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『近所に引っ越してきた櫻子はツンデレだけど嫌いじゃない!件』 その5話 意地っ張りな……私

週末の午後、美沙から電話がありお母さんから呼ばれる


「さやぁ美沙ちゃんから電話よぉ!」


「出たくない! いないって言って!」


私は、親友に居留守を使った。お母さんが美沙と電話で話す声がかすかに聞こえてくる。(美沙、お母さんに色々言ったんだろうなぁ……)とその時は、思っていた。


そして夕食の時、お父さんから剣道の稽古をずっと休んでいる事について話しがあった。何か言いにくそうに話し始めたお父さん。優しい性格なのか元々こういう事を話すのが苦手だった。


「彩夏……なんで稽古休んでいるのかな? 何かあったのか?」


私は(知ってるくせに!)とちょっとムカついたけどその理由を言葉を選びながら話した。


「私、新人戦の選抜に選ばれなかった……」


「それだけ?」


とのお父さんの問いかけに、


「代わりに……美沙が選ばれた……」


新人戦の選抜に選ばれなかったこと、そして私は選ばれず美沙が選ばれたことを話した。お父さんは私が美沙に冷たい態度をとって剣道も休んでいることについて怒りもせず優しく諭してくれた。


「さや……自分が選ばれず美彩ちゃんが選ばれた、だから美沙ちゃんに怒っているの? だから稽古にもいかなくなったの?」


その言葉に私は次第にイライラし始め、


「私は……私は! 美沙より長く剣道を続けてるんだよ! いつも、いつも選ばれていたのに選ばれなかったんだよっ! 悔しいに決まってるじゃない!」


興奮しそう言った私にお父さんは、


「美沙ちゃんはさやに憧れて剣道を始めて、少しでもさやに追いつきたくて、一緒に試合に出たくって頑張ったんだよ。そこで美沙ちゃんに怒るのはおかしいんじゃないかな……」


(お父さんは正しい……)さらに続けて


「さやが選ばれなかったのは美沙ちゃんに負けたから?」


(多分違う、いや絶対違う……)私は俯いて何も言えなかった。


「人と同じ稽古をしても上手くはならない。多分美沙ちゃんは、みんなと違う努力をしたんだよ。さやは友達として美沙ちゃんを褒めてあげるべきだったんじゃないかな」


自分でも解っていることを見抜かれてしまった私は……


「私だって! 私だって努力してるもん!」


と食ってかかった。


「さやが頑張ってることはお父さんもお母さんもよく知っているよ、勝つときもあれば負けるときもある、それが勝負って事じゃないかな」



(落ち着いて話すお父さんに余計に腹が立つ!)


「さや、美沙ちゃんと早く謝って仲直りしたほうが……」

とお父さんが言い終わる前に……


「私がどんなに頑張ってるか知らないくせに!努力しても負ければ同じじゃない! 選ばれなければ努力したことが全部ダメになる! 私、三年生から頑張ってるのに!」


自分でも訳が分からないこと言い出し始めてしまった。


「どうせ美沙から聞いてるんでしょっ! 選ばれなかったからひねくれてるんだって!」

もう止まらない私……


「お父さんだって『俺も昔は』って言ってるけど、どうせ勝てなくなってやめたんだ! 勝てなくなって! 面白くなくなって! それで辞めたんだ! それと同じよっ!」


悲しそうな顔をするお父さん。でもそう言い終わるや否や、


『パシッ!』


小さな手のひらが私の頬を叩いた……お母さんだった……。そしてお母さんが静かに語り始めた。


「そんなに負けるのが嫌なら、選ばれなかったのが納得出来ないのなら、美沙ちゃんが……一番の友達が選ばれたのがそんなに気に食わないのならもう剣道なんて辞めて結構です。あなたには剣道を続ける資格も美沙ちゃんの友達でいる資格もない……」


落ち着いた口調でお母さんは話を続けた……。


「でもこれだけは言わせて。お父さんはあなたみたいに負けたからって、勝てないからって逃げ出すような弱虫じゃない」


私は何も言えなかった。


「それからさっきの美沙ちゃんからの電話だけど……あなたに何があったのか、聞いても教えてくれなかった。ただ美沙ちゃん、『私が余計なことを言ったから』って電話の向こうで泣きながら誤ってた」


(分かってる、ずっと前から分かってる。美沙があんな酷い事言う訳ない。美沙は私と違って友達思いの心優しい子だ)


「おやすみなさい……」


俯いたままそれだけ言って自分の部屋へ帰った。ベッドに寝転がり気持ちを落ちつかせた。ぶたれた頬が痛い。悲しかったのに不思議と涙は出なかった。その時は、ぶたれて悲しいというより自分が恥ずかしいという気持ちの方が大きかった。そんな事を考えていたらいつの間にかそのまま寝入っていた。

次の日の朝、早く起きた私は学校の用意をしてリビングへ降りた。


「おはよう!」


二人ともいつもと変わらない。でも私はやっぱり何か気まずかった。なのでそのまま学校へ出た。


「行ってきます……」


「もう行くの?朝ごはんは?」


「早すぎだろ?」


お母さん、お父さんが声をかけてくれたけど


「いらない、いってきます……」


と素っ気なく返してしまった。確かに学校に行くには早すぎた、でも教室には入れないけど武道場の外倉庫の鍵が壊れているから中に入れる。そこで宿題を予習しながら学校が開くまで待とうと考えていた。

でも武道場に着くと何故か玄関口が開いていた。


(誰かいる)と思いそっと覗くと……。


「美沙だ……」


美沙が汗だくになりながら一人素振りをしている。『そうだ……あのとき感じたゴツゴツした手の平は毎日の素振りで出来た手まめのせいだったんだ……』昨日のお父さんの言葉が頭をよぎった。

強くなって私と試合に出たい……美沙の気持ちは本物だった。


「私には……真似できないな……」


俯いてぼそっと独り言。私は美沙に気づかれないように武道場を後にした。




            私って……なんて馬鹿なんだろうと思いつつ……つづく


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