透明な(まく)のようものが見えたんですけど……」


 精霊眼の凄さに全員がヴィオレットへ視線を注ぐ。

 凄すぎて笑いそうになるのを口を押さえて堪えた。


 石化しない俺達に気が付いた白髪(はくはつ)の少女が立ち上がると、小さい体に不釣り合いなほど伸びた髪がゆらゆらと空中へ浮かび上がる。

 よく見ると無数の白蛇だった。


 こちらへ向けられる赤い瞳はイブリースのように輝きを放っている。

 それは無数の白蛇が持つ黄色い瞳も同じだった。


(あるじ)ぃ……。やはり、影響を受けています。それに、あのあやかしは殺輝石(セッキセキ)です」

 

「やっぱり上位のあやかしか……。それにしても、石の名前みたいな個体名だな」

 

「ノワール様、補足させて頂きます。宝石のように輝く目で、あらゆるものを石化させ命を奪うことから、その名がつけられました」


 補足してくれるエリゴールも綺麗な目をしているが、上位のあやかしは見た目も華やかな奴が多いかもしれない。

 美男美女というやつだ。


 人の言葉を忘れたように発狂する様子が痛々しい……。

 混乱しているのなら解放してやるのが、俺の旅にとっても重要な気がする。


 動く気はないのか、再び奇声をあげる殺輝石(セッキセキ)によって壁が破損した。


「やっぱり、イブリースと同じことを試すのが手っ取り早そうだ。エリゴール頼む」

 

「――仰せのままに」

 

(あるじ)ぃ! 僕にも何か指示をください」

 

「ルッカは、エリゴールの代わりにヴィオレットを護ってくれ」


 嬉しそうに返事をするルッカは可愛い。

 俺は殺輝石(セッキセキ)の攻撃をすべてエリゴールに任せて魔力を放出する。


 上位のあやかしだけあって、攻撃が来ることを察知したのか、距離があるにも関わらず一斉に白蛇が向かってきた。

 エリゴールは、すべての白蛇を双翼(そうよく)と素手で掴む。


「――水刃の揺籃(アクア・ヴィーゲ)!」


 壁の水分まで集まるように俺の頭上へ水の塊が舞い上がり、鋭い刃のように殺輝石(セッキセキ)へ向かっていった。

 

 殺輝石(セッキセキ)は避けられないと判断した様子で小さな体を縮め直撃すると、そのまま包み込まれ揺り籠のように左右に激しく揺れる。


 すぐに無数の泡が溢れて苦しそうに藻掻(もが)殺輝石(セッキセキ)の瞳が黄色へ戻ったのを確認した俺は指を鳴らした。


 地面へ飛び散る水流の中で苦しそうに咳をする殺輝石(セッキセキ)へ駆け寄ろうと一歩踏み出しかけるヴィオレットを止める。


「まだだ……。見た目が可愛らしい少女に見えても、何があるか分からないのがあやかしだ」

 

「で、でも……! ノワールさん、やりすぎです!」

 

「うっ……それは、少しだけ……」


 イブリースのときもそうだけど、手加減は難しい。

 少しして落ち着いたのか顔を上げる見た目が美少女にしか見えない殺輝石(セッキセキ)は口を開く。


「……あっ――ごめんなさい……」

 

「ようやく話せたな。もう、大丈夫か? それから、俺達人間に対して敵意はあるか」

 

「……大丈夫、だと思います。それから、人間への敵意はありません……。森の奥で、ひっそりと、暮らしていた……あやかし、です……」

 

「まぁ、そうだろうな。石化の事件が起きても、数日したら解けていたと聞く……。密かに治しにきていたか」


 殺輝石(セッキセキ)は瞳を見ただけで石化させてしまうあやかしだ。

 森で偶然出会った人間を石化させてしまい、討伐を恐れ一度逃げて戻ってくると町へ運ばれてしまうことが度々あり、寝静まった夜に人里へ足を運んで治していたらしい。


 目を合わせないよう下を向いたまま話す殺輝石(セッキセキ)の手は微かに震えている。

 ローブから俺達が討伐しに来た協会の人間だと思っているらしい。


「……お前が生まれたのは何年前だ」


「――約、三十年前……です……」

 

「それなら、討伐対象じゃあない。俺はまだ生まれていないが、五十年は石化で死人の被害はないからな。だから、そう怖がらなくていい……」


 ヴィオレットと共に手を差し出すと、下を向いたまま俺達の手を握る殺輝石(セッキセキ)から、ポタポタと雫が落ちる。


 最初のうちは力の暴走に抗っていたらしい。次第に意識が遠のく感覚と、いつの間にか石化しているあやかしと人間が増え、恐怖に支配されてしまった。

 自分が自分でなくなる感覚は計り知れない……。


 おとなしくも上位のあやかしまで狂わせる、あやかしの王の妖力と赤い月は脅威だ。


 落ち着きを取り戻した殺輝石(セッキセキ)に、俺達なら顔を上げても大丈夫だと説明する。

 恐る恐る顔を上げる殺輝石(セッキセキ)は涙目ながら笑顔だった。


 ただ、俺はヴィオレットに怪しまれるためエリゴールを間に挟んでいる。


 殺輝石(セッキセキ)によってすべての石化を解いてもらうと、協会の人間へ説明を済ませた。

 命を奪われなかったことと、原因が赤い月であり、友好的なあやかしと認められた殺輝石(セッキセキ)の森には立て札が張り替えられる。


『この森、殺輝石(セッキセキ)というあやかしの棲家。一時的な石化の被害に御注意ください』






 ◇◆---------------------------◆◇


 <<あやかし紹介>>


 ー No.Ⅺ Name.殺輝石(セッキセキ)

 第七協会支部近辺の森でひっそりと暮らすおとなしい上位のあやかし。

 宝石のように輝く瞳で、あらゆるものを石化させ命を奪うことからその名がつけられた。

 能力は、自分より弱い者を石化させられること。ただ、動物全般とあやかしのみ。白蛇には石化効果はない代わりに毒があり、麻痺させることが出来る。


 追記……

 <ノワール情報>

 個体名に恥じないくらい宝石のように透き通った琥珀色の瞳に、白髪(はくはつ)。無数の白蛇を飼っている。自分の目で見える範囲まで自在に髪を伸ばすことが可能で、白蛇もその分体を伸ばせる特徴がある。

 見た目は十代前半の美少女で、(よわい)三十年らしく、あやかしでも子供の部類。

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