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第000話 赤髪の問題児

 生い茂る木によって視界が悪い森の中、鮮やかな赤い髪が風で舞い上がった。

 木の上から俺を見下ろす赤く鋭い視線に眉を寄せる。


「アァァァ!! 本当に、ムシャクシャする!! "人間のくせに"、説教しないで!」

 

 下にいる俺へ向かって発狂する声の主は、この森を縄張りにする"問題児"。


(あるじ)ぃ……。これで三度目です。そろそろ痛い目を見せて、どちらが上かハッキリさせましょう!」


「そうだなぁ……。そろそろ、こっちの方が面倒になってきたし」


 俺を"(あるじ)"と慕ってくれるのは銀狐の子供にしか見えない相棒のルッカだ。

 

 髪を乱して木の上から勢い良く蹴りを振り下ろしてくる問題児を、俺は軽く横へ(かわ)す。

 勢い余って地面をえぐる問題児は、悔しそうに地団駄を踏んでいた。


「ここはアタシの森よ! 何をしたって許される! それなのに、"協会の人間"なんかが出張ってこないで!」


 俺を見る目が尋常じゃない赤髪の問題児は、肩まで切り揃えられた髪の頭部に薄紅色をした立派な二本の角を持っている。


 人間と似て非なる存在。


 ――"あやかし"だ。


「お前達は何年生きてるんだよ……。"あやかし専門協会"は、人間に迷惑をかけるあやかしを対処するためにある機関だぞ」


「ぐっ……。迷惑かけてないし!!」


「"良鬼(リョウキ)"によって損害を被ったと名乗り出る被害者、約五名。森の近くを歩いていたら突風で怪我をした。木の下敷きになりかけた。道がなくなった……相当な被害を出してますよ?」


 真面目で頼りになる相棒は、問題児である良鬼(リョウキ)の被害を正確に答える。

 ぐうの音も出なくなる良鬼(リョウキ)は、近くにあった大木を根っこから持ち上げた。


「アタシは、誰もが恐れる上位のあやかしなの! アンタが来た二年前から大きく変わった!」


「また、被害が増えたぞ?」


 俺に向かって思い切り大木をぶん回す怪力も、良鬼(リョウキ)の武器……。

 間合いを確認して軽く(かわ)していくと、良鬼(リョウキ)の顔が炎のように赤くなり、投げ飛ばされる大木を横へステップを踏むように避ける。


 大きな音を立てて地面に転がった大木へ眉を寄せる俺に対して、良鬼(リョウキ)は両手を握りしめて叫んだ。


「その余裕そうに()かした顔が余計に腹立つ!!」


 直後に大きく口を開いた良鬼(リョウキ)は赤い炎を前方へ吹き出す。


 俺が魔法を唱える前に、相棒のルッカも同じく口から火を吹いて、空中で二つが溶けあうようにして爆発する。

 発せられる煙へ紛れるようにして飛び出してきた良鬼(リョウキ)の頭部を、待ち構えていた俺は手刀で叩いた。


「いったぁぁあい!! 人間のくせにぃぃい!」


 文字通り、硬化魔法で強化した手刀はあやかしの良鬼(リョウキ)にも効果抜群だったらしい。

 頭部を押さえる良鬼(リョウキ)は涙目になっている。


 暴力的で俺が問題児と呼ぶこいつは、頭の角がなかったら人間と見分けがつかない。


 人間の中には耳の形が違ったり、尻尾など特徴がある奴もいる。

 ただ、人間とあやかしの大きな違いは妖気だ。


 いまも、この森には良鬼(リョウキ)の妖気で溢れかえっている。

 ただ、俺のような魔導士(にんげん)にしか分からない。


 生まれたときから魔力を宿した人間の中で、一部の魔法に長けた者が集う。

 あやかしに特化した専門協会の"魔導士"と呼ばれる存在だけ――。


 その中でも俺は特別な部類ではあるけど。


良鬼(リョウキ)、被害は目に見えてる。さすがの俺も、四度目はないぞ? この意味、人間と同じ言葉を交わせるお前なら分かるよな?」


「ぐぅぅう! 分かったわよ! 憂さ晴らしは、別なことを考えれば良いんでしょ!!」


(あるじ)良鬼(リョウキ)も漸く負けを認めました。あやかしに弱肉強食より強い縛りはありません。これで平穏が訪れますね」


 得意げなルッカの言葉に再び地団駄を踏む良鬼(リョウキ)は何も言えず、地面に座り込んだ。


 良鬼(リョウキ)によって下から風圧が生じると、俺の着ている象牙色をしたローブが空中へ舞い上がる。

 俺は中に着ている衣服(ふく)についた埃を払った。


「小娘のせいで、(あるじ)の衣服が汚れたらどうしてくれるんですか? 貴族御用達なんですよ」


「知らないわよ! そんな高級品なんて着てるのが悪いんでしょ」


「まぁ……。この支給品のローブに合わせた服だからな。一応、俺にも世間体があるから仕方ない」

 

 他愛ない話をしていると、爆発の影響で落ちてきた木の葉が俺の白金(プラチナ)色をしたくせっ毛に乗る。

 黄昏(たそがれ)色の眼鏡で頭上へ視線を投げると、ヒラヒラと横へ舞い落ちた。


「その色眼鏡も、なんか腹立つのよね……。視界を遮ってるはずなのに、アタシの動きを完璧に(かわ)してくれて」


「それは、(あるじ)が小娘より強いだけです。今更、何を言っているんですか?」


「ムカつくー!! 子狐のくせに! アンタの方が生意気なんだけど!!」


 こうして戦いが終わると、決まっていつものやり取りが始まる。


 平和が一番だ。


 最近、風が吹くのは季節の変わり目だからなのかは分からない。

 そろそろ鮮やかな色合いの花が芽吹く頃だろう。


「それじゃあ、帰ろうか。ルッカ」


「はい! (あるじ)ぃ」


 地面を蹴って肩へ跳び乗るルッカはいつもの定位置である首に巻き付き、襟巻きのように同化した。


 この世界では人間と一括で呼ばれる種族に、二割のあやかしが存在する。

 この(とき)までは、まだ平和と呼べていた――。






 ◇◆---------------------------◆◇


 <<あやかし紹介>>


 ー No.空白 Named.???(ルッカ) ー

 白銀色をした子狐にしか見えないあやかし。

 見た目以外の情報は少なく正体不明。

 ほとんど人間に姿を見せないため、存在も一部しか知られていない。

 能力は口から火を吹くこと。

 (あやかし協会では随時(ずいじ)、情報を求めている――)


 追記……

 <ノワール情報>

 モフモフボディで(あるじ)と慕い自分を癒してくれる献身的な性格で、基本的に敬語。

 一部のあやかしに対してはぞんざいになる。

第000話をお読みくださり有難うございました。

今回のあやかしは異世界ファンタジーです!これから多くのあやかしが登場します。

是非お楽しみください!


本日は残り第003話までを、11:02、12:02、18:02に投稿していきます。

どうぞよろしくお願いします。

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