浄化と再生
澄子は病室の静けさに包まれながら、ゆっくりと法華経の写本を開いた。
手の中にあるのは、最蔵から借りたその古びた経典である。
病の床にありながらも、澄子の心はすでにこの経典と深い結びつきを持っていた。
澄子が幼い頃、お父さんが法華経の話をよくしていた。
そのときの教えがどれほど澄子の心に深く刻まれていたか、今、痛感していた。
お父さんが語った言葉の中には、数々の試練や苦しみを超えて真実を見出す力が宿っていたのだ。
澄子はその思いを胸に抱き、病の苦しみの中でも法華経の言葉を支えにしていた。
澄子の目がページを追うにつれて、経典の中の言葉が一つ一つ心に響いてくる。
特に方便品の章が深く響いた。
法華経の中で、仏が世に現れる理由はただ一つ、衆生を救うためであるという教えは澄子にとって大きな影響を受けた。
澄子:『諸仏はただ一大事因縁をもってこの世に出現した。それは、衆生を救うために他ならない…』
澄子はその言葉を口に出しながら、深い安らぎと希望を見出した。
自分の苦しみや試練もまた、大きな光に向かっていく旅路なのだと考えるようになった。
法華経の教えが示す一大事因縁の言葉が、少しずつ澄子の心に明らかになってきた。
病室の窓から差し込む光の中で、澄子は毎日少しずつ回復していった。
澄子が目を閉じて経典を読み進めるその姿に、最蔵は深い感銘を受けた。
澄子の回復の過程を見守りながら、最蔵もまた、法華経の教えの力を実感していた。
最蔵:『治療が終わりましたら、新しいお勉強セットをご用意いたします』
澄子:『ありがとうございます』
最蔵のその言葉には、澄子に対する深い思いやりと信仰が込められていた。
ある朝、澄子はベッドからゆっくりと起き上がり、病室の窓から外の風景を眺めた。
朝日が昇る空の下、鳥たちがさえずりながら飛び交っていた。
自然の美しさと、そこに広がる生命の息吹に触れた澄子は、心の中で深呼吸をした。
その瞬間、自分が一つの光の中で生きているという感覚を覚えた。
法華経の教えが、自分を包み込む光となっていることを感じたのだ。
澄子はその気持ちを抱えながら、自分の中に確かな決意を見つけた。
病気を乗り越え、自分の道をしっかりと歩んでいくという強い思いが芽生えた。
法華経の教えに支えられながら、前を向いて生きるという覚悟を新たにしたのだった。
最蔵が再び澄子の病室を訪れたとき、澄子はその火を宿した笑顔で迎えた。
澄子:『最蔵さん、法華経のおかげで、心がとても落ち着きました。これからも、その教えを大切にしながら治療を続けたいと思います』
澄子は心からの感謝を込めて言った。
最蔵は澄子の言葉に深く頷き、優しく応じた。
最蔵:『澄子様、それは本当に素晴らしいことです。法華経は私たちの心に光を灯してくれる大切な教えです。どうか、その光を胸に無理をなさらず、ご自身の道をゆっくりと歩んでください』
その言葉には、最蔵の誠実な思いと、澄子への真摯な励ましが込められていた。
澄子は再び経典を手に取り、最蔵に感謝の意を示しながら微笑んだ。
法華経の教えに支えられながら、これからも静かに治療を続け、自らの内面と向き合いながら歩んでいく決意を新たにしたのだった。




