『近所に引っ越してきた櫻子はツンデレだけど嫌いじゃない!件』 その7話 過去への序章
家のお父さん何者なの?
そしてその騒ぎが落ち着いた頃、ツナギを着た一人のかっこいいイケメンおじさんが綺麗なおネェさん達を数人引き連れて訪ねてきた。
(後で聞いた話だけど、この人はゲストで来ていたプロのライダーだったらしい)
そのイケおじは、社長さんとお父さん二人とがっちり握手を交わし、懐かしそうに背中を叩き合って笑い合っていた。そしてイケおじが燥ぐ様な大きな声で叫んだ。
「松金来ているって皆が騒いでいたからさぁ! 見に来たんだよ! そしたらここに居たよ! 本当にぃ!」
と大爆笑! そのイケおじがお父さんのバイクを見て更に大燥ぎ!
「すっげぇ! RZVですか! これ絶対反則ですよ! 反則! でもなんでぇ⁉ 松金さんがなんでヤマハなのよ! 松金はホンダでしょ!」
とまたまた大爆笑していた。その問いにお父さんが
「いやぁヤマハもいいよぉ! 乗りやすくて! 昔は大人の事情で乗れなかったんだけどね! でもやっぱり今のバイクには敵わんよ、しかしぃ相変わらず君の周りは女の子だらけだね! 羨ましいハハッ! 」
としばらく三人で談笑しているとイケおじが『時間だから行きますね』と言って立ち上った後、
「最後の模擬レース、勿論やってくれますよねぇぇ松金さん? 楽しみにしてますよ! ハハハハッ!」
と何かを期待しているような台詞を言い残して帰っていった。
そして走行会が始まった。台数が多いので十台ずつで班を作り二十分走って次の班に交代するという事でお父さんはB班になった。一周八キロ程のコースを凄い音とスピードで駆け抜けていく。目の前を通るときは耳を塞ぎたくなるぐらい五月蠅い、ちょっと怖いくらいだ。
先頭を走って皆を先導するのは、さっきのイケおじライダーだった。さすがプロのライダーは走っている姿もかっこいいしバイクの事が分からない私が見ても走りに余裕があって上手だ。
コース脇には大きな傘をさし、とても大胆な水着を着た綺麗なおネェさん達。よく見るとさっきイケおじが引き連れてきたおネェさん達もいた。レースクィーンという方達らしい。綺麗な人達だなぁ。
(でも櫻子母の方が断然美人でスタイルいい)
「パァァァァァァァァァァァン! パァァァァァァァァァァァァン! パァァァァァァン!」
甲高い音を響かせながらお父さんが目の前を通過する。気のせいか他のバイクよりスピードが遅く感じる。お母さんに聞くと
「そう? 張り切り過ぎなきゃいいけどねぇ」
と笑っていた(なに、お母さんのこの余裕は?)
一回目の走行を終え、お父さんがピットへ帰ってきた。社長がバイクの調子を聞いている二つ目のコーナーでどうとか直線でどうとか身振り手振りで伝えている。それを聞いて社長がバイクをセッティングするという事を繰り返していた。真剣な顔のお父さん、ちょっとかっこいいかも。そして午前中の走行が終わった。
午後は、今日のメインイベント、全車両が参加しての模擬レースがある。模擬レースとは、決まった周回数を一番早く走った人が勝ちという、学校のマラソン大会と同じルールと言えばわかりやすいかな。
予選タイムが速い順にA、B、C組に十五台ずつに分かれてレースを行う。そして昼食のお弁当を食べてから予選走行会が始まった。お父さんはB班で三番目、全体で七番目に速かったから模擬レースのA組でのレースになる。ちなみに一番速かったのは、櫻子父で同じA組で走る。
模擬レースのスタートまでちょっと時間があった。何をするわけでもなくぼーっと座っているとお母さんから飲み物を買ってきてと頼まれた。
「さや、ちょっと喉乾いたから飲み物買ってきてくれない?」
「えっ? ジュースならまだクーラーボックスに入ってるよ!」
「お母さん、温かいコーヒーが飲みたいの! お願い、ちょっと買ってきてよ。あそこのタワー横の建物が売店になっててそこに自販機のコーナーがあるから」
『喉乾いてるのにコーヒーかよ』と思いつつ仕方なく売店のある建物に向かった。大きなタワーの横にレストランと売店がある建物があった。自動ドアから入って奥の方に自販機がたくさん並んでいるところがあった。頼まれた温かいコーヒーを買って、何気に後ろを見ると入ってきた時には気付かなかったけど壁一面にサーキットを走っているライダーの写真パネルが沢山飾ってあった。飾ってある写真は、過去に行われたレースの写真だった。その中の大きな写真、なんか見覚えがあるヘルメットとツナギ……
「このヘルメットとツナギ……お父さんだ……。背中に『松金』と書いてある。今日着ているのと同じだ」
そして飾ってある写真をよく見ていくと、お父さんを写している写真が沢山あった。その中でも一際大きなパネル写真があった。その写真は、バイクの前のタイヤが地面から浮き上がり、そのバイクからお父さんがシートから立ち上がり『1番』を表現しているのか、人差し指で1と示した左手を高々と挙げている写真だった。『多くの記録と記憶を残したライダー 松金』とパネル下のプレートに書いてあった。
その横の写真……表彰式の場面かな。赤ん坊を抱いて表彰台の『1』と書いてある所に立っている写真だった。
(この赤ちゃん、ひょっとして私?)
「かっこいいだろ! たかし……君のお父さんは!」
その声に振り向くと社長さんが私の斜め後ろに立っていて懐かしそうに写真を眺めていた。
それから社長さんは、お父さんの若い頃の話をしてくれた。
お父さんの過去?……ドキドキと感じつつ続く……。