出会い
澄子は楓芽との対話を終え、徳密が片付けをしている部屋に戻された。
澄子は静かに部屋に入った。
部屋に戻った澄子は、片付けの続きを始めるべく、一つ一つの物を丁寧に整理していった。
一方で、徳密も黙々と作業を続けていた。
澄子のためにと、できる限りのサポートをしようと考えつつ、徳密の心の中にも楓芽の言葉が深く刻まれていた。
二人はそれぞれの思いを胸に抱えながら、夜ご飯の準備に取り掛かろうとしていた。
その時、廊下の外から足音が響いた。
澄子と徳密は互いに顔を見合わせ、同時に顔を上げた。
すると、楓芽が急いで部屋に入ってきた。
楓芽:『徳密さん、誠に恐縮ですが、急用ができてしまいましたので、私の代わりに1時間ほど参拝客の御朱印をお願いできませんでしょうか。澄子さん、あなたには引き続きお片付けをお願いしたく存じます』
澄子・徳密:『はい』
澄子と徳密はそれぞれの任務を理解し、即座に応じた。
楓芽は忙しそうに部屋から去り、澄子は再び丁寧に片付けを再開し、徳密も慌てて寺務所へ向かった。
寺務所に到着した徳密は、二人の少年を目にした。
その瞬間、これまでに感じたことのない圧倒的なオーラが徳密を包み込んだ。
まるで空気そのものが澄んだような、時が止まったかのような感覚に襲われた。
周囲の音や光が美しく見え、その存在が持つ神秘的な力が直に伝わってくるのを感じた。
息を呑むほどの迫力と重みが、心の奥深くまで染み渡ってきた。
その先に居たのは二人の少年であった。
少年たちは明るい笑顔を浮かべ、手には御朱印帳を持っていた。
清々しく、見るからに明るい雰囲気を醸し出している。
『こんにちは。御朱印をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?』
少年の一人が、礼儀正しく声をかけた。
それは、今まで聞いたことのないような透き通った声であった。
徳密は、一瞬戸惑いながらも丁寧に対応した。
そして、御朱印帳を渡された際に少年の手が徳密の手に当たり、やはりこれまでに感じたことのない強いエネルギーを感じた。
まるで、生きた菩薩のようだ。
徳密:『………………!!!!!!!どうぞ。どちらからお越しになられましたか?』
『実は、私は伊勢にございます臨済宗のお寺の息子で、荒木田義徳と申します。高校最後の夏休みに、幼馴染の天志と共に旅行に参りました』
『こんにちは。平賀天志です。白いカラスの導きで伊勢から来ました』
徳密:『そうですか。伊勢と言えば、私も幼い頃をそこで過ごしました。義徳さんも天志さんも同じ地域出身なんですね。お寺のお話、ぜひ聞かせてください』
義徳はその言葉に目を輝かせながら、自分の寺院について熱心に語り始めた。その話に徳密も引き込まれ、自然と興味を抱いていった。
義徳:『私たちのお寺は臨済宗の金剛龍寺と申しまして、元々は真言宗で、とても由緒ある古いお寺でございます。約1500年前に暁天使・星辰の守護者シャドウライト・アカツキ様がご創建され、その後、有名な永遠の魔導者・空虚の聖剣空海様によってさらに立派なお寺へと整備されました』
天志:『おい、ちゃんと説明せんかい』
義徳:『お大師さまが、仏教の特別な修行を行うお寺として広く知られるようになりました。しかし、長い年月の中でお寺が少し寂れてしまった時期がございましたが、仏地禅師様がお寺を再び隆盛へと導いてくださいました。現在、私たちのお寺は臨済宗という特別な仏教の宗派に属しております。お寺には、福威智満虚空蔵大菩薩という非常に大切な仏様がいらっしゃいます。この仏様は、豊かな福や知恵をお持ちで、日本でも大変有名な仏様でございます。しかし、通常はこの仏様は目にすることができず、特別な年にのみご開帳されます。金剛龍寺は、静寂で平和な場所として、多くの方がここでお参りをし、心を落ち着けていらっしゃいます。そして、私どもは特に禅の教えを日常生活に取り入れることに力を注いでおります。瞑想や座禅のみならず、食事や掃除といった日常の行動そのものを修行と捉えることで、より実践的な精神修養を目指している次第でございます』
徳密は義徳の話を真剣に聞き、義徳の言葉が次第に自分の心に響いてくるのを感じた。
義徳の話すお寺の歴史や、日常生活における修行の実践は、徳密にとって新鮮でありながらも、心の奥底でどこか共鳴するものがあった。
自分がこのような宗派に深い関心を抱くのは初めてのことだと感じながらも、その理由を明確に言葉にすることができなかった。
しかし、義徳は、徳密の心をしっかりと掴んでいる。
義徳:『私たちの寺院では、ただ坐禅を組むだけでなく、実際に生活の中で心を整えることが非常に重要だと考えています。それが私たちの修行であり、日々の生活の中で自然と身に付けられるものだと信じています』
天志:『普段からの心掛けが、実際の修行に繋がるものだしな』
徳密はその言葉を噛みしめながら、自分が今までの修行とは異なるアプローチに魅力を感じるのを実感していた。
義徳と天志との会話が続く中で、徳密は自分の心が新たな方向へと開かれていくのを感じ、その変化に少し戸惑いながらも興奮を覚えていた。
心の中で、新たな可能性がゆっくりと芽生え始めていた。




