『近所に引っ越してきた櫻子はツンデレだけど嫌いじゃない!件』 その10話 過去の私、そして今の私
私のその後……
月曜日、朝早く起きた私は武道場の前にいた。今日も美沙が一人で練習をしている。
『カラカラカラ……』
戸を開けるとその音に気付いた美沙がこっちに振り向いた。
「さやちゃん……」
美沙が私の名前を呼ぶ。その声を聞いただけで、もう涙が溢れてしまいそうだった。私の顔は泣くのを我慢してくしゃくしゃ……でも必死に声を絞り出した。
「み、美沙……わ……私も一緒に………い、いいか……な?」
言葉は途切れ途切れ……声も出ていない……。
そんな私を美沙は見つめた後、いつもの満面の笑みで答えてくれた。
「もちろん! 一緒にやろ!」
その言葉を聞いたと同時に、私は我慢できず声を出して泣き出してしまった。
「美沙……ごめんなさい…………美沙ごめ…………んな……さ……」
聞こえないぐらい小さな声で何度も何度も泣きながら繰り返した。美沙は私の手を握ってくれてうんうんと頷いてくれた、そして何故か美沙も泣いている。この後、しっかり謝ることもできてまた友達に、いやそれ以上の、本当の本物の親友になれた。
そして櫻子との事。サーキットに行った次の日から、なんか様子が違ってきた。取り巻きの子達が、一人また一人と居なくなり、気が付けば一人で席に座っていることが多くなった。気になって声をかけたりすると、顔を真っ赤にして逃げていくし(なんか変なの)と思っていた。
それはある早朝の事、美沙との朝稽古に向かうときの話だ。私が寝坊して家を出る時間がちょっと遅れたので玄関を出て走って家を出た。すると櫻子の家の前、にショートカットで背の高い女の子がこっちに背を向けて立っていた。(櫻子の友達かな)そう思って通り過ぎようとした時大きな声で呼び止められた。
「な、何で無視するのっ!」
私は
「えっ?」
と振り向いた。怒った表情でほっぺたを膨らまし、顔を真っ赤にして私を睨みつける女の子。その子をジッと見た。どこかで見たような……と少し間をおいて私の口から二度目の
「えぇぇっ!?」
が出た!
「さ、櫻子ぉぉ!?」
そこに立っていたショートカットの背の高い女の子は、なんと岸野櫻子だった! 私は、すっごくびっくりした。だって長くてきれいな髪を短くショートに、スカートとブラウスじゃなくてジーンズにTシャツ! どうしたのっていうかその服装……まるで私? でもすっごく似合っていた。
それを見て私がニヤニヤしていると
「か、髪は長くて鬱陶しかったから切っただけで!……」
益々ニヤニヤする私……
「スカートはめくれてパンツが見えるからやめたのよ!……」
と言いながら櫻子は、耳まで真っ赤になっている。相変わらず右斜め上からの目線、だけど何か憎めない。
「さ、彩夏のま、真似じゃないからね!」
私は
「はいはい! わかったわかった!」
と返し朝練に間に合わないと思いつつ、
「行こっ!」
と櫻子の手を握り駆け出した。その後、櫻子は朝練を見学していたけど剣道に感激したのかそれからすぐ、なぜか剣道部に入部してきた(本当はアニメ好きの美沙と仲良くなりたい為だったらしい)
そしてこれは後日櫻子母から私のお母さんが聞いた話で、櫻子は引っ越してきて初対面した時から、私と絶対友達になりたいって言っていた。でも自分の性格が邪魔をして素直に話しかけることが出来なかったって。それと私たち一家をとても羨ましがっていて、お父さんは面白くてかっこいいしお母さんはかわいくて私の大先輩(保育士)で尊敬しているのと。そんな事があった後、私と櫻子と美沙は、何でも話せる親友になった。
そしてみんな大人になって……
そして私達も大人になりそれぞれの人生を歩んでいる。美沙は、結婚して遠くに行ってしまったけれど、今でも連絡は取り合っていて、たまに会えるのを楽しみにしている。
櫻子は、夢だった保育士になれたけど、あのツンデレ調子は変わらない。だけどそれが子どもや保護者に受けがいいらしく、結構人気者の先生になっているらしい。櫻子は結婚した今でも時々、私のお母さんに保育の事について相談に来ることもあるんだって。櫻子は、わりと近所に住んでいるから私とも時々会っているしね。
私も大人になり結婚して子どもを持つ親になり、やっとあの頃のお父さんやお母さんの言っていた事が解ったような気がする。私は自分以外の人の事を、櫻子や美沙の事をとても羨ましがっていた。でも反対に櫻子だけじゃなくて美沙や社長さんまで、私の事を羨ましく思っていたなんて。そんな事考えてもいなかったけど……今となってはいい思い出。もしも今、この時に私が行く事が出来たのなら、自分の家の芝生が一番青くて綺麗だよって……その時の自分に教えてあげたいな。
みんな幸せ!と思いつつ……おわり