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伝説の白石弁当

今日から母上の愛情が込められた手作りのお弁当が使用人のお弁当に代わった。

使用人の手から、お弁当が渡されても優樹は不満を言葉にせずに受け取った。

だが、ここで使用人の白石昌慶(しらいしまさよし)が輝を怒らせる事件が発生してしまった。


白石:『おはようございます、輝さま。本日より、私の手作りのお弁当をお持ちいただきます。どうぞご堪能くださいませ』


輝:『あんまり堅苦しいのは嫌なのだが………、中は何が入ってるんだ?』


白石:『私自慢の手料理、金箔入りステーキパイが入っております』


白石はキラキラとした笑顔で、そう答えた。

料理の腕前に自信があるようだ。


優樹:『…………!!!!』


しかし、優樹は驚いて絶句。

輝がステーキを一番嫌ってる事を知っているからだ。


輝:『そんなものいらん』


輝は怒りを抑えきれずに言った。


白石:『お気に召されたなら、シャトーブリアンを…』


白石は気を取り直して続けた。

輝は更に怒って言い返した。


輝:『ステーキは弁当に入れるものではない。我が母はステーキを弁当に入れた事は一度も無い。今まで何を見てきたのだ?お母さまの愛情が込められた手作りのお弁当が、突然貴様が作った高級な弁当に変わるという状況が、私たちの生活にどんな変化をもたらすかよく考えろ。お母さまの手作りのお弁当には家庭の温かみや親の愛情が込められていたぞ。それを貴様は横で見てきた筈だ。それに対して、貴様のお弁当は高級な食材ばかりに囚われて、心の温かみが欠けている。やめたらどうだ?使用人という奴隷を。朝ごはんも私の分だけ作らなくて結構。定食屋で食べる』


輝は白石に厳しく当たった。

それでも白石は反論した。


挿絵(By みてみん)


白石:『そんな貧相な食べ物では美しいお顔も全てが台無しです。こちらの上品なレシピの方がよくお似合いで御座います。お勉強も集中できるように栄養価の高い食材も入っております』


輝:『子供をブランドのように染めるな。こんなもので喜ぶような虚しい人間と一緒されては困るなぁ。私がステーキ弁当に強く反発するのは単に食べ物の好みの問題だけではないのだよ。自分の価値観や家庭の伝統が無視されていると感じたから反発するのだ。貴様は良かれと思って高級な弁当を作ってるかもしれんがな、私にとって、お母さまが作る“普通”のお弁当こそが愛なのだ。その領域に高級な食材や豪華な料理は必要ない。貴様は自分の努力や料理の腕前を認めてもらいたいという気持ちが強すぎる』


白石の努力は輝には伝わらなかった。

輝が本当に求めているものも白石には分からず、高価なものにこだわり続けた。

お互いがお互いにすれ違っている。

こういった価値観の違いは、どうしようもない事であった。

価値観の違いからお互いの思いがかみ合わない事に苛立ちを感じた。


優樹:『…………………』


我慢しているのは輝だけではない。


優樹:『…………………』


輝だけが我慢しているわけではない。


優樹:『…………………』


優樹も同じように寂しさを感じていたが、他人に迷惑をかけたくないから、その気持ちを誰にも言えなかった。

自分の本当の気持ちを抑えていた。

そして、静かに家から出て幼稚園バスを待った。


挿絵(By みてみん)


優樹の目から涙がこぼれている。

誰も居ない場所で独りで泣いた。

優樹はハンカチで涙を拭き、無言のままバスに乗って幼稚園へ向かった。

白石の高級なお弁当を持った優樹は、あまり嬉しそうな表情ではなかった。


輝は送迎も断り、この日から徒歩で通学する事になった。

束縛された何かから解放されたような気がした。


白石は受け取ってくれない弁当を抱いたまま煙草を吸った。


そして、輝はお昼ご飯を買う為に人生初の伝説のコンビニへ入り、一目惚れした巨大な伝説のチョコチップメロンパン4つと伝説の水を2本購入した。

これが朝とお昼のご飯である。


ところが、会計を済ませた後に、お釣りをうっかり落としてしまった。

周囲の人たちは無関心で、助けるどころか冷たい視線を向けている。

輝は、ここから早く出たくなり、半泣き状態で小銭を拾った。

ちょっとした事でも人並み以上に深く傷付き、哀しくなる弱い一面がある。

この出来事で、輝は白石に対してキツく当たりすぎたことを反省しながら、心の弱さや脆さと闘いながら小銭を拾い集めた。


輝が買ったパンは、とんでもなくビックサイズなのでランドセルの両脇からチョコチップメロンパンが元気よく飛び出している。

それはまさにユーモアだ。


人が通る道を歩きながら人と違う道を歩く者、人と同じ道を歩く者、沢山の人とすれ違う中、輝は自分が人と違いすぎる事に疎外感を感じた。

宗教のように人が同じように染まり、同じ方角へ飲み込まれていくように歩く人間が恐ろしいとさえ思った。

人の言葉で毒される者、人の言葉に流される者、意見せずに操り人形のように死んだ者がゾンビのように歩いている。

自分で自分の道を開いていける人間に魅力を感じたが、哀しい事にそういった目をした者はあまり居ない。

他人と違う事を恐れるような眼をしている。

何を怯えているのだろうか。


それでも輝は輝らしくがに股で歩き続けたのである。

まるで正しい歩き方などクソくらえと言っているかのように。


皆、同じでは駄目になる。

一つになりたがる事が生きる道から外している。

輝は自分を持たない色の無い人間ばかりが溢れた交差点を歩き、遠くを見るような表情をする事が多い。

だからいつも赤と黒と白の世界しか描けなかったのである。

そんな輝には僅かな夢があった。


輝:『虹が見たい…』


だがしかし正面は、いつも闇に閉ざされている。

暗い先を見て“なんだ、こんなものか”と諦めるよりも見えないものに隠された闇を見たい。

見えないものほど重要なものが隠されている。

それを置き去りにしたくなかった。

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