伝説の爆熱破壊神バキュラ

中道の教えと修行

少し微笑ましい時間だと感じた刹那、静寂を破るように背後から楓芽の声が聞こえた。

澄子が振り返ると、楓芽が静かに立っていた。

楓芽の目は澄子をしっかりと見据えており、その表情にはいつもの冷静さが感じられたが、どこか厳しさが漂っていた。

楓芽: 『知識が豊富ではない徳密さん、少しの間、お一人でお片づけをお願いします』

徳密:『はい』

楓芽: 『澄子さん、少し二人でお話をしましょうか』

澄子:『………はい』

澄子が楓芽の後を静かに歩きながら、心の中で緊張と不安が入り混じっているのを感じた。

二人が人目のつかない部屋に到着すると、楓芽は冷静な表情を保ちながら、澄子をじっと見つめた。

部屋は薄暗く、窓からの光もわずかで、静けさだけが漂っていた。

その中で、楓芽の鋭い目線とその言葉が、澄子の心を強く圧迫した。

楓芽はその姿勢を崩さず、澄子に対してじっと目を見開いたまま話し始めた。

楓芽: 『先ほどの件についてお話ししたいのですが、あのような行動をされたこと……………、どのようなお考えで行動されたのでしょうか？』

楓芽の声は冷たく、確固たる意志を感じさせるものである。

目の前にいる澄子に対して、あくまで礼儀正しく、その言葉には鋭い刃物のような力がこもっていた。

澄子は暫く黙っていた。

あの悪夢のような光景が頭の中で渦巻き、言葉がうまく整理できずにいた。

楓芽の冷たい視線と、その威圧的な雰囲気に圧倒されながらも、澄子は冷静に自分の心を落ち着けようとした。

澄子の心の中では、先ほどのやり取りに対する怒りや不満が募っていたが、それをここで口に出す勇気はなかった。

特に、楓芽の暴言が原因だったという理由を口にすることは、澄子にはあまりにもリスクが大きかったからだ。

一方、楓芽は黙って澄子の反応を待っている。

その顔には微かな冷笑さえ浮かんでおり、澄子の心の中に潜む不安や葛藤を見透かしているかのようだった。

やがて澄子は、口を開き、慎重に言葉を選びながら話し始めた。

澄子: 『楓芽さんが私に嫌味を仰るのを、お待ちしておりました』

澄子は言葉を選びながら、なるべく冷静に、しかしその口調には少しの震えが含まれていた。

これが自分の気持ちを全てぶつける最後のチャンスだと思っていたから、澄子はこの瞬間に全てを込めたのだった。

楓芽の反応は即座だった。

その冷静な表情のまま、目を細めて澄子を見つめると、その口からさらに冷たい声が紡がれた。

楓芽:『澄子さんに対して嫌味を申し上げる価値など、一体どこにあるのでしょうか？』　

その言葉はまるで氷の刃のように鋭く、澄子の心に深く刺さった。

楓芽の声は冷静そのものであり、何もかもを見透かしているかのような冷たさが含まれていた。

澄子の目の前に立つ楓芽の姿は、まるで厳格な裁判官が無罪と有罪を判定するかのような、冷徹で圧倒的な威厳を放っていた。

澄子はその問いかけに対して、言葉を失い、心の中で激しい葛藤を繰り広げていた。

どう答えるべきか、どう自分の立場を守るべきか、頭の中で色々なシナリオが駆け巡り、最終的には何も言えずに黙ってしまった。

澄子:『……………………』

楓芽:『私を意図的に怒らせたのには、何か理由があるはずです。それについてお話しいただけますでしょうか』

澄子は楓芽の問いに対して、言葉を探していたが、その間にも心の中でさまざまな感情が渦巻いていた。

楓芽の冷静な問いかけが、澄子の内面をさらに掘り下げようとしていることを感じ、澄子の全身が震えだした。

楓芽の目線は鋭く、冷静でありながらも、確実に澄子の内面を見透かしているかのような迫力がある。

澄子は何か答えなければならないというプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、ついに口を開いた。

澄子:『徳密さんを泣かせたことが、どうしても許せなかったのです』

楓芽:『私の嫌味な言葉が周囲に不快な思いをさせること、またそのような行為が良くないことは十分に自覚しております』

澄子:『自覚していながら、なぜあのような言葉をお使いになったのでしょうか？』

楓芽:『私の心に潜む悪しき感情………。きっと、澄子さんには、ご理解いただけないものでございます』

澄子:『………………』

楓芽:『それで、澄子さんは徳密さんのお力になりたいと思い、わざわざ私を怒らせるためだけに、皆の前で放屁されたのですか？』

澄子:『………………はい』

澄子はその言葉を慎重に紡ぎながら、心の中で自分の気持ちと向き合っていた。

徳密が泣いた日に自分が何もできなかったという事実に対する深い悔いがあった。

楓芽を許せなかったという思いは、澄子の中で非常に強く根付いていた。

楓芽は澄子の言葉を聞いた後、一瞬の沈黙に包まれた。

その後、少し溜息をつくと、その視線を優しくしながらも、その声には依然として冷静さを保ったまま話し始めた。

楓芽:『澄子さん、あなたは確かに優しい方です。そのことは心から認めます。しかし、優しさだけでは人を本当に助けることは難しいこともございます』

その言葉には、楓芽の深い経験と理解が感じられた。

優しさは確かに素晴らしいが、それだけでは問題を解決できないことを指摘するその言葉には、澄子に対する深い配慮と同時に厳しい現実が含まれていた。

楓芽:『徳密さんがどのように感じていらっしゃったかを考えたことはございますか？』

楓芽の問いは、まるで澄子の心の奥底に潜んでいた隠れた真実を引き出すかのように、鋭く的を射ていた。

澄子はその言葉を聞いて、驚きと共に心が揺れた。

これまで自分の行動が正しいと信じて疑わなかった澄子にとって、その問いは一種の衝撃だった。

徳密の気持ちを十分に理解しようとせず、ただ自分の信じる“優しさ”に従って行動していたことを思い知らされた瞬間であった。

楓芽はそのまま続けた。

楓芽:『他の方に助けを求めるよりも、自らの力で状況を乗り越えたいとお考えだったかもしれません。お手伝いをすることで、逆に自分が弱いと見られているのではないかとプライドをズタズタにされたと感じて傷つく方もいらっしゃいます。澄子さんの偏った善行は、徳密さんにとって余計なお世話であったかもしれません』

その言葉は澄子にとって、まさに心の奥深くに突き刺さるものであった。

楓芽の指摘は、澄子がこれまで意識していなかった視点からのものであり、その内容は澄子の心に重くのしかかった。

澄子はその瞬間、痛みを感じながらも、楓芽の言葉が徐々に胸に響いているのを実感した。

自分の行動がどれほど一方的で、自分の感情だけで決断を下してしまったのかを痛感し、深い後悔と共に、自分がどれだけ他者の気持ちを無視していたのかを自覚した。

徳密の気持ちを考えずに、自分の信じる“優しさ”に従って行動した結果、自分がどれだけ不適切だったのかを理解するのは非常に辛いことだった。

その瞬間、澄子の心の中で、これまでの行動に対する反省と新たな氣づきが交錯していた。

自分の行動が他者に与えた影響を真剣に考えなければならないということを理解し、これからの自分の対応にどう活かしていくべきかを深く考える必要があると感じた。

楓芽の言葉は、自分自身を成長させるための貴重な教訓であることを認識した澄子は、心の中で大きな転換期を迎えていた。

楓芽は澄子の表情をじっと見つめながら、言葉を続けた。

その視線は、まるで澄子の心の奥深くまで見透かそうとするかのように鋭かった。

楓芽:『これは私が嫌味を言うことで説得力が欠けるかもしれませんが、今後はぜひ相手の立場に立って物事を考えるようにしてください』

楓芽の声には、強い説得力とともに温かさが込められていた。

楓芽:『優しさは大切ですが、それをどう使うかがもっと重要です』

その言葉には、優しさが言葉だけの感情ではなく、状況に応じた適切な行動を伴うものであるようにという思いが込められていた。

楓芽の言葉は、澄子にとって新たな氣づきを促すものであり、これまでの行動がどれほど一方的だったのかを改めて考えさせるものであった。

楓芽:『徳密さんは強い方でございます。彼には彼なりの戦い方があるのです』

楓芽は澄子の心に届けようとするように語りかけた。

徳密が持つ強さや自立心を尊重することが、他者との関係においてどれほど重要であるかを教えようとしている。

楓芽の言葉は、澄子にとって自分自身の行動を振り返り、他者の尊厳を理解するための大切な指針となるものであった。

澄子はその言葉を聞いて、心の中で涙をこらえながら、小さな声で答えた。

澄子:『申し訳ございません。これから、より一層配慮するよう努めてまいります』

その声には、深い反省と悔いが込められていた。

自分の行動が他者に与えた影響を理解し、心から謝罪する気持ちが伝わってくるものであった。

楓芽はその澄子の姿に優しい表情を浮かべ、無言で近づくと、静かに澄子の肩に手を置いた。

肩にかかるその手の温もりは、楓芽の深い優しさが伝わり、澄子に対して心からのフォローを感じた。

楓芽の手のひらには、澄子がこの瞬間に直面している痛みや悔いを共有し、励ましの気持ちを伝えようとする温かさが込められていた。

楓芽:『失敗はどなたにもございます。しかし、その失敗から学び取ることで、次に進むことが可能となります。私も澄子さんの言葉を大切にいたします。実は、自分で自分を止められなかったことが非常に辛かったものです。もし澄子さんがいらっしゃらなかったら、私はさらに嫌な人間になっていたことでしょう……………。ご指摘いただき、ありがとうございました。これからも修行を続ける中で、多くのことを学び、成長していかれることを願っております』

楓芽の声は、優しさと共に励ましが感じられた。

その言葉には、失敗を恐れるのではなく、それを学びの機会として捉え、成長の糧とするという強いメッセージが込められていた。

楓芽は、澄子がこの経験を通じて成長することを願い、心からのサポートを約束しているようだった。

また、楓芽も自分の行動を見つめなおすと誓った。

楓芽の言葉は、前向きな未来を見据え、澄子が新たな自分を見つけるための励ましとなった。

修行を通じて学び、成長する過程で、澄子がもっと良い自分を目指すようにと、その優しい言葉で促していた。

澄子は楓芽の言葉に心から励まされ、静かに涙を拭いながら頷いた。

その涙は、自己反省から生まれたものであり、同時に新たな希望や決意の象徴でもあった。

これからの修行において、もっと慎重に、そして思いやりを持って行動することをお互いに心に誓い、新たなスタートを切る覚悟を決めた。

この瞬間、澄子の中で大きな転換が起こり、自分の成長を支えるための新たな意識を持つこととなった。

楓芽が再び口を開くと、その声には微かな真剣さとともに、確固たる意志が込められていた。

楓芽:『この件については、どうか他の方にはお話なさらないでください』

その言葉には、澄子に対する信頼が見て取れた。

楓芽の頼みには、ある種の重責が伴っていることが感じた。

澄子はその言葉に少し驚きながらも、冷静に質問を投げかけた。

澄子:『その理由をお伺いしてもよろしいでしょうか？』

楓芽は一瞬の間を置いて、言葉を慎重に選んでから話し始めた。

その表情には、申し訳ないという気持ちとともに、しっかりとした決意が滲んでいた。

楓芽:『見習い僧侶の皆さんにとって、今は特に修行が重要な時期でございます。中途半端な甘い考えでお寺にいらっしゃると、困ってしまいます。私が厳しい役割を果たさなければなりません。僧侶が涙を流された場合でも、手助けはいたしかねます。もしSOSが発せられましたら、私ではなく和尚様にご相談ください。僧侶の皆さんには死ぬまで私を鬼のような存在として目に焼き付けて生きてもらいます』

澄子:『あなたがそうお望みでしたら…………、私は誰にも申し上げません。お約束いたします』

楓芽:『ありがとうございます、澄子さん』

楓芽の言葉は、修行の重要性とその時期がどれほど意味深いものであるかを強調していた。

修行の過程での厳しさと、甘さがもたらす可能性のある問題についての深い理解が含まれていた。

この時期は、集中と真剣さが求められるため、何か問題が発生すると全体に影響を及ぼす可能性があるという認識が表れている。

澄子が想像していた楓芽の役割は思っていた以上の強い責任感が潜んでいたのだ。

自分の立場と責任を深く自覚し、その役割を全うするために必要な措置を講じていることが伝わってきた。

修行僧たちが自分の問題をどのように乗り越えるべきか、そして他者の助けを受けては自分のためにはならないという厳格な方針が徹底されていた。

楓芽は自分がどれほど厳しい立場にあるかを説明し、修行の一環として、自己解決能力を高める必要があることを強調していた。

修行の過程で問題が発生した際の対応についての明確な指針が徹底されている中で、和尚が最終的な判断を下した方が適切な対応ができると考えている。

その指示には、修行の中で直面するかもしれない困難な状況に対処するための、より高いレベルのサポートが必要であるという現実が反映されていた。

澄子は楓芽の言葉を静かに聞き、その内容に深く納得しながらも、心の中で新たな理解を得ていた。

楓芽の意図を理解し、これからの修行においてその重要性を認識した。

澄子は、修行の過程での困難や問題を乗り越えるためには、まず自分自身の成長と自己解決能力の向上が必要であることを再度深く感じ取った。

そして、楓芽の指導に従い、今後の修行をより一層真剣に取り組む決意を新たにした。

その後、澄子と楓芽が部屋を出ると、外の廊下に照明が灯り始め、静かな夜の雰囲気が漂っていた。

廊下の壁には、所々に置かれた灯篭が柔らかな光を放ち、その光が二人の足元を照らしている。

周囲には僅かな物音もなく、沈黙が支配する空間の中で、澄子は歩きながら心の中で複雑な思いを抱えていた。

澄子は楓芽の後ろ姿を見つめ、これまでの対話で目にした優しさがどこに行ったのか、ふと考えた。

その考えが澄子の心を占める中で、楓芽の顔をちらりと見上げた。

すると、楓芽の表情は先ほどの温かさとは一変し、冷たく厳しいものへと変わっていた。

楓芽の顔には、これまでの優しさや共感の痕跡は完全に消え去り、その代わりに厳格さと決意が感じられる厳しい表情が浮かんでいた。

目線は鋭く、冷静なまでに感情を排除し、自分がが持つ役割や責任を全うするために必要な強い意志がその顔に刻まれていた。

その表情は、まるでこれから直面するであろう困難や挑戦に対して、揺るぎない決意で燃えていた。

澄子は、その変わり果てた表情に一瞬戸惑いを覚えた。

先ほどの部屋で見た優しい顔とは全く異なり、今の楓芽の顔には冷徹さが漂っていた。

澄子の心には、楓芽がその優しさをもって自分に接していたのは、この瞬間だけだったのだということが、じわじわと染み込んでいった。

心の中で、その事実が次第に確信となり、深い感慨を呼び起こしていた。

楓芽:『私の役割はあくまで修行を導くことです。切り替われないなら忘れなさい』

その声が響く中で、楓芽の表情は一貫して冷徹なままだった。

楓芽の言葉には、先ほどの対話の中で示した柔らかさや共感の影は全く感じられなかった。

今の楓芽は、修行の厳しさを深く理解し、それを適切に伝えるために必要な厳しさを持つ者として、完全に変貌していた。

澄子は、その姿に圧倒されながらも、心の中で様々な思いを抱えていた。

楓芽の変わりように対して、無言の理解と共に、これから自分が直面するであろう修行の厳しさを改めて認識し始めていた。

その厳しさが、自分にとってどれほど大きな試練となるのかを理解し、それを乗り越えるための覚悟を決める必要があることを痛感していた。

そして、その一瞬、澄子は氣づいた。

楓芽が見せていた優しさや温かさは、この日だけの特別なものであり、今後の修行の中では、そのような優しさは存在しないかもしれないという現実に直面した。

楓芽の役割は、優しさを示すことではなく、厳しくも正しい道を示すことだと理解し、その認識が澄子の心に深く刻まれていた。

二人は、廊下を歩きながら、それぞれの考えを胸に秘めていた。

澄子は、楓芽の厳しい表情を目の当たりにしながら、これからの修行がどれほど厳しいものであるかを改めて認識し、それに対する覚悟を新たにした。

一方、楓芽は、その冷徹な表情のままで、修行の厳しさを受け入れる覚悟を持ち続けていた。

二人の間には、優しさと厳しさが交錯する中で、それぞれの役割を果たしながら、修行の道を歩んでいくという強い意志が感じられていた。

澄子にだけ見せた楓芽の優しい顔は、この日が最初で最後だったのだ。