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『近所に引っ越してきた櫻子はツンデレだけど嫌いじゃない!件』 その6話 お父さんは何者?

相変わらず美沙とは気まずいまま一週間が始まった。


そんな私に、櫻子が珍しくなにか話しかけてきたけど声が小さくて何を言ったのか全然聞こえなかった。


美沙……何かきっかけがあれば話しかけられるのに。悪いのは私だから自分からごめんなさいって言えばいいのに……なのに言えない。


そして部活も休んだまま週末になろうとしていた。学校が終わり下校すると櫻子の家の前でお母さんと櫻子母が話をしていた。


「こんにちは」


挨拶をする私。


「あらぁ、さやちゃん、こんにちはぁ おかえりなさぁい」(スッピンでも美人だなぁ)


私が帰ってきたと同時に、丁度話が終わったタイミングだったらしくお母さんが、


「それじゃぁ主人に聞いてみますね」


そう言って櫻子母に軽く会釈をして別れた(主人に聞く? なんの事だろ)




◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  




【松金、岸野一家 サーキットへ行く】



「急な話なんだけど今週の日曜日、みんなで出かけるから!」


お父さんが興奮した様子で話が始まった。どうやら昨日の話は、この事に繋がるらしい。


と言うのは、櫻子父が普段お世話になっているバイク店が主催する走行会というものに参加するという話である。走行会とは、サーキット(とはどんな所か先ほど説明済み)でスピードをたくさん出して走り回る事だって。よく分からないけど、どうせ剣道も休んでいるし断る理由がない。気が向かないけど行く事にした。それと、どうやら櫻子も行くらしい。


そして走行会当日の日曜日の朝。岸野一家はバイク店が用意した貸し切りバスでサーキットに向かう。櫻子父のバイクは、大きなトラックに積んでサーキットまで持っていくらしい。私達家族はお母さんが運転する車でいく事になった。


櫻子母から私達も貸し切りバスに乗っていかないかと誘われたが、お母さんに私がバスに酔ってしまうからと断ってもらった。バスで行ってもよかったけど櫻子と同じ席になったらね……。あっ勘違いしないでほしい。櫻子の事は嫌いじゃない……むしろ気が合う、そんな気がしている。ただ私と同じで感情の出し方が不器用なだけ。だけど今の私にあの調子でグイグイこられても多分……上手く笑ってあげられないし……うまく話せないと思う。櫻子に余計な気を使わせてしまって悪いから……。


だからお父さんも本当はバイクをお店のトラックに積んでバスで行くはずだったけど私達の車の前を自分でバイクを運転してサーキットに向かっている。こんなに遠いのにきついだろうな。


でも前を走るお父さんの後ろ姿、ちょっとかっこいい。そして仮面ライダーみたいな服着ている(皮ツナギと言うらしい)昔、レースをしている時に着ていたのをおじいちゃんの家に大事に取ってあったらしい(本当にサーキットを走ってたんだ)背中に漢字でなんか書いてある。


[松金まつがね]だって、自分の名前を周りに宣伝している。


山を上って下って、山の上の道を走り、また上ってまた下って、結構山の奥まで来た。こんなところにサーキットがあるのかなと思っていたら急に眼の前が広く開けてサーキット場が現れた。ここまで途中休憩を入れて三時間とちょっと、結構遠かった。


初めてくるサーキット。思っていた所とずいぶん違ってすごく広くて綺麗な所だった。施設は充実していてレストランや売店があり近くには宿泊施設もある。高い場所にある観客席はテレビでよく見る野球場のスタンド席みたいで、そこからは広いサーキットコースがほとんど見渡せる。そしてその後方には遠くの高い山々が並んでいるのが見えて、とても眺めがいい。


お父さんは、走行前のミーティングに参加するという事で着いて早々、私達と別行動になった。お母さんとはこの間の事以来なんか気まずい。いつもと同じように話しかけてくれるお母さん、だけど私の方が何か余所余所しくなってしまう。この雰囲気に耐えられなくなった私は、


「ちょっと散歩に行ってくる」


と言ってその場を離れた。


バイクがいっぱい止まっている所を散歩していると、キョロキョロしながら誰かを探している様子の櫻子が前から歩いてくる。私は思わず柱の後ろに隠れてしまった。

(私を探してるのかな……ごめん櫻子)


櫻子が何処かに行ったのを柱の影から見ていると


「さやちゃん?」


と後ろから名前を呼ばれた。『誰?』と思いながら振り向くと、お父さんがお世話になっているバイク屋の社長だった。


「やっぱり! さやちゃんだった!」


ちょっとびっくりしたけどすぐに


「こんにちは」


と挨拶をした。


「いやぁーたかし……お父さんがサーキットを走ると聞いてね、居ても立っても居られずきちゃったよ!」


と屈託のない笑顔で言った。


社長にバイクを停めている所を聞かれたので案内がてら一緒に帰ることした。バイクが置いてあるピットに帰り着くとお母さんと挨拶を交わす社長と軽く会釈をするお母さん。この間、お父さんとの会話を聞いているからここにいるとなんか気まずいな、と思っていたらお母さんが社長に声を掛けた。


「社長、ちょっといいですか……」


そう言って社長を呼んでお母さんと二人で車の方へ行き、なにやら話し始めた(何話してるのかな)


暫くして……


「…………じゃあよろしくお願いします」


お母さんの声が聞こえたと同時に、お父さんがミーティングから帰って来た。


「社長! 来てくれたんですか!」


お父さん凄く嬉しそう。それからすぐ社長が、


「じゃぁちょっと見て見ようか!」


そう言いながら社長の車から大きな赤い工具箱を下ろし、何故か分らないけどお父さんのバイクをバラバラに壊し始めた。


「どうして壊しているの?」


そう社長に聞くと


「ハハッ! 壊してるんじゃないよ。セッティングと言って、ここのサーキットで一番走りやすい様に調整しているんだよ、さやちゃん」


(セッティングって何?)


社長がお父さんのバイクをセッティングしている傍らに社長が乗ってきた大きな四角い車が止まっていた。その車の横全体に大きく『REV Racing  Team』と書いてある。


「社長さん、これなんて読むんですか?」


社長に読み方を聞いたら


「レブ レーシング チームと読むんだよ」


と教えてくれた。この車、バイクを乗せてきたトラックとは違う四角い車だった。そういえばお父さんの皮ツナギ背中や腕や足のあたりにも『REV Racing』って書いてあった。


その後、バイクのセッティングが終り社長とお父さんがコース図を見ながら話をしていると四、五人の知らないおじさん達が愛想よく話しかけながらピットに入ってきた。


「あのぉ、すみません、ちょっとお尋ねしますが……」


「レブレーシングって書いてありますが……ひょっとして、あのレブレーシングですか?」


社長が照れ笑いしながら


「多分そうですね、ハハッ」


と答える。


「じゃあ……そちらの方はぁ……もしかして松金さん……ですよね?」


お父さんが笑って


「多分違います……」


そう言いながら恥ずかしいのか後ろを向きながら答えるお父さん。するとおじさん達が車の後ろに吊るしてあった皮ツナギを一斉に見上げ背中に書いてある名前を確認する。


「ああぁぁぁ! やっぱり松金選手だ! すっげぇ! すっげぇ! 本物だ!」


と皆でお父さんを囲んで大歓声。その後、知らないおじさん達がピットにヘルメットやツナギを持って次々に訪れてきて、ヘルメットに『サインしてください!』とかツナギに『サインください!』とか『一緒に写真いいですか?』とか入れ替わり立ち替わり何人も訪れて来た。周りの若い人達は『なにがあっているの?』みたいな感じだったけど……おじさん達に人気があるうちのお父さんっていったい何者なの?



怪しい……実に怪しい……と思いつつ続く……。

 



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