第6話 翼よ あれが○○島だ
時たま、絶景と言える風景を見たりする。
映画館やテーマパークでのパノラマ上映、また昨今のテレビの大型化などの視覚効果が影響しているのかもしれない。
その時の私は、どこぞの道をエアバイクで飛んでいた。普通のバイクと同じくらいの高さを車輪無しのバイクで進んでいるのである。
タイヤがあるはずの前輪部分は、白い皿を伏せたような円盤状のモノがついていて、地面から2,30cmほど浮いている。おそらく後輪も同じなのだろう。
アクセルはやはりグリップで調節なのだが、実はバイクどころか原付免許も持ってない青田。
ちょっとだけスピードを出そうとアクセルを捻り過ぎ、急にスピードが出過ぎてビビるということを何回か繰り返す。
現実にはきっと事故を起こしそうなので、絶対に運転はしないつもりだ。
ただ片側2車線の道路には前と右側にほとんど車は来ない。空はすっきりと青くて適度に切る風は気持ちいい。
ちょっとだけランナウェイしようとして、吹かし過ぎてしまったらしい。
気がついたら海の上を飛んでいた。
テレポートやん。
もう波間ちゃぷちゃぷどころの高さでなく、思い切り飛行機として何十メートルの高度だった。
そうして眼下に見えたのは――
おお、翼よ あれが 軍艦島だ!
私の左下には緑豊かな島があった。
こんもりと茂った森というか、ジャングルと言ったほうがよさそうなモリモリ度。
そうしてその下にあるのは切り立った岩場――ではなく、黒い軍艦だった。
何故かずっしりと黒く塗られた金属の戦艦の上に、もう洩れ落ちそうなばかりに緑のタラコが盛られている。いや、樹木なんだが。
真上から見たら絶対にただの島としか分からないだろう。
ちなみになぜ戦艦と言っているかと言うと、側面に幾つかの三連砲がしっかり突きでいるのが見えたからだ。まあ甲板があれなのでサイドに持って来るしかないか。
もしかすると一部は偽装で、森が動いて主砲が出てくる構造なのかもしれない。
どうやら楕円形ではなく、一般的な舟形をしているらしい。先端らしき方は窄まって尖っている。
実は私、軍艦島というのは五角形型をした島だろうと思っていた。そこに普通に川や森があるのだろうと。
しかし実際はあのように廃墟団地の群像といった感じである。アレはアレで歴史を感じさせて悪くないのだが、私が子供心に思ったのはやはり自然の息吹きを感じる島なのだ。
が、この夢ではその想像の斜め上をいっていた。
軍艦島は一つではなかった。
壮大に広がる海にバラバラの向きで大きさも異なる島が、少なくとも5つ以上はあった。
まさに群島、軍艦諸島である。
しかもゴゴゴゴ……と音がしそうな感じにそれぞれみなが少しずつ動いている。
手前の二隻が逆八の字型 \ / の向きで、ゆっくりとだがそのまま進めば衝突しそうだった。それともギリギリで止まるのだろうか。
とにかく壮観な眺めだった。
どこまでも広がる煌めく多彩な青に満ちた大地のようなオーシャンブルー。そこに深い緑と金属のくせに無機質さを感じさせない人工的な黒。
そうして一番濃いコバルトブルーの遠くの水平線から、無限の彼方に開かれた空の青に流れていく白い綿のような雲群。
まさに絶景、世界奇行である。
もし現実世界にあったらきっと世界遺産に指定されるだろう光景。
本来ならずっと眺めていた情景だった。
なのにホバリングしなが次に私が思った事は
” やべぇ~、何処の島から来たっけ?? ” という事だった。
何しろ飛び過ぎてしまって、まさに空間をひとっ跳びしてしまったのだ。
もう道どころか、町らしき建物も島の中に見えない
もしかすると角度的に森に囲まれて見えないだけなのか、と少し矛盾したことを思ったりした。
そうして少しずつ動く島々を見て直感で当たりをつけたのは、手前の逆八の字型になっている二つの島のどちらかではなく、その奥の中くらいの島だった。
とりあえずあそこに行ってみようとハンドルを切った途端、バウンっといった感じに再び私は道路に戻っていた。
ふうぅ~無事に戻って来れて良かったぜえ~。あのままもしガス欠にでもなったら悲惨なことになるところだった。
ただ今度は高速道路のようで、両側には連続して面のように見える白灰色の壁があった。
先程のようにまわりは見えないが、やはり車は少なく、上には青い空が広がっている。
途中、左側の非常駐車帯に、何故か金色のアンコールワットみたいな建物のオブジェが並ぶところを通り過ぎた。
止まってよく見たかったが、車が無くてもこんなところで止まってはいけないので断念。
雨ざらしに晒されたふうでもなく、何かのショップコーナーのように綺麗だったが、もしかして横に階段とかあるのだろうか。(いや、冷静に考えたら危ないんだけど)
次、下に降りれるところで戻ってみようとこの時思った。
後で考えたらエアバイクなのだから、宙に飛べばよかったのに……。
そうして目が覚めてしまった。
ああ……、もっとそれぞれよく見ておけば良かった、とちょっぴり悔んだ。
このような情景は私のナチュラル脳では想像の斜め上だったが、昨今急速に進化してきたAIで簡単に作り出される範疇かもしれない。
ただやはり同じ空間にいた、生で体感した臨場感だけは、360度画面の大パノラマでも味わえないと思う。
いつか科学が進歩して、脳に実体験として情報を送り込むことが出来るようになれば別の話なのだけど。
もしかするとそんな時代が来たら、人口で作り上げる情報より、生で体験した情報(記憶)の方が高くつくかもしれない。
闇でそんな希少な情報が裏売買されたりする日が来るかもしれないが、おそらく私たちが生きているうちはまだ大丈夫だろう。
多分……。