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無怒

※突然の笑いをお誘いする箇所がございますので、どうぞご注意ください。

※電車やバス・飛行機など、公共の交通機関でご覧になる際は特にお氣をつけください。

※思わず笑ってしまうシーンがございますため、他の方がいらっしゃる場所でのご鑑賞はお控えいただけますようお願い申し上げます。

午後の時間が到来し、寺院の本堂にて午後のお勤めが始まろうとしていた。

荘厳な本堂の内部は、ひときわ深い静寂に包まれ、その空気は清浄無垢な霊的な香りで満たされていた。

澄子はその空間に身を置くことで、心の奥底から畏敬の念が湧き上がってくるのを感じた。

ここは、天台宗の教えに則った聖なる場であり、時折訪れるこの瞬間こそが、澄子にとって何よりも大切な儀式のひとときであった。


本堂の中央には、仏壇が置かれており、その荘厳さは見る者を圧倒するほどであった。

仏壇の前に置かれた三つの灯明は、暖かい光を放ち、その光が仏壇の内部を照らし出している。

灯明の炎が揺れるたびに、その光は本堂の壁にさまざまな影を映し出し、神秘的な雰囲気をさらに際立たせていた。


僧侶たちは本堂の奥に整然と並び、服装も僧衣に身を包み、頭を低くして真摯な姿勢で立っていた。

彼らの一糸乱れぬ姿勢と、その静かなる緊張感が、場の空気を一層引き締めている。

手には、経本がしっかりと握られ、指先がそのページを軽く押さえていた。


静けさが満ちた中で、僧侶たちが一斉に読経を始める。

僧侶たちの声が、深い調和と共に響き渡り、堂内にその音が広がっていった。

読経の旋律は、音程が高低を繰り返しながらも、どこまでも穏やかで調和の取れたものであり、心の奥深くに静かな安らぎをもたらしていた。

その声は、仏の教えが持つ無限の広がりを象徴するかのように、澄子の心の中に深く浸透していった。


澄子は、その神聖な読経の響きを聞きながら、自分自身がこの場に存在していることのありがたさに心から感謝した。

読経の声が、澄子の心を深く静め、目に見えない霊的な次元へと誘っていくような感覚を覚えていた。

澄子は、仏の教えが持つ壮大な広がりとその深遠さを感じ取り、己の存在とその意義について深く考えさせられていた。


澄子の心は、読経の響きと共に次第に静まり、未知の世界が広がっていくのを感じた。

仏教の教えが示す“空”の概念や、輪廻の教義、そして慈悲と智慧の道について、澄子はより一層の理解を深めようとしていた。

読経の中で浮かび上がる経文の一節一節が、澄子にとっての霊的な道しるべとなり、心の中で静かに、しかし確実に、その教えの奥深さを掴んでいくのであった。


この静寂に包まれた午後のひとときが、澄子にとっての霊的な成長の場となり、仏の教えに対する敬虔な思いがますます深まっていくのを感じながら、澄子はその心の静けさとともに、午後のお勤めが終わるまでの時間を、しっかりとその場に身を委ね、心からの感謝と共に過ごすのであった。


午後のお勤めが終わると、僧侶たちは一斉に頭を垂れて合掌し、静かに退席の準備を始めた。

その動作は、仏教の教えへの奉納の意を表していた。

合掌の動作には、心からの感謝と敬意が込められ、その背後には長い歴史と伝統が息づいていた。


澄子もその流れに従い、静かに合掌し、深い感謝の念を抱きながら立ち上がった。

澄子の心は、午後の自由時間を迎えるために庭に向かうその瞬間、安らぎと静寂に包まれていた。

庭に出ると、柔らかな秋の風が静かに吹き、心地よい香りが漂っていた。

その景色は、澄子の心に深い安らぎをもたらし、これからの修行の日々に対する思いを新たにするひとときであった。


やがて、午後の自由時間となり、僧侶にとって1日にのお楽しみでもあるおやつタイムが始まった。

僧侶たちは、それぞれの部屋から集まり、お寺の一角に設けられた和室に集まった。

この時間は、厳しい修行や日々のお勤めの合間に、心を落ち着け、リラックスする貴重なひとときであった。

和室には、温かいお茶と共に、心を和ませる和菓子が並び、その香りや味わいが、僧侶たちにとって心の充足感をもたらしていた。


澄子もまた、その場に招かれ、皆と共にお茶をいただくひとときを楽しんでいた。

最初は少し緊張していたが、僧侶たちが温かく、親しみやすい言葉をかけてくれるおかげで、次第にリラックスし、自然と打ち解けることができた。

会話は和やかであり、和室の穏やかな雰囲気の中で、心がほぐれていくのを感じていた。


その時、澄子はふと、退院した際に贈られた白い着物のことを思い出した。

その着物は、澄子が病から回復し、新たな人生を歩むために贈られたものであり、その清らかで美しい白は、澄子にとって非常に意味深いものであった。特に、その着物が僧侶たちの手で一つ一つ作られたものであると知り、感謝の気持ちがさらに深まっていた。


澄子は、皆の視線を集める中で、静かに口を開いた。


澄子:『お礼が遅くなりまして誠に申し訳ございません。本来であれば、皆様が集まられた食堂で最初にお礼を申し上げるべきでしたが、規則に従いすぎた結果、この場でお礼を申し上げる形となりました。この着物は、皆様が一針一針、心を込めてお作りくださったと伺い、深く感謝しております。皆様の温かいお気持ちが込められたこの着物は、私がこれからの新しい生活を迎えるにあたり、非常に大きな意味を持つものでございます。この着物は、皆様の愛とご支援が形となったものであり、仏教の教えに従い、今後の日々を一歩一歩歩んでいくための励みとなっております。これからもこの着物を大切にし、皆様からいただいた心の温もりを忘れずに、精進してまいります。誠にありがとうございました』


澄子の言葉が終わると、僧侶たちは澄子の深い感謝の気持ちに対して、温かい微笑みを浮かべながら応じた。

その微笑みには、澄子の心からの感謝に対する喜びと、澄子の新たなスタートを祝福する気持ちが込められていた。

おやつタイムのひとときが、澄子にとっても僧侶たちにとっても、心温まる交流の場となり、澄子の新しい生活に向けた大切な時間となった。


おやつタイムの和やかなひとときの中で、僧侶たちと澄子が心を通わせているとき、一人の僧侶、楓芽が冷ややかな表情を浮かべていた。

その顔には、どこか厳しさと同時に、深い洞察が見て取れるようである。

楓芽の目は澄子をじっと見据え、その口元はわずかに引き締められていた。


楓芽は、周囲の穏やかな雰囲気とは対照的に、冷静でありながらも鋭い言葉を紡ぎ始めた。


楓芽:『今、こんなところでお茶をお飲みになっている場合ではないのではございませんか。あなたがこちらのお寺のお土産売り場でお世話になっている先輩に、いつご挨拶されるのでしょうか。何日間、一人で働いていらっしゃると思っておられるのですか?他人から言われて初めて行動されるなんて、本当に情けない』


楓芽の言葉は、冷ややかでありながらも、澄子にとっては正しいと感じていた。

だが、時にはその言葉が棘となって相手に伝わることもある。

一言多い楓芽に腹を立てたり泣いたりすれば、楓芽の思うツボになると考えたが、澄子は、まずは楓芽の指摘を受け入れなくてはと心の中で冷静さを保とうと心がけた。

周囲の僧侶たちも、楓芽の発言に一瞬驚いた表情を見せたが、その後、再び静けさを取り戻そうとしていた。


澄子は、楓芽の言葉が持つ意味を深く理解しようと、心を静めて楓芽を見つめた。

楓芽の厳しい言葉には、やはり先輩としての責任の重みを感じさせられるものがある。


澄子は、息を整え、落ち着いた声で応えた。


澄子:『ご指摘ありがとうございます。おっしゃる通り、先輩へのご挨拶が不十分でした。その点については、深く反省し、これから一つ一つの行動に対して、もっと心を込めて取り組む所存です』


その言葉には、楓芽に対する敬意と、自らの行動を見つめ直す決意が込められていた。


澄子の言葉が終わると、和室には再び静かな空気が流れ始めた。

楓芽もその応答に対して微かに頷き、その目には少しの柔らかさが宿ったように見えた。

楓芽の厳しさが、澄子の誠実な姿勢によって和らいだ瞬間であった。

周囲の僧侶たちもその場の空気が改善されるのを感じ取り、再び和やかな雰囲気に戻った。


澄子は、その後も引き続き、僧侶たちとの交流を大切にしながら、自らの修行に対する態度を見直し、改善していく決意を新たにした。

心の中には、楓芽の厳しい言葉が教えてくれた、修行の真髄と自らの成長への道筋がしっかりと刻まれていた。


だが、澄子は徳密に対する楓芽の暴言を忘れてはいなかった。


澄子は、厳粛なおやつタイムの後、心静かに部屋から退出し、お寺の境内にあるお土産売り場へと向かい、歩き始めた。

その静かな歩みには、心の中で確かめた決意と、僧侶たちとの交流を通じて得た教訓が反映されている。

庭を通り過ぎながら、澄子は自然の美しさと、その中に宿る仏教の教えに思いを馳せていた。


お土産売り場に到着すると、そこには温かみのある空気が漂っていた。

売り場の内部には、様々な品々が整然と並べられており、その中には手作りの品々や、仏教の象徴である品々が並んでいた。

澄子の心は再び落ち着きを取り戻し、日々の修行に向けた新たな意欲を高めていた。


その時、照子が店のカウンター越しに澄子を迎え入れてくれた。

照子の顔には優しさと温かさが溢れており、澄子を見つけるとその笑顔がさらに広がった。


照子:『まぁ、澄子さんじゃないの。もう身体は大丈夫なの?』


澄子は、その言葉に感謝の気持ちを込めながら答えた。


澄子:『はい、おかげさまで。ご挨拶が遅れてすみません』


その返答には、心からの感謝と共に、照子に対する敬意が込められていた。

澄子は、修行の合間にもかかわらず、自分を気にかけてくれる人々の存在に深い感謝の念を抱いていた。


照子は、その反応に優しく微笑みながら言葉を続けた。


照子:『いいんですよ、そんなことを氣にしなくても。元氣になってくれて本当に良かった。今日からお寺で生活するんでしょう。大変そうだけど、頑張ってね』


澄子にとってその言葉は大きな慰めとなっていた。


澄子は、照子の言葉に感謝し、そっと答えた。


澄子:『ありがとうございます。バイトも明日から再開します』


その言葉には、新たな生活に対する意気込みと、これからの修行に対する前向きな姿勢が込められている。

澄子は、ここでの修行と仕事を通じて、さらに成長し、仏教の教えに従っていく決意を新たにした。


照子との会話を終えた後、澄子は改めて自分の心と向き合いながら、お土産売り場を後にし、修行の場に向かって歩き出した。

澄子の心には、照子からの温かい励ましと愛情がしっかりと刻まれており、それがこれからの修行と生活の励みとなることを感じていた。

お寺での新しい一歩を踏み出す澄子の姿には、仏教の教えを胸に日々を歩んでいこうとする決意が宿っていた。


澄子が部屋に戻ると、茶菓子タイムの和やかなひとときはまだ終わっていなかった。

僧侶たちは和やかな雰囲気の中でお菓子やお茶を楽しんでいる最中であった。

部屋には、基づく穏やかな空気が漂っており、その静かなひとときに澄子はしばらく身を任せることにした。


しかし、澄子の心には常に徳密に対する楓芽の暴言に対する反発心が募っていた。

楓芽の冷ややかな言葉が心に残り、少しの抗議心と、少しのいたずら心が芽生えていた。

澄子は、その気持ちを発散するための方法を考え、部屋の中での行動を慎重に計画した。


茶菓子タイムの終わりが近づく中、澄子は皆が次第にお菓子やお茶を飲み終え、落ち着きを取り戻しているのを確認した。

その穏やかな空気の中で、澄子の心は次第に大胆な計画に向かっていった。

澄子の様子がおかしいと氣づいた徳密は体調を壊したのではないかと心配していた。

澄子は深呼吸をし、心を落ち着けながらも、その計画を実行に移す決意を固めた。


静かに、しかし確実に、澄子はこれまでにため込んでいた感情の爆発を計画した。

周囲の僧侶たちが和やかに談笑し、リラックスした雰囲気の中で、澄子は決定的な瞬間を待った。


そして、ついに、その時が来た。


澄子は静かに息を整え、集中を高めた。

そして、意を決して、部屋の中に響くほどの豪快な放屁を行った。


その瞬間、部屋の空気は一変した。


『逃げろーっ!爆発だーっ!』


大きな音に僧侶たちが大きく驚き、慌てて逃げ出そうとしている。


楓芽:『お待ち。これは何者かによる放屁です。なんとも、みっともない行為……』


僧侶たち:『えっ?!』


楓芽は、その突如の放屁の音に激しく反応し、表情が一瞬で険しくなった。


楓芽:『誰ですか!こんな所で!』


楓芽の声には、明らかに激怒と驚きが込められており、その声は部屋の中で響き渡った。

その目には、澄子の計画通りの強い怒りと困惑が浮かんでおり、周囲の空気が一瞬で緊張感に包まれた。


澄子:『ほひひひひひ、私です。皆が食べ終わったのをちゃんと確認してからしたので問題ないですよね。良いじゃないですか、少しくらい』


楓芽:『みっともない!』


澄子:『…………………(おかしいな、ちっとも暴言を吐いてくれん。これじゃあレディーとして、ただの赤っ恥やん…もう………)』


僧侶たちは、その突発的な放屁に驚きと困惑の表情を見せつつも、澄子の行動に対しては、堪えきれずに笑いをこらえる姿が見られた。

中には、眉をひそめて呆れている者や、表情を崩さずに静かに笑いをこらえている者、静かに窓を開けて喚起する者も居た。

その表情からは、心の奥底にある本心と、楽しさが伝わってくるようであった。


澄子は自分の行動が予想以上に波紋を呼び、楓芽の怒りを引き起こしたことを認識しながら、心の中でその反響を受け入れることにした。

だが、楓芽は澄子に暴言を吐かなかった。

ならば、怒りを蓄積していく方法で暴言を吐かせようとしたが、その行為そのものが無意味であることに氣づいた。


澄子は、自らの行動が周囲に与えた影響を考えながら、再び心を静め、修行の一環としての自らの態度を見つめ直すことを決意した。

その出来事は、澄子にとって修行の一部であり、仏教の教えに基づく自己反省の機会となることを願いながら、澄子は再び日々の修行に専念する決意を新たにした。


楓芽:『澄子さん、何をくつろいでいらっしゃるのですか。天ちゃんにお礼はお伝えしましたか?天ちゃんが居なければ、今のように生活を続けることはできなかったのですよ。スーパースターの石像にもご挨拶されましたか?大門、本堂、お地蔵様、他にも沢山あるんですからね!』


澄子:『ほーい』


楓芽:『観光客の前で放屁しないで下さいよ!みっともございませんからね!』


澄子:『ほーい』


徳密:『ぷふっ(笑)』


澄子は楓芽とは屁で距離が縮まったような、そんな氣がした。

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