『彩夏と友達になりたいけど私の癖がじゃまをする!件』 その15話 私の決心
ようやくサーキットに到着した。思っていた所と全然違っていた。施設を見渡すとすごく広く、中心にある建物と観客席はとても綺麗でまるで遊園地のような所だった。私はすぐにバスから降りて彩夏を探しに行こうとするとすぐにお父さんから呼び止められた。
「さくら!ちょっと手伝って!」
バイク屋さんが出すグッズ売り場や焼きそば、たこ焼き屋のお店の準備を色々手伝わされはじめた。それも次から次に仕事が増えるのでなかなか抜け出せない。
(せっかくのチャンスなのにぃぃぃ時間がなくなるぅ!)
そしてようやく手伝いが終わりすぐに彩夏を探しに出た。
(彩夏どこぉ?どこにいるのぉ?)
もう人目を気にせずキョロキョロ、キョロキョロ。そうこう探していると彩夏のお母さんと新之助君がくつろいでいる所を見つけた。そこには、彩夏父のバイクが止まっていた。そしてテーブルや折り畳み椅子、クーラーボックスも置いてあった。
(ここに居れば彩夏を捕まえられる!)と思いながらも彩夏母に挨拶をした後、彩夏の事を聞いた。
「お母さん、こんにちは!あのぉ彩夏さん……は?」
「あぁ彩夏なら散歩に行ってくるって、売店の方に歩いて行ったみたいよ」
そう教えてくれた。
(もう!じっとしてればいいのにっ!)
と思いつつ売店の方へ急いで向っていると後ろから誰か私の名前を呼ぶ声がした。『えっ?』と思って振り向くとそれは私のお父さんだった。「さくら、丁度良い所で見つけた!ちょっとこっちで手伝ってくれ!」
再びお父さんにつかまって今度はバイク屋さんのお客さんの走行会参加記念写真撮影の手伝いをさせられた。
(うわぁ時間が無くなるぅ!)
そして午前中のプログラムが終わりお昼休みの時間になってようやく解放された。すぐに彩夏の所に向かうと、松金一家と体格のいいヒゲのおじさん(どっかで見たことがある)がお弁当を食べながら楽しそうに話をしていて、流石に声を掛けづらかったのでその場は一旦諦めて皆の処へ戻り、私も皆とお弁当を食べた。
でも彩夏の事が気になって気になって、お父さんとお母さんから話しかけられても全く上の空。
そして午後の走行会が始まった。お父さんは予選A組での出走だった。その予選でタイムを計ったりサインボードと言うものを出す手伝いに駆り出されまた彩夏の所に行く事が出来なかった。予選が終わると総合でのお父さんの予選順位が決まった。バイクを押してくるお父さんが帰ってくると大きな声で
「お父さん予選一位になったぞ!」
とお母さんと私にニコニコしながら自慢げに言ってきた。お店の人達がお父さんを囲んで喜んでいた。だけどお父さんには悪いけど、私はそれどころじゃない。喜んでいる皆の話半分に聞き流し、さやかの所へ再び向かう。がまた居ない。焦りながらも笑顔を作り彩夏母に訪ねた。
「こんにちは、お母さん……あのぉ彩夏さんは?」
「櫻子ちゃん、何度もごめんねぇ!私がお使い頼んでね。たった今、売店に行ってもらったのよ、本当に何度もごめんね!」
そうお母さんが教えてくれたので私も急いで売店へ向かった。
(見つけた!)
ようやく彩夏を売店の中に見つけた。だけどさっき一緒にご飯を食べていたおじさんとなにか話している。とても話しかける雰囲気ではなかったので、話が終わるまで店の外で待つ事にした。時々中を覗いてみると、 彩夏が壁に飾ってある写真パネルを見つめながらおじさんの話を聞いていた。
(彩夏が見てる写真……なんの写真だろ……)
そしてお店の陰から再び覗くと話が終わったのか、彩夏がお店から出てきていた。お店の前で頷き、何か考えている様子だった彩夏に私が後ろから、
「さや……」
と声をかけながら近づいた時、
「さぁ皆さん長らくお待たせしました、間もなく模擬レース決勝が始まります!」
そうアナウンスがあると同時に『はっ⁈』っと顔を上げ、観戦スタンドの方へ走り出して行ってしまった。
「彩夏!!」
私は大きな声を出して呼びかけたけど、スタート前のバイクの大きな音にかき消されて聞こえなかったらしい。話をする機会を悉くなくし、私の心はもう折れそうになっていた。でも今日、絶対仲良くなるって決めてここに来たのだからと自分に言い聞かせて次のチャンスにかけ、さやかを追いかけて観戦スタンドへ上がった。
スタンドに上がるとすごい人の数だった。(いた!)一番前の柵の所に立っている彩夏を見つけると人混みをかき分け、彩夏の傍へなんとかたどり着いた。そして話しかけようと彩夏の横顔を見ると、嬉しそうな悲しそうな、何とも複雑な表情をしていて、とても話しかけられなかった。
「今、決勝レースがスタートしました!」
アナウンスと同時に空を劈くような音が響くと、沢山のバイクが凄いスピードで1つ目のカーブに入っていく。綺麗に1列に並んで立ち上がって、長い直線の向こう側に消えていくとアナウンスが入り、
「先頭はゼッケン15岸野選手!」
(お父さんだ!お父さんが一番前を走ってる)
でも、私は彩夏が気になって視線を彩夏の方へ向けると、
「すごいよ!櫻子のお父さんが1位だ!」
と彩夏が横にいる私を見て満面の笑顔で言ってきた。私はびっくりして言葉も返さず正面を向いたが
(えっ?私が隣にいるの知ってたの?)
そう思いながらとても嬉しく思った。
私のお父さんが最後のカーブを回って一番で帰ってきた。(お父さん、がんばれ!)心の中で叫んでいる。彩夏のお父さんは……一……二……三……七位だ(彩夏のお父さん頑張れ!)私はそう大きな声で叫びたかった。そして二周目に入る、変わらずお父さんが一位、さやかのお父さんは……四位に上がっている、(やったぁぁぁぁ!彩夏のお父さん頑張れ!)そして三周目に入りアナウンスが流れた。
「ちょっとまってください、ここでトップが入れ替わっている?只今トップはゼッケン九十二番、松金選手!コントロールタワー前に帰ってくるぞっ!」
(きゃ――!お父さんには悪いけどさやかのお父さん超かっこいい)
チラッチラッとさやかを見るけど何やら複雑な表情、(『すごい、さやかのお父さん凄い』と声をかけたい!かけるんだ!)しかし勇気を出して頭一文字言いかけたところで、
「しかもどうでしょう?このタイムは⁉計測器が壊れているのでしょうか⁉コースレコードです‼走行会の模擬レースでとんでもないタイムが出ています!」
その大音量でアナウンスのせいでまた私の声が、かき消されてしまった。そのあと声をかけるタイミングを探そうと……もせず彩夏父の走りに目が釘付けになってしまった。そしてそのまま二位の私のお父さんに大差をつけてゴールイン。
私は彩夏父のあまりのかっこよさに感動して見とれてしまっていた。だからその時、横にいる彩夏が私の顔を見つめている事に全く気付いていなかった。ふと視線を感じて横を向くと彩夏が優しく微笑みながら私を見つめていた。そのあまりの恥ずかしさに咄嗟に私は思ってもいない言葉を発してしまった。
「な、なによっ!わわ、私のお父さんがかっこよくて一番速かったんだから!一位になったんだから!」
そういうと彩夏に背を向けてその場を逃げ出してしまった。人混みの中、走りながら心にもない事を彩夏に言った自分を責めた。
(せっかく、せっかく話をするチャンスだったのに!何で、なんであんな事を言っちゃうの!?私のバカ!!)
そしてその後、何もできないまま帰りのバスが出発する時刻になった。バスに乗る直前まで彩夏の所へ行こうと、バスの前を行ったり来たり。だけど私には行く勇気がない……自分でこんな状況を作ったのに……。遠くを見つめる私。
「櫻子、帰るよぉ」
お母さんの呼びかけに無言でバスに乗った。もう泣きそうだった、泣きたかった。でもバスの中だしお母さんに心配をかけたくない。だから窓際でお母さんに背中を向けて顔を見せないように外を見て座っていた。すると……
「どうしたのぉ櫻子」
お母さんが私の頭を撫でながら、優しく語りかけてきた。ゆっくり振り向くと私の目を見ながら
「ぅん?」
と微笑んだ。私はその顔を見るともう我慢ができなくなり、お母さんに抱きつき、胸に顔をうずめ、バスの中なのに、人が一杯居るのに、泣きじゃくりながら大きな声を上げて叫んだ。
「私、私!彩夏と仲良くなりたかったの!絶対仲良くなるんだって!もっと素直な子になるんだって、そう思ってここに来たのに何もできなかった!それどころかまた彩夏に酷い事言っちゃったぁぁ!!」
お母さんの顔を見る
「私、私ね!皆と仲良くなりたいの!自分を変えたいの!でも出来ない!!私病気なの?優しくなれない病気なの?私、私どうすればいいの!ワ――ン!!」
バスの中で大きな声で泣きじゃくりながら訴える私に、お母さんは優しく抱きしめ、髪をなでながら言ってくれた。
「病気なんかじゃないわよ櫻子。あなたはねぇ、お母さんに似てぇほんのちょっとだけ、不器用なだけなの……」
お母さんはそう言いながら私の両肩に手を添え目を見つめながら続けた。
「櫻子……本当は優しくて素直な子、分かってる。だから櫻子は櫻子のままでいて欲しいの。さやちゃんも、皆もいつかきっとあなたを……櫻子の事を分かってくれるから、ねっ。」
「お母さん……お母さん……だったら私ね……」
そう優しく言ってくれたお母さん。私は涙をぬぐい意を決していままで心の中で思っていた事をお母さんに素直に打ち明けた。
その後、思いをすべて打ち明けた私は、気持ちが落ち着いたのか、お母さんの膝枕で眠っていた。そして終点に到着しバスから降りる時、乗っていた沢山の人達から、
「櫻子!頑張れ!」
「櫻子ちゃん頑張ってね!」
と励まされかなり恥ずかしかった。
(顔を真っ赤にして俯く私の代わりにお母さんが『ありがとうございまぁす、頑張りまーす』と返していた)
有り難う……お母さん、と感謝しつつ最終話へ続く……