伝説の入学祝い
入学式から帰宅した輝は魔力で顔の傷を一瞬で治し、自室から一歩も出ずに過ごしていた。
輝が楽しみにしていたアニメ“女の娘爆熱アイドル☆ミニラテ姫”を観る為だ。
原作を読んでファンになった輝は世界に一つしかないミニラテ姫のプレミアムロリコンTシャツを宇宙を超越し、限りなき魔力を発揮した超常能力で応募した。
そして見事に当てるほどの熱烈なミニラテ狂である。
当然、アニメの放送時間にも予定通りぴったり間に合った。
作者は男子高の漫画研究部3人組で、その内の一人が鹿型のトラック(タイヤは勿論、鹿の足音付き)が欲しい・お母さんが怒りそうな時にお母さんを自動的に台所に移動させる装置(起動中は勿論、鹿の鳴き声付き)が欲しい・巨大な鹿のうんこオブジェを買いたいというごく普通な男子高生のユニークな夢のある欲望から3人で持ち込みに行き、漫画化してアニメ化した。
作者名は“うんこ大成功!!”というパワフルなうんこである。
そして、注目のアニメ化された“女の娘爆熱アイドル☆ミニラテ姫”は声優が生放送で声を入れるという形式であり、長すぎる台詞を間違えてもアドリブでカバーしなければならない難易度の高い放送として知られている。
特に、主人公のアイドルを担当している声優が顔を公開しない6歳の少年という幼さで初めてのアフレコを行うという事で注目を集めていた。
話によると、アニメ制作スタッフから美形の少年と噂されている。
ところが、オープニングテーマが流れると震えながら歌う主人公の声が聞こえ、視聴者を不安に陥れる放送事故が発生してしまった。
声は小さく、何を言っているか分からないお経のようである。
初っ端から主人公が大きく取り乱している様子が伝わってきた。
だが、サビに突入した瞬間、切り替えて視聴者を驚かせるほど女の子を演じる歌声が流れ、輝はテレビの前で鳥肌が立つほど感動した。
歌は完ぺきではないが、心に響く何かがあった。
今までのか弱い歌声は、視聴者にダメな声優だと騙すための策略だったのだろうか。
しかし、歌詞をよく見ると“弱った背中”から“くじけない背中”に変化する歌であり、音痴に歌ったのはわざとであった。
アニメの内容は男の子の体に生まれながらも、心は女の子として生きる事を願う主人公が孤独と苦悩に心を痛めるというもの。
周りから理解されずに孤立化し、母の手作りのおにぎりを泣きながら食べているシーンが印象深いものである。
その直後、死を望んで首を吊って苦しむ姿が視聴者にトラウマを植え付けるほど迫力のある演技力である。
更に一人の男性が現れ、名刺を渡すシーンがあり、主人公がスカウトされると誰もが期待する展開が待ち受けていたが、騙されて誘拐されてしまった。
そこで主人公は誘拐犯に『どうして私を選んだの?』と訊き、男性が『たまたま可愛いアイドルみたいな女の子が首を吊っていたのを見て、今から死のうとしてるならちょうどいいかなと思ってね、グフフフ』と不気味な笑みで答えた。
その刹那、主人公は男性の一言で初めて自分を女の子と認められた事に嬉しくなってアイドルを目指したいという夢が出来上がり、『私がアイドルになって、あなたが推しになってくれたら誘拐した事を誰にも言わない。警察に突き出したいところだけど警察に突き出して罪を軽くされるよりも、私のグッズを誰よりもいっぱい買ってもらう為に働いて罪を重くした方が私は美味しいから。私を推す為に生きて』と言って誘拐犯を警察に突き出さずに家に帰っていくシーンで1話があっという間に終わった。
夕方に夕日に向かって帰る主人公は楽しそうにスキップをしていた。
その時の主人公の表情は生きる希望の輝きで満ちており、作画にも力を入れているのがよく分かる。
次回はアイドルのオーディションに応募するようだ。
エンディングは声優達が犬のように吠え始めたり、自由に叫んだりと披露している中で、スタッフやアニメーターまで一緒になって寝不足を訴える叫び声が聞こえてきた。
視聴者は今までにないスタイルのアニメに困惑し、ついていけていない様子で地球もカタカタ震えていた。
輝はエンディングが心に響き、録画を何度も繰り返し視聴していた。
同じ屋根の下で弟も同じ番組を観て泣いていた事も知らずに。
夕食の時間になると、白石が輝の部屋の前で食堂に来るようにと告げたが、輝は動かなかった。
一時間後、再び白石が輝を呼びに来た。
白石:『輝さま、お父さまがお帰りになりました』
輝:『……………………!!!!』
父上が大阪から帰ってきてくれたのだ。
輝は興奮しすぎて部屋から飛び出し、両手を広げて父上のもとに駆け寄った。
入学式に来てくれなかったことには正直、少々拗ねたい気持ちもあったが、父上がどんなに忙しくても自分のために大阪から東京まで駆けつけてくれた事は、何よりも嬉しい出来事だった。
その時は入学式に来てくれなかった事など、どうでもよく思えた。
輝はしばしの間、父上との再会を喜び、心の中で感謝の念を込めた。
しかし、父上は弟の存在を無視し、輝の前だけを向いていた。
輝: 『久しいな』
『入学おめでとう。今日は輝の欲しいものを買いに行こか』
輝:『ありがとう』
父上の名前は織田貴文。
その優しげな笑顔が、輝の心を温かく包み込む。
しかし、白石はその場に居合わせ、静かに弟の隣に座って折り紙を一緒に折っていた。
その姿がなんとも心温まる光景であり、輝の心を深く打つものがあった。
家族の中で自分だけが特別扱いされるのは、輝にとって心の奥底で痛みを与えるものでもあった。
父上の優しい言葉と、白石の静かな姿が、輝の心に深い感慨を呼び起こしていた。
輝:『お父さま』
貴文:『なんや?』
輝:『…………なんでもない』
貴文:『ほな行くで』
父上と輝は2人だけで車を走らせた。
車の中で輝は父上に暗黒天蝕帝に個人情報を書き換えられて別の星に飛ばされた事と、暗黒天蝕帝を倒して元の星に帰ってきた事と、いつの間にか弟と仲が悪い事と、白石が作った食事が高級すぎる事、色々と話す事があったが、その時は車から見える景色が何も言うなと言わんばかりに美しく見えてしまった。
輝:『お父さま、私が欲しいものは物じゃないのだよ。お母さまとお父さまが一緒に暮らしてくれれば、それ以外何もいらんのだよ』
貴文:『その話は今は、やめとこか』
輝:『…………?…………うん』
その沈黙には言葉以上の何かがあった。
輝は、父上の心に何か重いものがある事を感じた。
それは深い悲しみや苦悩かもしれない。
しかし、輝はその痛みを理解しようと父上の横顔を見つめながら寂しさと不安を抱えていた。
輝:『今年の桜は遅咲きだな』
貴文:『そうやな。わしらを待っとったかのようやな』
父上の言葉に、輝は心が震えた。桜が待っているかのように、父と子が再び一緒になることを願っていたのかもしれない。
その瞬間、輝は自分が家族の一員であることを再確認した。
車を走らせて15分後、目的地に到着した。
輝と父上は、入学祝いのプレゼントを探す為に店を歩いた。
店頭にはさまざまな商品が陳列されており、輝は心躍る気持ちで品定めをして楽しんだ。
輝: 『お父さま、あの店のショーウィンドウに素敵な時計があるぞ。これが欲しい!入学祝いのプレゼントに、これをお母さまに贈りたい』
貴文: 『なるほど、その時計か。ええ選択や。輝が欲しいものを選んでくれると、父としては嬉しいな』
輝は喜びを胸に、その時計を店員さんに取り寄せてもらった。
そして、暫くして店員さんが持ってきた時計を見て、輝は満足げな笑顔を浮かべた。
輝: 『これ、お母さまが欲しがっていた時計だ。喜んでもらえると思う』
貴文: 『ああ、そうか。自分が選んだプレゼントは、きっとおかんを喜ばすやろうな』
輝と父上は、その時計を手にして満足げに帰路に着いた。
そのプレゼントが、家族の絆をより強固なものにするきっかけとなる事を輝は信じていた。
ところが、家に着いた瞬間、父上は突然、大阪に戻らなければならないと告げた。
輝は驚きと寂しさで胸が苦しくなった。
父上との楽しい時間は、あまりにも短かった。
貴文: 『輝、おとんはまた必ず戻ってくるからな。しっかりおかんと弟を支えてや。わしの代わりになるんやで』
輝は、悲しみを抱えながらも頷いた。
父上の言葉が輝に勇気と強さを与えた。
それから、父上は早々に荷物をまとめ、白石に車で空港に向かって貰った。
輝は窓から見送りながら、胸が痛み、涙が出そうになったが、弱くなってはいけないと、ぐっと耐えたのであった。