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第023話 聖女の力と石像の脅威

 次の日。朝食を済ませた俺達はすぐに町を発つことにした。

 第七支部協会と近いこともあるが、また何か起こるかもしれない。


 町の出入口で昔から使っている地図を最新版へ差し替え、次の村までおおよその距離を確認する。

 事前に準備を済ませていたことで、村へ着くまでの食料などを確保して人知れず出発した。


「次の村まで俺達の足なら夜には着くだろう。森の中はあやかしも多いから、回り道ではあるけど……このまま整地された道を歩いて向かう」

 

「了解しましたー! わたしも、森には怖いあやかしが居るから入るなって言われましたねぇ……。あっ! お二人は全然怖くありませんから!」

 

「僕たちのことは気にしないでください。(あるじ)の飾りとでも思って頂いて構いません」


 いや……可愛いルッカを飾りだなんて、一度も思ったことがないぞ。

 エリゴールも、まだ関係は薄いけど……既に心を許している自分がいる。

 また、イブリースにどやされるかもしれないけど……。


「イブリース達のことをすっかり忘れてたな……」


(あるじ)ぃ……。良鬼(リョウキ)たちなら、きっと大丈夫です」

 

「ああ……そうだな。一度、自我を忘れたんだ。もう二度目は本人が許さないだろう」

 

「どうかしましたか? ハッ! もしかして、置いてきた彼女さんとか……」


 小声で話をしていると、隣りにいたヴィオレットが気になって顔を覗き込んでくる。

 大げさな態度で口に手を当てるヴィオレットから、合っているようで合っていない答えに思わず笑った。


「残念ながら、彼女ではないなー。ただ、世話焼き……母親みたいな? いや、母親は分からないんだけどさ」

 

「えっ……? ノワールさん……いえ、なんでもないです! そっかー、母親みたいな女性。いいですね!」

 

「まぁ、本人に言ったら激怒して蹴られるけど……。怪力のあやかしなんだけどさ」


 母親はおろか、父親も分からないのが正解だけど。


 察して言葉を飲み込むヴィオレットに話を合わせて歩みを進める。

 すると、道すがらにある森の入り口が見えてきた。


 間違って入りこまないよう入り口前には木の立て札がある。


「……この先、森の入り口。魔導士以外、立ち入り禁止か……」

 

「なるほどー。わたしなら、絶対に近寄りませんね! でも、あそこに何か……」

 

「えっ……? 本当だ。なんか、白い……いや、石? 石像か?」


 森の入り口だけは穴が空いたように開けていて、少しだけ奥の様子が見えた。

 明らかに不釣り合いな、何かの石像がみえる。


 目を凝らす俺達に、首と背後から待ったがかかった。


(あるじ)ぃ……嫌なあやかしの気配がします」

 

「ノワール様……僭越(せんえつ)ながら、私も調べる行為はお勧め致しません」

 

「二人がそういうってことは……相当な厄介案件か」


 上位のあやかし二人が止める事態って、相当厄介だろう。

 これは確実に協会案件だ。


 俺は横にいるヴィオレットへ視線を向ける。

 聖女であるヴィオレットもいる中、厄介事に首を突っ込むのはやめたほうがいい。

 

 俺は見なかったことにして、再び歩きだそうと一歩踏み出したとき横から腕を掴まれる。


 横を向くと案の定ヴィオレットだった。


「ノワールさん……。わたしも、ノワールさんのような力が無いことは分かっているんです……。でも、あれは――人間です……!」

 

「えっ……? 嘘だろッ……二人共――」

 

「……(あるじ)ぃ……申し訳ございません。ヴィオレットさんの仰る通り……あれは、"石化した人間"です」


 二人は事実を知った上で俺に隠したらしい。

 エリゴールは分かる。こいつは俺以外どうでもいいと思っているのが分かったから。

 ただ、ルッカまで……。


 俺はあやかしとの価値観の違いを目の当たりにして口を押さえる。


「……お前たちの気持ちは分かった。だけど、俺は無所属だろうが、協会の人間に変わりない。石化した人間がいるのに、先へは進めない」

 

「――ノワール様。申し訳ございませんでした」


「ノワールさん! 聖女の力は、浄化もって言ってましたよね? わたしの力で石化も治せないでしょうか……」


 あやかしによる石化の事例は少なからずあった。

 確か、方法はあやかしの討伐だけ……。


 真剣な眼差しを向けるヴィオレットの手を握る。

 目に見えるところで石化されているんだ。どこから何が出てくるか分からない。


 開けた森の入り口は(ツタ)のような植物で(おお)われている。

 石像がいる場所までなら横からあやかしが出てくることはないだろうが……。


「……ルッカは前方にあやかしがいないか確認してくれ。エリゴールは後方を頼む。ヴィオレットは、俺から離れるな」

 

(あるじ)、了解です!」

 

「――ノワール様の、仰せのままに」

 

「ひゃ、ひゃい! あー!」


 緊張して舌を噛むヴィオレットに思わず笑ってしまいそうになるのを堪える。


 石像のところまで何もなくたどり着いてすぐ、ヴィオレットは祈るように両手を合わせた。

 本当に人間と見間違えるような姿に唖然(あぜん)とする。


 少し触れてみると、当然石のように冷たい。

 あのときと同じように光りだしたヴィオレットから、微かに石像へ流れ発光する。


 すると、指先から溶けるように人間の肌が見えてきて目を疑った。

 聖女の力があやかしの脅威になるのが分かる。


「はぁ、はぁ……どうでしょうか」

 

「ヴィオレット、大丈夫か? あやかしの能力に対抗してだからか……」

 

「うっ……あっ……私、は……?」


 冷たかった肌には温もりが戻り、少しだけ青ざめた表情をした男性が口を開いた。

 ただ、おぼつかない足で倒れかけるのを受け止めて、森の外へ連れ出す。


 被害者の男性が落ち着いてから話を聞くと、石化したのは今日の朝だった。

 森の入り口前を歩いていたら、急に声が聞こえてきて誘われるよう中へ入ってしまったらしい。


 そして、気が付いたらあの状態だったと。

 石化していた間の記憶はなかった。


 一人で歩いて帰れるとのことで、町に伝言を頼む。


「あの男性だけじゃないだろうな……。さて、どうするか」

 

「わたしは、足手まといになるかもしれません……。ですが、一緒に連れて行ってください!」

 

「もしかしたら、暴走が影響したあやかしかもしれないしな……。ヴィオレットの力は必要だ。エリゴール……お前にヴィオレットを任せたい」


 エリゴールは俺のことしか気にかけていないのを分かった上で命令した。

 微動だにしないエリゴールは軽く頭を下げる。


「――ノワール様の仰せのままに。貴方様の"障害"とならぬよう、御守り致します」

 

「うひゃぁ!? す、すすみせん!! 足手まといのお世話をさせてしまって……」

 

「エリゴールは(あるじ)に忠実ですからね。(あるじ)は僕が守りますので、ご安心を」


 俺は守られるタイプじゃないし、守るのは苦手だからな。

 その点、あやかしの王の右腕だったエリゴールなら大抵のことならなんでも出来そうな気がする。


 俺達は再び森の中へ足を踏み入れた。

土日祝での投稿時間の変更をお伝えさせて頂きます。

平日と同じ(7時~)時間にすることにしました。

加えて、4月からの投稿体制にあたり、他の時間帯を少し見たいため

24日(月)~30日(日)まで20時~投稿にさせて頂きます!

31日(月)~は二つを見比べて、多そうな時間帯を採用したいと思うので、引き続き楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。

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