『近所に引っ越してきた櫻子はツンデレだけど嫌いじゃない!件』 その3話 バイクとお父さん
モヤモヤイライラする私……
色々考えながら帰宅していると、岸野家の前で私のお父さんと櫻子父が話をしているのが見えてきた。傍らにはピカピカに光り輝くバイクがあった。遠くからでも、お父さんの大きな声が聞こえてきた。
「いいですねぇ!」
そう言いながら羨望のまなざしでバイクを見ていたお父さんが私に気付き声を掛けてきた。
「おおぉぉっ、彩夏お帰り!」
と言うや
「すごいだろ! CBRだぞ! 」
と説明した。どうやら櫻子父が新しく買ったバイクがたった今、届いたらしくお父さんがその納車の時に出くわしたそうだ。櫻子父は車とバイクが趣味らしくガレージの中には綺麗な車とバイクが何台も並べてあった。
「しーびーあーる百?、じゃなくて千か! あーる、あーる? あーるがいくつあるの!」
お父さんが私にこのバイクのすごいところを熱弁する。サスペンション? がどうとかエンジン? はどうとか。しかしながら全然何言っているかわからない。というか私はバイクに全く興味がない。
お父さんじゃなくて櫻子父と話しをさせてと思ったけどお父さんのうんちくは止まらない。
そしてその頃から、お父さんがテレビでバイクの競争をする番組を見るようになった。
サーキットという所をわかりやすく説明すると陸上競技場みたいなところを仮面ライダーみたいな頭と服を着た人達がバイクに乗って競争して誰が一番速いのかを決める事だって。
たまに私が一緒に見る事があってその時に、
「お父さんも昔こんな風にバイクに乗ってレースに出てたんだよね……」
とボソッと呟いた。別に興味はなかったけど、
「へぇ~お父さんもこんな風に走っていたの?」
と軽い気持ちで聞くと急に立ち上がり、椅子の上に立って
「そうさ! こう見えてもお父さん速かったんだ! そして一番になったら表彰台の一番高いところに上ってシャンパンシャワー! しかも一回や二回じゃない! 何回もさ!」
と言って嬉しそうにシャンパンをもった振りをして上下に振るしぐさをした。
それからというもの一緒にレース番組を見るたびに『俺も昔はっ! 俺も昔はっ!』と自慢話をするようになった。この話が本当かどうか私は全く興味はなかったけど、一生懸命話すから付き合ってあげていた。
でも何故かお母さんがいるときは、レース番組の時間になってもチャンネルを変えないし、見ている途中でもお母さんの気配がするとバイクの話を急に止めて何事なくチャンネルを変えていた。それとバイクの話の後は必ず、
「この話はお母さんには内緒ね……」
そう言って毎回口止めする。なんでだろう……?
それからも帰宅すると岸野家のガレージで櫻子父と談笑しているお父さんを度々見るようになった。
ある日の事、下校すると家の前におおきなトラックが止まっていた。それはバイク屋のトラックでドアの所にお店の名前が書いてあった。
「バイク屋 あーるいーぶい(REV)?」
どういう意味だろ、と思いつつ玄関に回ると、お父さんと体格のいい短髪のひげを生やしたおじさんが話をしていた。そのおじさんが私と目が合うと満面の笑みを浮かべ話しかけてきた。
「こんにちは! 君がさやちゃん? 大きくなったね!」(私の正体を知っている? おじさん誰?)
「こんにちは……」
と挨拶を返すとそのおじさんは昔、お父さんがお世話になったバイク屋の社長さんと紹介された。
そしてお父さんが購入したバイクをじっくり見る。赤と白のラインがあり煙が出る穴が四つあり横に名前が書いてあった。
「あーる、ぜっと、ぶい、ごひゃく、あーるだって。バイクってあーるが好きなの(笑)」
三人で話をしていると、お母さんの車が帰ってきた。車から降りてきたお母さんと弟、弟はバイクに駆け寄り『かっこいい!』を連発している。そしてバイク屋のおじさんがお母さんに挨拶をする。
「こんにちは、お久しぶりです」
「こんにちは……」
いつも愛想のいいお母さんが、おじさんにそっけなく挨拶を返した。そしてバイクを見て一言……。
「本当に買ったんだ……」
と言い残し弟と家の中へ入っていった。お母さん怒っているのかな、なんか怖かった。
「やっぱりまだ嫌われているみたいだねハハッ……」
そうバイク屋の社長が苦笑いしながらお父さんに言っていた。
(このバイク、お母さんに内緒で買ったのかな、だから怒っていたのかなぁ)
でもお父さんのバイク、ピカピカでカッコはいいけど櫻子父のバイクよりもなんかちょっと古臭い。あっちのバイクが綺麗だしなんか速そう、また他人と比べてしまう。
櫻子の家には奇麗なバイクが何台もあって綺麗な車(ビーエム何とか)もある。私の家は小さい車しかないからお父さんは小さくて黒いスクーターに乗って仕事に行っている。しかもお父さんのこのバイク、ボロいうえにパンパンうるさい。
(いいなぁ櫻子の家は……)
とまた比べてしまう私。
いかんいかんと思いつつ、つづく……